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第十六部・クリスマス 編

将来どうなりたいの?

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「普通ですよ。学生時代は普通に付き合って、二十歳に専門学校を卒業。それから一年NYに留学して、その時お付き合いした人もいました。札幌に戻ってからは、一人と付き合いしましたが、考え方が合わなくて別れました。それからあとはいません」

「ふぅん……」

 双子は顔を見合わせ、ニコォ……といい笑顔になる。

「まぁ、ミサトがヴァージンかどうかなんて気にしてないから!」

 クラウスの言葉に、美里はハァ……と大きな溜め息をついてうなだれた。

「そういうトコなんですけどね? ……まぁ、オープンすぎるから、いやらしくないんですけど」

「思った事は口にしないと、伝わらないから」

「そうですけど」

 あまりのストレートさに戸惑いながらも、アメリカにいた時もこうだったな、と思いだす。

 帰国してから付き合った彼氏は、ウジウジしていて合わなかった。
 そういう意味では、双子は自然体で付き合いやすい。

 また一つ、彼らのいい所を知ったと思った。

 そうしているうちに、金目鯛の西京焼きが運ばれてきた。
 松茸のフライと酢橘も添えられている。

(それにしても、この人たち最終的に私をどうしたいんだろう? ……まさか3Pなんてないよね?)

 デートなら普通にできるが、〝付き合う〟となればベッドでの関係も入るだろう。
 食べている途中なのに変な想像をしてしまい、カァッと赤面する。

「僕らは今週末になったら東京に戻るけど、また日本に来る時は連絡してもいい? できれば何か返事をしてもらえたら嬉しいんだけど」

 そう言われ、彼らからの連絡を無視していたのを思いだし、ギクッとする。

「すみません。メッセージをポンポン送られると、遊ばれているんじゃ……て思って、どう反応したらいいか分からなかったんです」

「なるほど。じゃあ、これからは返事してくれる?」

 アロイスに尋ねられ、美里は頷いた。

「はい。時差もありますし、タイミングが合えば……ですが」

「OK、OK。返事さえくれれば問題ないよ」

 そして止肴に和牛が出される。

(美味しそう)

 上品に二切れだが、一品ずつ感覚を空けて提供されているので、そろそろ満腹になっている。

「もし休みが取れたらドイツにこない? 俺たちの飛行機で迎えに来るから、ゼロ円旅行しようよ」

「えぇっ?」

 いきなりの提案で、思わず声がひっくり返る。

「パスポートさえ持ってればOK。ドイツだけじゃなく、ヨーロッパじゅう案内してあげる」

 ペロッと和牛を平らげたクラウスが、ビールを飲んでにんまりと笑う。

「嫌? いきなり旅行とか、急に親密になれない?」

「魅力的なお話ですが、仕事を休めませんし」

「バーテンダーの仕事の他は、何してんの?」

「昼間は事務のアルバイトをしています」

「将来、どうなりたいの?」

 最後に釜炊き御飯や味噌汁、漬物が出されたあと、将来の話になって、美里は言葉に詰まる。

 デザイナーとして大成している双子を前に、昼と夜の掛け持ちをしてやっと生きている自分が、急に恥ずかしく思えたからだ。

「……最初に憧れたのは、『カクテル』とか『コヨーテ・アグリー』のような映画の世界でした。分かりやすく海外にかぶれて、留学さえすればサクセスストーリーが待っているんじゃ……とか、子供っぽい事を考えていました」

 美里の根幹に関わる話を、双子は黙って聞いてくれる。

「笑われても仕方がないんですけど、海外に行けば、映画に出てくるような男性と巡り会えると思っていました。自分も格好いい仕事をして、恋をして働いて、結婚できたら……と思っていました」

 双子は美里の話を聞きながら、綺麗な箸使いでご飯を食べ、静かに味噌汁を飲む。

「NYで気の合う仲間はできました。でもNYに行ったからといって、夢に描いた生活そのものではなかったです。アパートは防犯に警戒しないとならなくて、一度は空き巣に入られました。夜に帰宅しようとしたら、男性に声を掛けられて絡まれて、下手すればレイプされていたかもしれません。……怖いけど『ここはアメリカンドリームの国なんだから』と思って一年間必死に過ごしました」

 留学中の事を話す美里は、無意識に眉間に皺を寄せていた。

「何か掴めた?」

 アロイスに優しく尋ねられ、美里は小さく息をつき視線を落とす。

「……逃げ帰りました。確かに楽しかったです。英語は話せるようになったし、友達もできました。NYを一人で歩けるようになれたのはちょっと自慢です。……でも、自分が日本のぬるま湯に浸かっていたのだと思い知りました」

 鈍い痛みと共に打ち明けると、クラウスがケロッとして言う。
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