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第十六部・クリスマス 編

必要以上に私を気にしていませんか?

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「俺からも改めて礼を言う、マティアス。香澄を助けてくれてありがとう」

 佑が頭を下げ、香澄もそれに倣ってペコリともう一度頭を下げる。

「頭を下げるのはやめてくれ。当然の事をしたまでだ」

 マティアスはワインを飲んで首を横に振る。

 香澄はそんな彼を見て尋ねた。

「少し不安なんですが、必要以上に私を気にしていませんか?」

 香澄の言葉を聞き、マティアスは目を瞬かせる。

「マティアスさんが感じる〝借り〟を、いつまでも引きずってほしくないんです。以前の事はすべて決着がつきました。私は多過ぎるお金を受け取っています。マティアスさんが私を気にして、一生私のために何かしようとか思わなくていいんですよ?」

 マティアスは香澄を見つめ、言われた言葉を反芻しているようだった。
 やがて口を開き、静かに言う。

「カスミは『友達になってほしい』と言った。俺はカスミのいい友人になりたいと思っている。異性の友人として、必要とされる時は役に立ちたい。カスミが危険な目にあった時、友人なら助けるはずだ。違うか?」

「そう……ですけど」

 助けを求めるようにチラッと佑を見ても、彼は静かにワインを飲んでいるだけだ。

「私の力にならないととか、強制的に思わなくていいんですからね?」

「言いたい事は分かる。確かにカスミに対して返しきれない借りはあるが、人生を捧げようとは思っていない。友人として必要とされた時なら、いつでも応えたいとは思っているが」

「それならいいんですが……」

 人生を擲つつもりはないと言われ、やっと安心できた。

(勘違いしてるって思われてないかな。何か恥ずかしくなってきた)

 香澄はパタパタと手で顔を扇ぎ、グラスに残っていたジュースを飲み干す。

「自分の生き方を犠牲にはしない。それは安心してくれ。今回は日本に来ていて、たまたま事件に遭遇したから助けた。それだけだ。これから日本に住むとして、もし顔を合わせる距離にいれば、不審者がいないか見回りはするかもしれないが」

 それを聞き、佑が声を上げる。

「日本に住む?」

「予定している。ドイツでいつまでもメイヤー家を気にするのも嫌だし、いっそ国を出てしまえば気が楽になるのではと思った。日本は治安がいいし、もともと興味があったのも理由の一つだ」

 佑はとても微妙な顔をし、さらに尋ねる。

「いつから? どこに住む?」

「まだ詳しい予定は立てていない。今回の来日で良さそうな土地を探して、来年中には住み始められたらと思っている」

 佑は困惑した顔で黙り込んだ。

「そう言えばアロイスさんとクラウスさん、札幌市内に豪邸買ったんだって」

「ええ?」

 佑は何か考えていたが、香澄から双子情報を聞いて声を上げる。

「本当に買ったのか……」

「一軒家みたい。自由度が高いほうがいいだろうから、マンションは避けたんだと思う」

「はぁ……」

 佑は溜め息をつき、前髪を掻き上げる。

「まぁ、どこに家を持とうが住もうが、自由だけどな」

「カイ、投げやりになるな」

「なってない」

 条件反射のように言い返し、佑はもう一度大きめの溜め息をつく。

「私は、知っている人が近くに住んでくれるなら嬉しいな。佑さんの飛行機があるといっても、そうそう気軽にドイツに行けないもの」

「香澄はそうかもな……。うん」

 香澄がドイツ組の側に立つと、佑は途端に大人しくなる。

「……まぁ、いいか。周りを固める人が多くなれば、香澄も寂しくないだろうし、頼る先も増える」

 佑は呟いたあと、「やっぱり」というようにマティアスを見た。

「二人きりにはなるなよ?」

「承知した」

「もーっ、佑さんったら」

 思春期の娘を持つ心配性の父親のような佑の言葉を聞いて、香澄は思わず笑い飛ばした。



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