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第十六部・クリスマス 編

別に借りを作ろうってんじゃないよ

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(そういえばあの二人、『可愛い』はいうけど、顔立ちや胸については何も言わないな)

 今になって、双子に不快な感情を抱かない理由を見つけた。

(海外の人って良くも悪くも外見の事を口にしたら差別的とか言うし、そういう意識が身についてるのかな? ……まぁ、あれだけそっくりな双子でファッションの仕事してるなら、ルッキズムについての持論があってもおかしくないけど)

 そして少し彼らを見直す。

 美里は姿見の前でちょいちょいと髪を整え、溜め息をつく。

「……別に二人の好みの女性を気にしても仕方ないか。私は私だもん。この服装で現れたからといって、勝手に幻滅されたならそれまでだし」

 言ってから、「うん」と頷く。

 そろそろ家を出なければならない時間になったので、そのあとは何も考えないようにして、地下鉄駅に向かった。





 待ち合わせ場所は、ライオンの像がシンボルになっている百貨店前だ。

「あ、やっほー! ミサト」

 すでに着いていた双子が、歩いてきた美里を見て手を振る。

 美形の双子は衆目を集めていたらしく、周りにいた人は、彼らが待っていた〝彼女〟を期待した目で見てくる。

(恥ずかしい……)

 美里はこみ上げる羞恥を堪え、彼らに挨拶する。

「こんにちは。早いですね。私、遅刻しました?」

 腕時計で時間を確認すると、約束の十分前だ。

「女の子は待たせちゃいけないから」

 にっこり微笑むアロイスに生ぬるく微笑み返したあと、美里は白い息を吐く。

「寒いですから、行きましょう」

 待ち合わせは十時半で、ランチまではまだ時間がある。

「まずショッピングしない? 欲しい物があるなら、なんでも買ってあげるよ」

 クラウスがワクワクした顔で言い、美里は固まる。

「そういうのは結構です。付き合ってない人に、変な恩を作ってはいけないと親に言われていますから」

 美里の言葉を聞いて双子は顔を見合わせ、首を傾げる。

「別に借りを作ろうってんじゃないよ。僕らが買いたいから買うだけ」

「浪費はいけません」

「可愛い子にはプレゼントをしろって、オーパに教わったんだよ」

(……おーぱ?)

 双子の言う事が分からず、開始一分で泣きそうだ。

「じゃあこうしようよ。俺たちの買い物に付き合って」

「……それならいいですけど」

(札幌に来た記念に、何かお土産でも買うのかな)

 買い与えられる訳でないなら、断る理由はない。

「とりあえず、ここ入ろうか」

 クラウスは軽やかな声で言うと、美里の手を引いて百貨店に入っていった。





 そのあと、付近のファッションビルを、どれだけ歩いたか分からない。

 美里は買い物をする時、あちこちの店を回って好きなものを絞ってから、値段などを比較して絞って買う。
 だが双子は歩きながら「あ、あそこ!」と閃いた所に入り、ピンポイントで欲しい物を買っていく。

 彼らの話では、札幌にくるのは初めてではないそうだ。
 それでも常にこの街にいる訳ではないので、土地勘はそれほどないはずだ。

 なのに双子はホームタウンを歩くような足取りで、気ままに歩いては自由に買い物をしていく。

「ミーサト」

 呼ばれて「え?」と振り向くと、頭に帽子を被せられた。

「これ、好きじゃない?」

 鏡を見ると、被せられたのは大きなビジューのついた黒いキャップだ。
 ほんの少しダメージ加工もされていて、自分の好みにぴったり合っている。

(あ、可愛い。買おうかな)

 そう思ったあと、美里は帽子を脱いで値札を見ようとする。
 けれど値段を確認する前に、クラウスに帽子を取り上げられ、尋ねられた。

「気に入った?」

「可愛いと思います。欲しいかもなので、見せてください」

「見せてあげなーい。これ、僕が買うから」

「は?」

 彼が何を考えているのか分からず、美里は固まった。

「クラ、これは?」

 アロイスが赤いツーウェイトートバッグを持ってきて、美里の肩に掛ける。
 赤、黒、白は美里の好きな色で、さらに地模様があってお洒落だ。

(これも可愛いかも)

 値段を見ようとすると、今度はアロイスに取り上げられてしまった。
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