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第十六部・クリスマス 編
いい年末年始にしましょうね
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三人ともダークスーツでキめ、とても格好いい。
旅行先なのにスーツやシャツ、革靴などを用意できるのは流石だ。
手首からチラッと覗いているのは、恐らく数百万はくだらない高級腕時計だろう。
(いまだに、こんな人たちと付き合いがあるのが信じられない……)
そう思いながら、香澄は引かれた椅子に座り、アロイスに「こんばんは」と微笑みかけた。
「カスミ、今日は一際可愛いね? どこの服?」
目ざといクラウスが言い、佑がいわゆるどや顔で答える。
「俺がこの日のために作った」
「えぇ……」
途端に双子はテンションの下がった顔になり、「いやちょっとカスミ立ってみて?」とワンピースの品定めを始めた。
香澄は双子に言われるがまま、クルリと回ったり腕を上げたり体をひねってみせる。
「ふぅーーーーーん……」
文句をつける場所もない完璧なワンピースだと理解したあと、双子は悔し紛れに大きな「ふーん」を言う。
「まぁ、タスクにしてはいいんでない? 僕ならもっといい物作るけどね」
「言ってろ。香澄、飲み物は何がいい?」
尋ねられ、香澄は慌てて座ってメニューを覗く。
「シャンパンやワインは分からないから、佑さんにお任せする。酔いそうになったらジュース頼んでもいい?」
「ご自由に」
そのあと佑はスラスラとシャンパンやワインを注文するのだが、香澄には呪文を言っているようにしか思えない。
ぼんやりとしているうちに、オーダーは終わって部屋に五人だけになった。
「タスクー、今日から世話んなるね」
「ホテルの荷物、お前んトコに運ぶよう指示しておいたから」
「俺も世話になる」
双子とマティアスが口々に言い、佑は観念してうなだれる。
そんな彼の腕をポンポンと叩き、香澄は彼らに言う。
「いい年末年始にしましょうね。今年は貴恵さんが年越し蕎麦を打ってくれるみたいです」
「やったね! 僕、ソバ好きだよ。沢山作ってほしいって言っておこーっと」
クラウスに微笑み返してから、香澄はマティアスに話題を振る。
「マティアスさんはお蕎麦大丈夫ですか? アレルギーとかありませんよね?」
「ああ、大丈夫だ。ガレットも普通に食べられる」
「あぁ、そう言えばガレットってお蕎麦でしたよね。……あー、パリで食べたクレープ美味しかった……」
ポロリと零すと、双子が怒濤の勢いでまくしたてる。
「ねぇ! パリって言ったら僕らの所からすぐじゃん! 今度、僕らとも遊ぼうよ。パリなんて庭だよ?」
「俺たち、パリにも家持ってるから、そこに好きな時に泊まっていいよ?」
「え? あ、……はい。……はぁ……」
「『はい』って言った! ゲンチ取ったからね!?」
「佑さんも一緒なら、いつでも」
にっこり微笑む香澄は、いい加減双子の扱いが分かってきている。
「えぇ~? そいつも一緒?」
「セーヌ川にぶち込んでいいならいいよ?」
途端に難色を示す双子に苦笑いしつつ、香澄は水を一口飲んだ。
「札幌、どうでした? 美里ちゃんに会いました?」
「うん。『浜梨亭』のスイーツ買ってきたから、あとであげる」
「ありがとうございます」
「ミサトはね~。んー、前よりは分かり合えたかな? やっぱり突然『付き合いたい』って言ったから無視されたみたいだけど、ようやくスタートラインに立てたっていうか」
「良かったですね。本気でお付き合いできそうですか?」
香澄の質問を聞いて、双子は顔を見合わせる。
「まー、僕らもじっくり落としていくって初めてなんだよね。今までが今までだから、あんまりミサトが焦らすと暴走しちゃう……かもしれない。なるべく大人のヨユウを見せたいんだけど」
「相手の反応を見ながら、『これはしてもいいかな? 駄目かな?』って模索してくの、新鮮だから楽しいけど、あんまり頑なだと二人で押し倒すかも」
穏やかではない言葉に、香澄はビクッとする。
「そ、それはやめてあげてください! 男性二人に押し倒されるなんて恐怖ですよ。そういう事は、美里ちゃんの気持ちを確かめてからです。いいですか? それやったら、絶対に嫌われますからね? 嫌われるというか、怖がられます。警察案件です」
