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第十六部・クリスマス 編
双子とマティアスが待つレストランへ
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「ワンピースも、何もかも準備してくれてありがとう」
「いいや。着たい服があったかもしれないのに、俺が用意した物を着てくれてありがとう」
バッグも仕事用の物から、佑が用意した物に貴重品だけ入れ替えてある。
ラムレザーでできたチェーンショルダーバッグは、誰もが知るハイブランドの物だ。
「……うん、可愛い。世界一綺麗だ」
佑は幸せそうに微笑むと、香澄の頬に唇を押しつける。
「佑さんも格好いいよ」
佑はダークスーツの上に黒いチェスターコートを着て、グレンチェックのマフラーを軽く巻いていて、シンプルなのにどこから見ても完璧だ。
「ありがとう。香澄をエスコートするのに、俺が不抜けた格好をしていたらいけないからな」
上品に微笑んだ佑は、香澄に褒められても調子に乗らず謙遜もしない。
彼は世界中の人に「格好いい」と言われる人だ。
加えてどんなアイテムや色が、自分を魅力的に見せるか熟知している。
この上なくキメた彼が格好いいのは当たり前なのだが、驕ったところがないのは驚くべき事だし、そんな彼を改めて好きになる。
やがてエレベーターは地下駐車場に着いた。
「お疲れ様です。これ、どうぞ」
佑は警備員に、コートのポケットから出した缶コーヒーを手渡した。
直立不動で立っていた警備員は、それを受け取って笑顔になる。
「ありがとうございます」
「すみません、御劔社長」
お礼を言った二人に、佑は微笑みかけた。
「ささやかですが、これで体を温めてください」
「社長と赤松さんも、良い夜を」
嬉しそうに笑う警備員に会釈をし、二人は車に向かう。
車の前には小金井と小山内、呉代が待機していた。
「お疲れ様です。渋滞状況を調べましたが、ご予約の時間には間に合うと思います」
「お願いします」
小金井に言って、佑は香澄を先に座らせ、自分はその隣に座る。
すぐに全員乗ったあと、車が発進した。
「明日、クリスマスイベント当日だね」
明日はTMタワーのホールでイベントが行われる。
この日のためにイベント会社と計画を立てていた一大行事だ。
佑も出るので警備員の数も大幅に増やし、万全に備えている。
今日の業務も、ほとんどが明日のイベントの打ち合わせやリハーサルだった。
「没案になった、お立ち台の上からお菓子投げるの、餅まきみたいだよね」
香澄がクスクス笑う。
没になった案は、佑がラッピングされたアイシングクッキーを投げるというものだった。
さすがに大勢いる状態で人がドッと押し寄せる事があるのはまずいので、それは没になった。
しかし案としては面白い。
佑も餅まきと言われ、ぶふっと笑う。
「餅まきって言うんじゃない」
「けど、佑さんからクッキーやマカロンをもらいたい女子は大勢いるだろうね。お餅でも。いっその事、ファンの事も考えてドームで餅まきやればいいのに」
「俺はアイドルか」
佑に突っ込まれて香澄はケタケタ笑い、彼も笑う。
「司会者の芸能人の女の子、佑さんを見てうっとりしてたねぇ」
「…………ちょっと前まで学生だった子に興味はないよ」
香澄がニヤニヤしてからかうと、佑は嫌そうな顔をして言い、逆にやり返す。
「お笑い芸人さんだって、香澄を見て鼻の下を伸ばしていたじゃないか」
「そんな事ないもん」
そのやり取りを、助手席で呉代が「犬も食わねぇッスわ」と思っていたのを二人は知らない。
そうこうしているうちに、予約時間前にはレストランに着く事ができた。
ヨーロッパ調の館をイメージしたレストランは、ライトアップされていてムードがある。
正面階段を上がると、中から男性が出て「いらっしゃいませ」と迎え入れてくれた。
「予約していた御劔です。連れのクラウザー二名とシュナイダーは来ていますか?」
「お待ちしておりました。お連れ様もお待ちです。まずコート類をお預かりしますね」
クロークでコートを預け、二人は上階に案内された。
レストランの内部もクラシックなムードで、足元には深紅の絨毯が敷かれてある。
アンティークなランプが柔らかな光を灯し、ドア一枚隔てただけなのに別世界に感じた。
「こちらの個室になります」
男性がノックしてドアを開くと、すぐ目に入ったのは全面のフランス窓だ。
窓の向こうには夜景と東京タワーが見える。
そして双子が声を掛けてきた。
「おー、何とか間に合ったみたいだね」
「先に一杯引っかけてるよ」
