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第十六部・クリスマス 編

カスミの友達ってどんな子?

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「そんな事ないですよ。……もしあるとしたら、メイクさんに教えて頂いたお陰です」

「ふぅん? けど、実際メイクしたのはカスミだよね?」

 双子は呼吸するように女性を褒めているイメージがあるが、実際美形の彼らに褒められると、どうしても照れてしまう。

「う、うぅー……。ど、どうしたんですか。行きたい場所でもあるんですか?」

 下心を探ると、彼は舌を鳴らしてから天井を仰いだ。

「あれ、俺ってそういう風に見えてたのかー。たまに本気で褒めるとこうなるのかー」

「お前らは日頃の行いが悪いからだ」

 佑が呆れ返った時、アミューズが運ばれてきた。

 なんと缶の蓋を開けるとキャビアがぎっしり詰まった一品で、スプーンですくって食べると下には野菜のジュレとクリームチーズが入っている。

「香澄、うまいか?」

「ん、美味しい」

 にっこり笑うと、佑も嬉しそうに微笑んでくれる。

 以前はキャビアなど食べ慣れず、良さが分からない気がしていたが、最近はちょくちょく口にする機会が増えて美味しさが分かってきた。

 プチプチとしょっぱさ、そしてチーズと野菜の風味を味わっていると、クラウスが話しかけてきた。

「カスミさぁ、今度一緒にフランス行こうよ。場所によっては宮殿みたいな所で食べられるし、行ってみる価値はあると思うよ。国内で食うのもアリだけど、場所を変えると楽しいし、経験積みなって」

 クラウスに言われ、香澄は佑とフランスに行った時の事を思いだす。

「そうですね……。パリに行った時、星付きのお店には行かなかったかもです。でもホテルのお部屋で食べたクレープやガレット、カフェとか、お肉も美味しかったですよ」

 香澄返事を聞き、双子は「肉……」と呟く。

「肉はカスミらしくていいんだけどさ。問題はタスクだよ。パリに連れてったなら、たんまり美味いもん食わせてやりなよ。この子食いしん坊なんだろ? 可哀想じゃないか。ホテルに籠もってイチャついてる場合じゃないだろ」

「あれっ? 私、そんな食いしん坊扱いですか? 可哀想まで言わなくても……」

 アロイスの言葉に香澄は焦りを覚える。

「佑さんは悪くありません。私の望みを叶えてくれました。ラーメンも食べられたから満足だったし。それに着いた直後は、何か用事があるみたいで忙しそうだったし……」

「あー……」

 そう言うと、双子は合点のいった表情になって黙った。

 彼らの様子を見て、香澄は双子も事情を知っているのだとピンと察した。

(でも佑さんが話そうとしないのなら、聞かないほうがいいんだろうな。〝人に会ってきた〟って、いい意味じゃない場合もあるし)

 一皿目の前菜は、牡丹海老と西洋葱に柚子風味のソースを添えた物だ。

 カトラリーを手に取り、香澄は雰囲気を変えるために話題を変える。

「次は前回行けなかった所に行きたいです。旅行会社のパンフレットを見ると、綺麗な村があるみたいだし、モン・サン=ミッシェルにも興味があります! あそこ、オムレツが名物みたいですね。ふわっふわの、揺すったらプルプルするやつ。食べてみたいです!」

 希望を述べると、双子はケラケラ笑う。

「あはは! カスミは食べる事ばっかだねぇ。ソコが可愛いんだけど」

「け、景色も楽しみですよ? もともとは修道院で、干潟にあるんでしたっけ? テレビで場所によっては底なし沼みたいになってる所があるって、言っていました」

「そうそう。嵌まった人をレスキューするための見回りもいるよ」

 話している間にも、マティアスは黙々と前菜を食べている。

「ねぇ、今回会えるカスミの友達ってどんな子?」

 アロイスに尋ねられ、香澄はパッと笑顔になった。

「麻衣って言うんです。私の高校時代からの親友ですよ」

「ふーん? 仲良くなりたいな!」

 焼きたてパンが出されたあと、二皿目の前菜、鮑のクリーム煮がサーブされる。
 柔らかな鮑とクリームの優しい味わいを楽しみつつ、香澄は親友を思いだしにっこりして言う。

「麻衣はハッキリした子ですね。人の好き嫌いもそうかもです」

「「お~」」

 双子は面白い事を聞いたという表情になり、顔を見合わせてニヤッと笑う。

(でも麻衣はこの三人の事、あまり好きじゃないっぽいんだよな……。私が色々話しちゃったから……)

 これから年末年始を一緒に過ごすのに、ギクシャクしたくない。

(麻衣はちゃんと謝ったら怒りを引きずらない人だけど、お二人やマティアスさんと会うのは初めてだし、喧嘩腰にならないといいんだけど……)

 考えていると、三皿目の前菜のフォアグラが出された。
 大きな椎茸の上にソテーされたフォアグラがあり、上には黒トリュフがのっている。

 柔らかで香りのいいそれを食べつつ、香澄は「言いづらいけど……」と思いながら三人に伝えておく。
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