「分かってるけどさー」
双子は同じタイミングで下唇を出し、ぶーたれる。
旅行先なのにスーツやシャツ、革靴などを用意できるのは流石だ。
手首からチラッと覗いているのは、恐らく数百万はくだらない高級腕時計だろう。
(いまだに、こんな人たちと付き合いがあるのが信じられない……)
そう思いながら、香澄は引かれた椅子に座り、アロイスに「こんばんは」と微笑みかけた。
「カスミ、今日は一際可愛いね? どこの服?」
目ざといクラウスが言い、佑がいわゆるどや顔で答える。
「俺がこの日のために作った」
「えぇ……」
途端に双子はテンションの下がった顔になり、「いやちょっとカスミ立ってみて?」とワンピースの品定めを始めた。
香澄は双子に言われるがまま、クルリと回ったり腕を上げたり体をひねってみせる。
「ふぅーーーーーん……」
文句をつける場所もない完璧なワンピースだと理解したあと、双子は悔し紛れに大きな「ふーん」を言う。
「まぁ、タスクにしてはいいんでない? 僕ならもっといい物作るけどね」
「言ってろ。香澄、飲み物は何がいい?」
尋ねられ、香澄は慌てて座ってメニューを覗く。
「シャンパンやワインは分からないから、佑さんにお任せする。酔いそうになったらジュース頼んでもいい?」
「ご自由に」
そのあと佑はスラスラとシャンパンやワインを注文するのだが、香澄には呪文を言っているようにしか思えない。
ぼんやりとしているうちに、オーダーは終わって部屋に五人だけになった。
「タスクー、今日から世話んなるね」
「ホテルの荷物、お前んトコに運ぶよう指示しておいたから」
「俺も世話になる」
双子とマティアスが口々に言い、佑は観念してうなだれる。
そんな彼の腕をポンポンと叩き、香澄は彼らに言う。
「いい年末年始にしましょうね。今年は貴恵さんが年越し蕎麦を打ってくれるみたいです」
「やったね! 僕、ソバ好きだよ。沢山作ってほしいって言っておこーっと」
クラウスに微笑み返してから、香澄はマティアスに話題を振る。
「マティアスさんはお蕎麦大丈夫ですか? アレルギーとかありませんよね?」
「ああ、大丈夫だ。ガレットも普通に食べられる」
「あぁ、そう言えばガレットってお蕎麦でしたよね。……あー、パリで食べたクレープ美味しかった……」
ポロリと零すと、双子が怒濤の勢いでまくしたてる。
「ねぇ! パリって言ったら僕らの所からすぐじゃん! 今度、僕らとも遊ぼうよ。パリなんて庭だよ?」
「俺たち、パリにも家持ってるから、そこに好きな時に泊まっていいよ?」
「え? あ、……はい。……はぁ……」
「『はい』って言った! ゲンチ取ったからね!?」
「佑さんも一緒なら、いつでも」
にっこり微笑む香澄は、いい加減双子の扱いが分かってきている。
「えぇ~? そいつも一緒?」
「セーヌ川にぶち込んでいいならいいよ?」
途端に難色を示す双子に苦笑いしつつ、香澄は水を一口飲んだ。
「札幌、どうでした? 美里ちゃんに会いました?」
「うん。『浜梨亭』のスイーツ買ってきたから、あとであげる」
「ありがとうございます」
「ミサトはね~。んー、前よりは分かり合えたかな? やっぱり突然『付き合いたい』って言ったから無視されたみたいだけど、ようやくスタートラインに立てたっていうか」
「良かったですね。本気でお付き合いできそうですか?」
香澄の質問を聞いて、双子は顔を見合わせる。
「まー、僕らもじっくり落としていくって初めてなんだよね。今までが今までだから、あんまりミサトが焦らすと暴走しちゃう……かもしれない。なるべく大人のヨユウを見せたいんだけど」
「相手の反応を見ながら、『これはしてもいいかな? 駄目かな?』って模索してくの、新鮮だから楽しいけど、あんまり頑なだと二人で押し倒すかも」
穏やかではない言葉に、香澄はビクッとする。
「そ、それはやめてあげてください! 男性二人に押し倒されるなんて恐怖ですよ。そういう事は、美里ちゃんの気持ちを確かめてからです。いいですか? それやったら、絶対に嫌われますからね? 嫌われるというか、怖がられます。警察案件です」
「分かってるけどさー」
双子は同じタイミングで下唇を出し、ぶーたれる。
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