1,021 / 1,508
第十六部・クリスマス 編
上辺だけで決めつけて〝本当の姿〟を見ようとしなかった
しおりを挟む
「恋愛感情を抱くかどうかは置いておいて、もう気持ちを疑う事はしません。まずは、お互いを知っていくために、時間が必要なんじゃないですか? きちんと恋をしていくためには、そこから始めていくのが〝普通〟だと思います」
「そう……だね」
クラウスがアロイスを見る。
「だな」
アロイスも頷き、フハッと気が抜けたように笑った。
「俺たち、今まで女の子を相手にするのに、時間をかけなかった。遊びたかったら声を掛けて、イエスだったら遊んで、ノーだったら追わない。時間をかけて相手の事を知っていくって、しなかったよな」
「だねー。その時間があるなら、別の子に声を掛けたら良かったもんね」
全員で苦笑した時、うどん入り茶碗蒸しに、とろみ餡がのった物が運ばれてきた。
「というか、どれだけ女性と不誠実に付き合ってきたんですか」
「妬いた?」
クラウスが青い目を悪戯っぽく輝やかせる。
「それほど。だって三十三歳にもなって女性経験がなかったら、逆にヤバイでしょう。私だって三十三歳の双子DTとお付き合いなんて、荷が重いです」
〝三十三歳の双子DT〟というパワーワードを聞いて、双子が噴き出した。
「それ……っ、ひでぇ!」
「すげぇDTだな!」
膝を叩いてゲラゲラ笑う双子を見て、美里も思わず笑う。
双子とは短い付き合いだが、彼らが不機嫌になるところを見た事がない。
彼らは確かに難ありな人だが、すぐ不機嫌になる人に比べればずっといい。
(私、今まで上辺だけで決めつけて、二人の〝本当の姿〟を見ようとしなかった。……駄目だな、こういうの)
自分に頑固な面があるのは自覚している。
それによって人の本来見るべき面を逃しているのなら、とんでもない損だ。
内心溜め息をついていると、氷の上に笹が敷かれ、その上に新鮮な刺身がのった器が出された。
「ミサトが細かい事で怒る子じゃなくて良かったよ」
アロイスは綺麗な箸使いで本鮪を食べ、微笑む。
「過去は変えられないからね。これからの事なら、ミサトが望む通り変えられるかもしれない」
「……本当に、女性との関係をすべて断ったんですか?」
「本当だよ? 友達に『病気になったか?』って心配されるぐらい」
クラウスが肩をすくめ、アロイスに「なぁ?」と同意を求める。
「まったく連絡がないって言えば、嘘になるけどね。俺たちにはその気がなくても、前みたいな関係でいいから、繋がっていたいっていう女の子はいる」
言われて、これだけ好条件の男性なら、女性が離したがらないだろうと思った。
「……女性としても手放したくないでしょうね。あなた達、女性を怒ったり、支配しないでしょう? なんかそういうイメージがあります」
「んー、そうだね。もとを言えば、相手にそれほど興味を持ってないから、束縛しないし、言う事聞かせようっていう気持ちにならないだけだけど」
アロイスの言葉のあとに、クラウスが続く。
「面倒が嫌いだし、ニコニコしてれば丸く収まるのは分かってるんだよね。怒るの面倒だし、変な空気になるの嫌だしさ。そりゃあムシャクシャする時はあるけど、そういう時は二人でスパーリングしたらスッキリするよね」
スパーリングと言われ、どうりで双子の体つきがしっかりしている訳だと納得した。
「常に二人一緒で、むかつく内容も同じ、ストレス発散も一緒だと最強ですね」
そう言った時、松茸とワンタンの小鍋が出された。
小さな鍋が置かれ、火を付けられてコトコトと煮え出すのを見ると、気持ちがほっこり暖かくなる。
「でしょ? まー、周りを困らせてる僕らが言うのもアレだけど、アンガーマネジメントはしてるよ。人前で怒り散らすほど、格好悪い事ってないって思ってる。そういう奴って『仕事ができない』って思われるしね」
「ふぅん……」
一瞬、美里は内心でギクッとした。
腹が立つ事があった時は、あとで一人カラオケをして発散しているからだ。
大きい声を出しているのは同じなので、「もしかして……?」と不安になってしまった。
「ま、本当にキレたら怒るよ? 理不尽な事をされたら報復もする。けど、本当に例外があった時に限る。御曹司扱いされて、相応の生き方はしてきたけど、パーフェクトマンではないからね」
「はい。それは分かります」
美里は返事をして小鍋をつつく。
そんな彼女を、向かいから双子が優しい目で見てくる。
彼らの視線が落ち着かず、なるべく食べる事に集中した。
「逆に聞くけど、ミサトは彼氏とかどうなの? こないだは店だったし個人的な答えは聞けなかったけど、今ならちょっとぐらい教えてくれてもいいでしょ?」