白いテーブルクロスが掛けられたテーブルを、アロイス、クラウス、マティアスが囲んでいて、もうシャンパンを開けていた。
「いいや。着たい服があったかもしれないのに、俺が用意した物を着てくれてありがとう」
バッグも仕事用の物から、佑が用意した物に貴重品だけ入れ替えてある。
ラムレザーでできたチェーンショルダーバッグは、誰もが知るハイブランドの物だ。
「……うん、可愛い。世界一綺麗だ」
佑は幸せそうに微笑むと、香澄の頬に唇を押しつける。
「佑さんも格好いいよ」
佑はダークスーツの上に黒いチェスターコートを着て、グレンチェックのマフラーを軽く巻いていて、シンプルなのにどこから見ても完璧だ。
「ありがとう。香澄をエスコートするのに、俺が不抜けた格好をしていたらいけないからな」
上品に微笑んだ佑は、香澄に褒められても調子に乗らず謙遜もしない。
彼は世界中の人に「格好いい」と言われる人だ。
加えてどんなアイテムや色が、自分を魅力的に見せるか熟知している。
この上なくキメた彼が格好いいのは当たり前なのだが、驕ったところがないのは驚くべき事だし、そんな彼を改めて好きになる。
やがてエレベーターは地下駐車場に着いた。
「お疲れ様です。これ、どうぞ」
佑は警備員に、コートのポケットから出した缶コーヒーを手渡した。
直立不動で立っていた警備員は、それを受け取って笑顔になる。
「ありがとうございます」
「すみません、御劔社長」
お礼を言った二人に、佑は微笑みかけた。
「ささやかですが、これで体を温めてください」
「社長と赤松さんも、良い夜を」
嬉しそうに笑う警備員に会釈をし、二人は車に向かう。
車の前には小金井と小山内、呉代が待機していた。
「お疲れ様です。渋滞状況を調べましたが、ご予約の時間には間に合うと思います」
「お願いします」
小金井に言って、佑は香澄を先に座らせ、自分はその隣に座る。
すぐに全員乗ったあと、車が発進した。
「明日、クリスマスイベント当日だね」
明日はTMタワーのホールでイベントが行われる。
この日のためにイベント会社と計画を立てていた一大行事だ。
佑も出るので警備員の数も大幅に増やし、万全に備えている。
今日の業務も、ほとんどが明日のイベントの打ち合わせやリハーサルだった。
「没案になった、お立ち台の上からお菓子投げるの、餅まきみたいだよね」
香澄がクスクス笑う。
没になった案は、佑がラッピングされたアイシングクッキーを投げるというものだった。
さすがに大勢いる状態で人がドッと押し寄せる事があるのはまずいので、それは没になった。
しかし案としては面白い。
佑も餅まきと言われ、ぶふっと笑う。
「餅まきって言うんじゃない」
「けど、佑さんからクッキーやマカロンをもらいたい女子は大勢いるだろうね。お餅でも。いっその事、ファンの事も考えてドームで餅まきやればいいのに」
「俺はアイドルか」
佑に突っ込まれて香澄はケタケタ笑い、彼も笑う。
「司会者の芸能人の女の子、佑さんを見てうっとりしてたねぇ」
「…………ちょっと前まで学生だった子に興味はないよ」
香澄がニヤニヤしてからかうと、佑は嫌そうな顔をして言い、逆にやり返す。
「お笑い芸人さんだって、香澄を見て鼻の下を伸ばしていたじゃないか」
「そんな事ないもん」
そのやり取りを、助手席で呉代が「犬も食わねぇッスわ」と思っていたのを二人は知らない。
そうこうしているうちに、予約時間前にはレストランに着く事ができた。
ヨーロッパ調の館をイメージしたレストランは、ライトアップされていてムードがある。
正面階段を上がると、中から男性が出て「いらっしゃいませ」と迎え入れてくれた。
「予約していた御劔です。連れのクラウザー二名とシュナイダーは来ていますか?」
「お待ちしておりました。お連れ様もお待ちです。まずコート類をお預かりしますね」
クロークでコートを預け、二人は上階に案内された。
レストランの内部もクラシックなムードで、足元には深紅の絨毯が敷かれてある。
アンティークなランプが柔らかな光を灯し、ドア一枚隔てただけなのに別世界に感じた。
「こちらの個室になります」
男性がノックしてドアを開くと、すぐ目に入ったのは全面のフランス窓だ。
窓の向こうには夜景と東京タワーが見える。
そして双子が声を掛けてきた。
「おー、何とか間に合ったみたいだね」
「先に一杯引っかけてるよ」
白いテーブルクロスが掛けられたテーブルを、アロイス、クラウス、マティアスが囲んでいて、もうシャンパンを開けていた。
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