1,018 / 1,549
第十六部・クリスマス 編
別に借りを作ろうってんじゃないよ
しおりを挟む
(そういえばあの二人、『可愛い』はいうけど、顔立ちや胸については何も言わないな)
今になって、双子に不快な感情を抱かない理由を見つけた。
(海外の人って良くも悪くも外見の事を口にしたら差別的とか言うし、そういう意識が身についてるのかな? ……まぁ、あれだけそっくりな双子でファッションの仕事してるなら、ルッキズムについての持論があってもおかしくないけど)
そして少し彼らを見直す。
美里は姿見の前でちょいちょいと髪を整え、溜め息をつく。
「……別に二人の好みの女性を気にしても仕方ないか。私は私だもん。この服装で現れたからといって、勝手に幻滅されたならそれまでだし」
言ってから、「うん」と頷く。
そろそろ家を出なければならない時間になったので、そのあとは何も考えないようにして、地下鉄駅に向かった。
待ち合わせ場所は、ライオンの像がシンボルになっている百貨店前だ。
「あ、やっほー! ミサト」
すでに着いていた双子が、歩いてきた美里を見て手を振る。
美形の双子は衆目を集めていたらしく、周りにいた人は、彼らが待っていた〝彼女〟を期待した目で見てくる。
(恥ずかしい……)
美里はこみ上げる羞恥を堪え、彼らに挨拶する。
「こんにちは。早いですね。私、遅刻しました?」
腕時計で時間を確認すると、約束の十分前だ。
「女の子は待たせちゃいけないから」
にっこり微笑むアロイスに生ぬるく微笑み返したあと、美里は白い息を吐く。
「寒いですから、行きましょう」
待ち合わせは十時半で、ランチまではまだ時間がある。
「まずショッピングしない? 欲しい物があるなら、なんでも買ってあげるよ」
クラウスがワクワクした顔で言い、美里は固まる。
「そういうのは結構です。付き合ってない人に、変な恩を作ってはいけないと親に言われていますから」
美里の言葉を聞いて双子は顔を見合わせ、首を傾げる。
「別に借りを作ろうってんじゃないよ。僕らが買いたいから買うだけ」
「浪費はいけません」
「可愛い子にはプレゼントをしろって、オーパに教わったんだよ」
(……おーぱ?)
双子の言う事が分からず、開始一分で泣きそうだ。
「じゃあこうしようよ。俺たちの買い物に付き合って」
「……それならいいですけど」
(札幌に来た記念に、何かお土産でも買うのかな)
買い与えられる訳でないなら、断る理由はない。
「とりあえず、ここ入ろうか」
クラウスは軽やかな声で言うと、美里の手を引いて百貨店に入っていった。
そのあと、付近のファッションビルを、どれだけ歩いたか分からない。
美里は買い物をする時、あちこちの店を回って好きなものを絞ってから、値段などを比較して絞って買う。
だが双子は歩きながら「あ、あそこ!」と閃いた所に入り、ピンポイントで欲しい物を買っていく。
彼らの話では、札幌にくるのは初めてではないそうだ。
それでも常にこの街にいる訳ではないので、土地勘はそれほどないはずだ。
なのに双子はホームタウンを歩くような足取りで、気ままに歩いては自由に買い物をしていく。
「ミーサト」
呼ばれて「え?」と振り向くと、頭に帽子を被せられた。
「これ、好きじゃない?」
鏡を見ると、被せられたのは大きなビジューのついた黒いキャップだ。
ほんの少しダメージ加工もされていて、自分の好みにぴったり合っている。
(あ、可愛い。買おうかな)
そう思ったあと、美里は帽子を脱いで値札を見ようとする。
けれど値段を確認する前に、クラウスに帽子を取り上げられ、尋ねられた。
「気に入った?」
「可愛いと思います。欲しいかもなので、見せてください」
「見せてあげなーい。これ、僕が買うから」
「は?」
彼が何を考えているのか分からず、美里は固まった。
「クラ、これは?」
アロイスが赤いツーウェイトートバッグを持ってきて、美里の肩に掛ける。
赤、黒、白は美里の好きな色で、さらに地模様があってお洒落だ。
(これも可愛いかも)