アロイスに尋ねられ、美里は水を一口飲んで答える。
「そう……だね」
クラウスがアロイスを見る。
「だな」
アロイスも頷き、フハッと気が抜けたように笑った。
「俺たち、今まで女の子を相手にするのに、時間をかけなかった。遊びたかったら声を掛けて、イエスだったら遊んで、ノーだったら追わない。時間をかけて相手の事を知っていくって、しなかったよな」
「だねー。その時間があるなら、別の子に声を掛けたら良かったもんね」
全員で苦笑した時、うどん入り茶碗蒸しに、とろみ餡がのった物が運ばれてきた。
「というか、どれだけ女性と不誠実に付き合ってきたんですか」
「妬いた?」
クラウスが青い目を悪戯っぽく輝やかせる。
「それほど。だって三十三歳にもなって女性経験がなかったら、逆にヤバイでしょう。私だって三十三歳の双子DTとお付き合いなんて、荷が重いです」
〝三十三歳の双子DT〟というパワーワードを聞いて、双子が噴き出した。
「それ……っ、ひでぇ!」
「すげぇDTだな!」
膝を叩いてゲラゲラ笑う双子を見て、美里も思わず笑う。
双子とは短い付き合いだが、彼らが不機嫌になるところを見た事がない。
彼らは確かに難ありな人だが、すぐ不機嫌になる人に比べればずっといい。
(私、今まで上辺だけで決めつけて、二人の〝本当の姿〟を見ようとしなかった。……駄目だな、こういうの)
自分に頑固な面があるのは自覚している。
それによって人の本来見るべき面を逃しているのなら、とんでもない損だ。
内心溜め息をついていると、氷の上に笹が敷かれ、その上に新鮮な刺身がのった器が出された。
「ミサトが細かい事で怒る子じゃなくて良かったよ」
アロイスは綺麗な箸使いで本鮪を食べ、微笑む。
「過去は変えられないからね。これからの事なら、ミサトが望む通り変えられるかもしれない」
「……本当に、女性との関係をすべて断ったんですか?」
「本当だよ? 友達に『病気になったか?』って心配されるぐらい」
クラウスが肩をすくめ、アロイスに「なぁ?」と同意を求める。
「まったく連絡がないって言えば、嘘になるけどね。俺たちにはその気がなくても、前みたいな関係でいいから、繋がっていたいっていう女の子はいる」
言われて、これだけ好条件の男性なら、女性が離したがらないだろうと思った。
「……女性としても手放したくないでしょうね。あなた達、女性を怒ったり、支配しないでしょう? なんかそういうイメージがあります」
「んー、そうだね。もとを言えば、相手にそれほど興味を持ってないから、束縛しないし、言う事聞かせようっていう気持ちにならないだけだけど」
アロイスの言葉のあとに、クラウスが続く。
「面倒が嫌いだし、ニコニコしてれば丸く収まるのは分かってるんだよね。怒るの面倒だし、変な空気になるの嫌だしさ。そりゃあムシャクシャする時はあるけど、そういう時は二人でスパーリングしたらスッキリするよね」
スパーリングと言われ、どうりで双子の体つきがしっかりしている訳だと納得した。
「常に二人一緒で、むかつく内容も同じ、ストレス発散も一緒だと最強ですね」
そう言った時、松茸とワンタンの小鍋が出された。
小さな鍋が置かれ、火を付けられてコトコトと煮え出すのを見ると、気持ちがほっこり暖かくなる。
「でしょ? まー、周りを困らせてる僕らが言うのもアレだけど、アンガーマネジメントはしてるよ。人前で怒り散らすほど、格好悪い事ってないって思ってる。そういう奴って『仕事ができない』って思われるしね」
「ふぅん……」
一瞬、美里は内心でギクッとした。
腹が立つ事があった時は、あとで一人カラオケをして発散しているからだ。
大きい声を出しているのは同じなので、「もしかして……?」と不安になってしまった。
「ま、本当にキレたら怒るよ? 理不尽な事をされたら報復もする。けど、本当に例外があった時に限る。御曹司扱いされて、相応の生き方はしてきたけど、パーフェクトマンではないからね」
「はい。それは分かります」
美里は返事をして小鍋をつつく。
そんな彼女を、向かいから双子が優しい目で見てくる。
彼らの視線が落ち着かず、なるべく食べる事に集中した。
「逆に聞くけど、ミサトは彼氏とかどうなの? こないだは店だったし個人的な答えは聞けなかったけど、今ならちょっとぐらい教えてくれてもいいでしょ?」
アロイスに尋ねられ、美里は水を一口飲んで答える。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
2,461
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる