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第十六部・クリスマス 編

我が儘言ってもいいですか?

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「まーちょっと色々……ね」

「そ。色々。プライベートで会ってくれるなら何でも話すけど」

 うまく誘導され、美里は黙る。

 彼らのプライベートを知りたい気持ちもあるが、一度踏み込めば後戻りできない気がする。

 双子はすべてを承知の上で、軽薄なキャラを続けている。

 多言語を扱える、ラグジュアリーブランドのデザイナーで経営者が、頭が悪いはずがない。
 きっとそうしたほうが楽とか、何かしらの理由があるはずだ。

 その〝事情〟を知ってしまえば、代償としてもっと深い関係を求められるかもしれない。

〝もしも〟彼らが自分を真剣に愛してくれるなら、思い切って飛び込むのはアリだろう。

 だが現実的に考えて、札幌でアルバイトを掛け持ちしつつ、バーテンダーをしている自分と、世界的な有名人で富豪の彼らとでは、差がありすぎる。

 美里は『アロクラ』の服どころか、一番安い商品すら買えない。

 社会的立場の差がありすぎるカップルが釣り合うはずがないし、万が一付き合えても長続きするはずがない。

 美里に嫉妬する女性は必ずでてくるだろうし、彼らの実家で何か言われるに決まっている。

 傷付くと分かっている選択をするほど、自分は馬鹿ではない。

 真剣に考えていた時、アロイスが軽い調子で声を掛けてきた。

「取って食ったりしないから、安心しなよ。あ、ウィスキーロックくれる?」

「僕も同じの」

 以前はハイペースでガンガン飲んでいた二人が、今回はじっくり話しながら飲んでいる。

 美里としては、美味しく酒を飲んでもらう事が一番嬉しい。
 心を込めて作る酒は、じっくり味わってほしいというバーテンダーとしての気持ちがある。

 だからか、気持ちが少し優しくなったのが自分でも分かった。

 店員への態度が横柄な人は、私生活でも威張り、金遣いが荒いだろうと思っている。

 だが意外にも双子は、とても品のいい飲み方をする。

 初めてこのバーを訪れた時は、かなりのハイペースで飲んでいたが、嫌な酔っ払い方をしなかったし、ずっと紳士的だった。

 ……バーテンダーをナンパしたのは除いて。

 軽薄なパリピと思いきや、「付き合いたい」と言ったあと女性たちと手を切り、真剣なのかふざけているのか、いまだに分からない。

 正直、どこまで彼らを信じたらいいのか分からない。

 だが、雰囲気から「悪い人ではない」と感じていた。

(万が一、もしもだけど、……本気だったらいつまでもツンツンしているのは失礼なのかも)

 そうやって折れてしまいそうになる自分を、我ながら押しに弱いと思う。

 けれど安全な場所で話を聞くぐらいならいいのでは、と思った。
 ここは日本で、助けを求めようとしたら言葉の通じるスタッフがすぐ側にいる。

 それなら……、とほんの少し心が動いた。

「いきなり夜に会うのは無理です」

 初めて美里が前向きに応じたのに、双子はパッと表情を輝かせた。

「OK。じゃあ、昼間に健全なお茶をしよう。ランチでもいいよ」

「我が儘言ってもいいですか?」

 美里は恋愛経験が多くない。

 以前友達はこう言っていた。

『ちょっと我が儘言って、聞いてくれるかどうかで、その男の器が分かるんじゃない? やりすぎたら駄目なやり方だけど、ある程度なら〝可愛い我が儘〟で済むと思う』

 自分一人で双子に敵うと思っていないので、友達のやり方を実践してみる事にした。

「いいよ。僕たち、女の子の我が儘を叶えるのが大好きなんだ」

 それに、クラウスが即答する。

「和食ランチをして、お洒落なカフェに行きたいです」

「いいねいいね。じゃあ、良さそうな場所を探しておくよ」

 打てば響くという感じで、双子が応じる。

「和食って言ってもスシ、豆腐湯葉、天ぷらとか色々あるけど、何がいい?」

 思いの外、双子はすんなり受け入れて美里は驚く。

「ほ、本当にいいんですか? そんな、お寿司とか湯葉とかじゃなくても……」

 軽い気持ちで言ったのだが、高級店を匂わされて少しビビる。

「えー? いいじゃん」

 素で「何いってんの?」という顔をされ、価値観の差を思い知らされた。

「じゃあ、お任せします。何のお店でもいいです」

「OK」

 双子は同じタイミングでスマホを取りだし、検索していく。

「アロはランチ調べて。僕はカフェを調べる。どうせなら個室がいいね」

「分かった」

 そのあと双子は真剣に調べ物を始めた。

 彼らの姿を見て、美里はドッと変な汗をかきはじめた。
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