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第十六部・クリスマス 編

上辺だけで決めつけて〝本当の姿〟を見ようとしなかった

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「恋愛感情を抱くかどうかは置いておいて、もう気持ちを疑う事はしません。まずは、お互いを知っていくために、時間が必要なんじゃないですか? きちんと恋をしていくためには、そこから始めていくのが〝普通〟だと思います」

「そう……だね」

 クラウスがアロイスを見る。

「だな」

 アロイスも頷き、フハッと気が抜けたように笑った。

「俺たち、今まで女の子を相手にするのに、時間をかけなかった。遊びたかったら声を掛けて、イエスだったら遊んで、ノーだったら追わない。時間をかけて相手の事を知っていくって、しなかったよな」

「だねー。その時間があるなら、別の子に声を掛けたら良かったもんね」

 全員で苦笑した時、うどん入り茶碗蒸しに、とろみ餡がのった物が運ばれてきた。

「というか、どれだけ女性と不誠実に付き合ってきたんですか」

「妬いた?」

 クラウスが青い目を悪戯っぽく輝やかせる。

「それほど。だって三十三歳にもなって女性経験がなかったら、逆にヤバイでしょう。私だって三十三歳の双子DTとお付き合いなんて、荷が重いです」

〝三十三歳の双子DT〟というパワーワードを聞いて、双子が噴き出した。

「それ……っ、ひでぇ!」

「すげぇDTだな!」

 膝を叩いてゲラゲラ笑う双子を見て、美里も思わず笑う。

 双子とは短い付き合いだが、彼らが不機嫌になるところを見た事がない。
 彼らは確かに難ありな人だが、すぐ不機嫌になる人に比べればずっといい。

(私、今まで上辺だけで決めつけて、二人の〝本当の姿〟を見ようとしなかった。……駄目だな、こういうの)

 自分に頑固な面があるのは自覚している。
 それによって人の本来見るべき面を逃しているのなら、とんでもない損だ。

 内心溜め息をついていると、氷の上に笹が敷かれ、その上に新鮮な刺身がのった器が出された。

「ミサトが細かい事で怒る子じゃなくて良かったよ」

 アロイスは綺麗な箸使いで本鮪を食べ、微笑む。

「過去は変えられないからね。これからの事なら、ミサトが望む通り変えられるかもしれない」

「……本当に、女性との関係をすべて断ったんですか?」

「本当だよ? 友達に『病気になったか?』って心配されるぐらい」

 クラウスが肩をすくめ、アロイスに「なぁ?」と同意を求める。

「まったく連絡がないって言えば、嘘になるけどね。俺たちにはその気がなくても、前みたいな関係でいいから、繋がっていたいっていう女の子はいる」

 言われて、これだけ好条件の男性なら、女性が離したがらないだろうと思った。

「……女性としても手放したくないでしょうね。あなた達、女性を怒ったり、支配しないでしょう? なんかそういうイメージがあります」

「んー、そうだね。もとを言えば、相手にそれほど興味を持ってないから、束縛しないし、言う事聞かせようっていう気持ちにならないだけだけど」

 アロイスの言葉のあとに、クラウスが続く。

「面倒が嫌いだし、ニコニコしてれば丸く収まるのは分かってるんだよね。怒るの面倒だし、変な空気になるの嫌だしさ。そりゃあムシャクシャする時はあるけど、そういう時は二人でスパーリングしたらスッキリするよね」

 スパーリングと言われ、どうりで双子の体つきがしっかりしている訳だと納得した。

「常に二人一緒で、むかつく内容も同じ、ストレス発散も一緒だと最強ですね」

 そう言った時、松茸とワンタンの小鍋が出された。
 小さな鍋が置かれ、火を付けられてコトコトと煮え出すのを見ると、気持ちがほっこり暖かくなる。

「でしょ? まー、周りを困らせてる僕らが言うのもアレだけど、アンガーマネジメントはしてるよ。人前で怒り散らすほど、格好悪い事ってないって思ってる。そういう奴って『仕事ができない』って思われるしね」

「ふぅん……」

 一瞬、美里は内心でギクッとした。

 腹が立つ事があった時は、あとで一人カラオケをして発散しているからだ。
 大きい声を出しているのは同じなので、「もしかして……?」と不安になってしまった。

「ま、本当にキレたら怒るよ? 理不尽な事をされたら報復もする。けど、本当に例外があった時に限る。御曹司扱いされて、相応の生き方はしてきたけど、パーフェクトマンではないからね」

「はい。それは分かります」

 美里は返事をして小鍋をつつく。
 そんな彼女を、向かいから双子が優しい目で見てくる。

 彼らの視線が落ち着かず、なるべく食べる事に集中した。

「逆に聞くけど、ミサトは彼氏とかどうなの? こないだは店だったし個人的な答えは聞けなかったけど、今ならちょっとぐらい教えてくれてもいいでしょ?」

 アロイスに尋ねられ、美里は水を一口飲んで答える。
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