値段を見ようとすると、今度はアロイスに取り上げられてしまった。
今になって、双子に不快な感情を抱かない理由を見つけた。
(海外の人って良くも悪くも外見の事を口にしたら差別的とか言うし、そういう意識が身についてるのかな? ……まぁ、あれだけそっくりな双子でファッションの仕事してるなら、ルッキズムについての持論があってもおかしくないけど)
そして少し彼らを見直す。
美里は姿見の前でちょいちょいと髪を整え、溜め息をつく。
「……別に二人の好みの女性を気にしても仕方ないか。私は私だもん。この服装で現れたからといって、勝手に幻滅されたならそれまでだし」
言ってから、「うん」と頷く。
そろそろ家を出なければならない時間になったので、そのあとは何も考えないようにして、地下鉄駅に向かった。
待ち合わせ場所は、ライオンの像がシンボルになっている百貨店前だ。
「あ、やっほー! ミサト」
すでに着いていた双子が、歩いてきた美里を見て手を振る。
美形の双子は衆目を集めていたらしく、周りにいた人は、彼らが待っていた〝彼女〟を期待した目で見てくる。
(恥ずかしい……)
美里はこみ上げる羞恥を堪え、彼らに挨拶する。
「こんにちは。早いですね。私、遅刻しました?」
腕時計で時間を確認すると、約束の十分前だ。
「女の子は待たせちゃいけないから」
にっこり微笑むアロイスに生ぬるく微笑み返したあと、美里は白い息を吐く。
「寒いですから、行きましょう」
待ち合わせは十時半で、ランチまではまだ時間がある。
「まずショッピングしない? 欲しい物があるなら、なんでも買ってあげるよ」
クラウスがワクワクした顔で言い、美里は固まる。
「そういうのは結構です。付き合ってない人に、変な恩を作ってはいけないと親に言われていますから」
美里の言葉を聞いて双子は顔を見合わせ、首を傾げる。
「別に借りを作ろうってんじゃないよ。僕らが買いたいから買うだけ」
「浪費はいけません」
「可愛い子にはプレゼントをしろって、オーパに教わったんだよ」
(……おーぱ?)
双子の言う事が分からず、開始一分で泣きそうだ。
「じゃあこうしようよ。俺たちの買い物に付き合って」
「……それならいいですけど」
(札幌に来た記念に、何かお土産でも買うのかな)
買い与えられる訳でないなら、断る理由はない。
「とりあえず、ここ入ろうか」
クラウスは軽やかな声で言うと、美里の手を引いて百貨店に入っていった。
そのあと、付近のファッションビルを、どれだけ歩いたか分からない。
美里は買い物をする時、あちこちの店を回って好きなものを絞ってから、値段などを比較して絞って買う。
だが双子は歩きながら「あ、あそこ!」と閃いた所に入り、ピンポイントで欲しい物を買っていく。
彼らの話では、札幌にくるのは初めてではないそうだ。
それでも常にこの街にいる訳ではないので、土地勘はそれほどないはずだ。
なのに双子はホームタウンを歩くような足取りで、気ままに歩いては自由に買い物をしていく。
「ミーサト」
呼ばれて「え?」と振り向くと、頭に帽子を被せられた。
「これ、好きじゃない?」
鏡を見ると、被せられたのは大きなビジューのついた黒いキャップだ。
ほんの少しダメージ加工もされていて、自分の好みにぴったり合っている。
(あ、可愛い。買おうかな)
そう思ったあと、美里は帽子を脱いで値札を見ようとする。
けれど値段を確認する前に、クラウスに帽子を取り上げられ、尋ねられた。
「気に入った?」
「可愛いと思います。欲しいかもなので、見せてください」
「見せてあげなーい。これ、僕が買うから」
「は?」
彼が何を考えているのか分からず、美里は固まった。
「クラ、これは?」
アロイスが赤いツーウェイトートバッグを持ってきて、美里の肩に掛ける。
赤、黒、白は美里の好きな色で、さらに地模様があってお洒落だ。
(これも可愛いかも)
値段を見ようとすると、今度はアロイスに取り上げられてしまった。
13
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる