上 下
1,018 / 1,544
第十六部・クリスマス 編

別に借りを作ろうってんじゃないよ

しおりを挟む
(そういえばあの二人、『可愛い』はいうけど、顔立ちや胸については何も言わないな)

 今になって、双子に不快な感情を抱かない理由を見つけた。

(海外の人って良くも悪くも外見の事を口にしたら差別的とか言うし、そういう意識が身についてるのかな? ……まぁ、あれだけそっくりな双子でファッションの仕事してるなら、ルッキズムについての持論があってもおかしくないけど)

 そして少し彼らを見直す。

 美里は姿見の前でちょいちょいと髪を整え、溜め息をつく。

「……別に二人の好みの女性を気にしても仕方ないか。私は私だもん。この服装で現れたからといって、勝手に幻滅されたならそれまでだし」

 言ってから、「うん」と頷く。

 そろそろ家を出なければならない時間になったので、そのあとは何も考えないようにして、地下鉄駅に向かった。





 待ち合わせ場所は、ライオンの像がシンボルになっている百貨店前だ。

「あ、やっほー! ミサト」

 すでに着いていた双子が、歩いてきた美里を見て手を振る。

 美形の双子は衆目を集めていたらしく、周りにいた人は、彼らが待っていた〝彼女〟を期待した目で見てくる。

(恥ずかしい……)

 美里はこみ上げる羞恥を堪え、彼らに挨拶する。

「こんにちは。早いですね。私、遅刻しました?」

 腕時計で時間を確認すると、約束の十分前だ。

「女の子は待たせちゃいけないから」

 にっこり微笑むアロイスに生ぬるく微笑み返したあと、美里は白い息を吐く。

「寒いですから、行きましょう」

 待ち合わせは十時半で、ランチまではまだ時間がある。

「まずショッピングしない? 欲しい物があるなら、なんでも買ってあげるよ」

 クラウスがワクワクした顔で言い、美里は固まる。

「そういうのは結構です。付き合ってない人に、変な恩を作ってはいけないと親に言われていますから」

 美里の言葉を聞いて双子は顔を見合わせ、首を傾げる。

「別に借りを作ろうってんじゃないよ。僕らが買いたいから買うだけ」

「浪費はいけません」

「可愛い子にはプレゼントをしろって、オーパに教わったんだよ」

(……おーぱ?)

 双子の言う事が分からず、開始一分で泣きそうだ。

「じゃあこうしようよ。俺たちの買い物に付き合って」

「……それならいいですけど」

(札幌に来た記念に、何かお土産でも買うのかな)

 買い与えられる訳でないなら、断る理由はない。

「とりあえず、ここ入ろうか」

 クラウスは軽やかな声で言うと、美里の手を引いて百貨店に入っていった。





 そのあと、付近のファッションビルを、どれだけ歩いたか分からない。

 美里は買い物をする時、あちこちの店を回って好きなものを絞ってから、値段などを比較して絞って買う。
 だが双子は歩きながら「あ、あそこ!」と閃いた所に入り、ピンポイントで欲しい物を買っていく。

 彼らの話では、札幌にくるのは初めてではないそうだ。
 それでも常にこの街にいる訳ではないので、土地勘はそれほどないはずだ。

 なのに双子はホームタウンを歩くような足取りで、気ままに歩いては自由に買い物をしていく。

「ミーサト」

 呼ばれて「え?」と振り向くと、頭に帽子を被せられた。

「これ、好きじゃない?」

 鏡を見ると、被せられたのは大きなビジューのついた黒いキャップだ。
 ほんの少しダメージ加工もされていて、自分の好みにぴったり合っている。

(あ、可愛い。買おうかな)

 そう思ったあと、美里は帽子を脱いで値札を見ようとする。
 けれど値段を確認する前に、クラウスに帽子を取り上げられ、尋ねられた。

「気に入った?」

「可愛いと思います。欲しいかもなので、見せてください」

「見せてあげなーい。これ、僕が買うから」

「は?」

 彼が何を考えているのか分からず、美里は固まった。

「クラ、これは?」

 アロイスが赤いツーウェイトートバッグを持ってきて、美里の肩に掛ける。
 赤、黒、白は美里の好きな色で、さらに地模様があってお洒落だ。

(これも可愛いかも)

 値段を見ようとすると、今度はアロイスに取り上げられてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...