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第十六部・クリスマス 編
十二月二十三日
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「明日から予定通り、お二人とマティアスさんがうちに来るね」
明日は十二月二十三日だ。
本来なら数日遅く双子たちが日本に着いて、家に招く予定だった。
その前に佑と香澄はクリスマスデートする予定だったが、やむなくキャンセルした。
佑は気に入りのホテルに部屋とディナーを予約していたのだが、急遽自宅でのクリスマスになり〝とても〟がっかりしていた。
その代わりやけっぱちになって、金に糸目をつけず高級食材を取り寄せ、アシスタントも雇って斎藤に〝お任せ〟した。
「……俺の年末は死んだ……」
「またー。そんな事言わないで。ね?」
よしよしと佑の頭を撫でると、じっとりとした目で見つめられ、チュッとキスされた。
「……あいつらが帰ったら慰めてくれ。凄い疲れると思うから」
「佑さんは普通の人以上に、お二人にからかわれるもんね」
「香澄も隙を見せないように。いつ何が起きるか分からない」
佑は香澄の肩に頭をのせ、乱暴に溜め息をつく。
「もう大丈夫だと思うけどね。例の事があって以降、変わらず接してくれているけど、一線を引いているのが分かるもの」
「……そうか?」
「うん」
香澄は佑を抱き締めたままのんびりと答え、彼の頭にキスをした。
「だから心配しないで。あんまり心配しすぎるとハゲるよ?」
香澄の冗談に、腕の中で佑がビクッと震えた。
「……お、脅すのはやめてくれ。毛根だけはどうにもならないんだから」
「んふふ。ハゲても愛してるから大丈夫だよ。あ、そうだ。男性ホルモンが強い人ってハゲやすいんだっけ?」
「こら。ハゲハゲ言うな」
ガバッと起きた佑が、香澄を抱き締めてむちゅーっとキスをしてきた。
「んふふっ」
むくれた佑の顔を見て、香澄はクスクス笑う。
「もう。しょうがないなぁ」
「精神的ダメージを負ったので体で賠償してくれ」
もっともらしい事を言い、佑は香澄の首筋に顔を埋めてキスをしてきた。
「あ……。もー……。こら」
香澄は笑いながら、彼の髪に指を入れ梳る。
静かな夜もひとまず今日までだ。
なので、翌日に響かない程度に愛し合った。
**
十二月二十三日、夕方。
「お先に失礼します」
今日は佑の夜のスケジュールがないので、秘書たちもすぐ帰る事ができる。
河野はいち早く帰り支度をし、珍しくウキウキしてコートの袖に腕を入れていた。
「河野さん、今日は何かあるんですか?」
「クリスマスライブの前夜祭ですよ」
河野は先日教えてくれて以降、趣味の事を堂々と職場で話すようになった。
勿論、常識の範囲内でだ。
「楽しんでください。以前は張り切りすぎて腰をやったみたいですから、気を付けてくださいね。年末年始を腰痛で過ごすほど、空しい事はありませんから」
「ご心配なく。あのあと反省して、いつもの倍、筋トレのメニューを増やしました」
「……そうですか……」
何をして腰痛になったのか尋ねたら、河野はいわゆる〝オタ芸〟をしてくれた。
両手にサイリウムという光る棒を持って、足を大きく開きのけぞるポーズは、勢いよくやれば腰を痛くしそうだ。
彼の好きな事なので、とやかくは言わない。
だが腰痛のつらさは知っているので、お節介を承知の上で釘を刺した。
「それでは、お先です」
香澄の心配をよそに、河野はマフラーを巻くのももどかしく、社長秘書室をあとにした。
「好きな事があるのは、いい事ですねぇ」
松井がトントンと書類をそろえながらのんびり言い、香澄も帰り支度をしつつ笑う。
「そうですね。私はこれといって打ち込めるものがないので、羨ましいです」
松井が微笑みながら「赤松さんは社長に夢中ですね」と思ったのを香澄は知らない。
「松井さんはクリスマスの予定、何かありますか?」
「妻と待ち合わせをしてクリスマスディナーに行きますよ。気恥ずかしいですが、花束の手配もしてあります」
「わあ、素敵!」
松井の歳になって、ディナーに花束は憧れる。
明日は十二月二十三日だ。
本来なら数日遅く双子たちが日本に着いて、家に招く予定だった。
その前に佑と香澄はクリスマスデートする予定だったが、やむなくキャンセルした。
佑は気に入りのホテルに部屋とディナーを予約していたのだが、急遽自宅でのクリスマスになり〝とても〟がっかりしていた。
その代わりやけっぱちになって、金に糸目をつけず高級食材を取り寄せ、アシスタントも雇って斎藤に〝お任せ〟した。
「……俺の年末は死んだ……」
「またー。そんな事言わないで。ね?」
よしよしと佑の頭を撫でると、じっとりとした目で見つめられ、チュッとキスされた。
「……あいつらが帰ったら慰めてくれ。凄い疲れると思うから」
「佑さんは普通の人以上に、お二人にからかわれるもんね」
「香澄も隙を見せないように。いつ何が起きるか分からない」
佑は香澄の肩に頭をのせ、乱暴に溜め息をつく。
「もう大丈夫だと思うけどね。例の事があって以降、変わらず接してくれているけど、一線を引いているのが分かるもの」
「……そうか?」
「うん」
香澄は佑を抱き締めたままのんびりと答え、彼の頭にキスをした。
「だから心配しないで。あんまり心配しすぎるとハゲるよ?」
香澄の冗談に、腕の中で佑がビクッと震えた。
「……お、脅すのはやめてくれ。毛根だけはどうにもならないんだから」
「んふふ。ハゲても愛してるから大丈夫だよ。あ、そうだ。男性ホルモンが強い人ってハゲやすいんだっけ?」
「こら。ハゲハゲ言うな」
ガバッと起きた佑が、香澄を抱き締めてむちゅーっとキスをしてきた。
「んふふっ」
むくれた佑の顔を見て、香澄はクスクス笑う。
「もう。しょうがないなぁ」
「精神的ダメージを負ったので体で賠償してくれ」
もっともらしい事を言い、佑は香澄の首筋に顔を埋めてキスをしてきた。
「あ……。もー……。こら」
香澄は笑いながら、彼の髪に指を入れ梳る。
静かな夜もひとまず今日までだ。
なので、翌日に響かない程度に愛し合った。
**
十二月二十三日、夕方。
「お先に失礼します」
今日は佑の夜のスケジュールがないので、秘書たちもすぐ帰る事ができる。
河野はいち早く帰り支度をし、珍しくウキウキしてコートの袖に腕を入れていた。
「河野さん、今日は何かあるんですか?」
「クリスマスライブの前夜祭ですよ」
河野は先日教えてくれて以降、趣味の事を堂々と職場で話すようになった。
勿論、常識の範囲内でだ。
「楽しんでください。以前は張り切りすぎて腰をやったみたいですから、気を付けてくださいね。年末年始を腰痛で過ごすほど、空しい事はありませんから」
「ご心配なく。あのあと反省して、いつもの倍、筋トレのメニューを増やしました」
「……そうですか……」
何をして腰痛になったのか尋ねたら、河野はいわゆる〝オタ芸〟をしてくれた。
両手にサイリウムという光る棒を持って、足を大きく開きのけぞるポーズは、勢いよくやれば腰を痛くしそうだ。
彼の好きな事なので、とやかくは言わない。
だが腰痛のつらさは知っているので、お節介を承知の上で釘を刺した。
「それでは、お先です」
香澄の心配をよそに、河野はマフラーを巻くのももどかしく、社長秘書室をあとにした。
「好きな事があるのは、いい事ですねぇ」
松井がトントンと書類をそろえながらのんびり言い、香澄も帰り支度をしつつ笑う。
「そうですね。私はこれといって打ち込めるものがないので、羨ましいです」
松井が微笑みながら「赤松さんは社長に夢中ですね」と思ったのを香澄は知らない。
「松井さんはクリスマスの予定、何かありますか?」
「妻と待ち合わせをしてクリスマスディナーに行きますよ。気恥ずかしいですが、花束の手配もしてあります」
「わあ、素敵!」
松井の歳になって、ディナーに花束は憧れる。
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