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第十六部・クリスマス 編
もう謝らなくていいよ
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そんな中、自分の気持ちを抑えて香澄の希望を優先してくれる彼は、とても大人だと思っている。
「……マティアスさん、喧嘩できるの?」
喧嘩が〝できる〟という言葉もおかしい気がするが、何と言うのが正解か分からない。
「あいつは強いよ。双子はアマチュアのキックボクシングの大会で優勝してる。マティアスは大会には出ていないものの、双子と対等にやり合えるスキルを持っている。秘書兼ボディガードもしていたし、大会向けの双子よりも、より実践的な訓練を受けたんじゃないかな。あらゆる格闘技のコーチに訓練を受けて、自分がやりやすいスタイルを作っていった。ボクシングみたいに殴り合いもできるし、いきなり絞め技も決めてくる。かと思えばシステマみたいに急所を狙った一撃も加えてくる」
「しすてま?」
言われて思い浮かんだのは、歯ブラシだ。
「うん。まぁ、世界中には色々あるんだよ」
「佑さんは何かあった時、大丈夫なの?」
佑の心配をすると、彼はふはっと笑う。
「俺は大丈夫だよ。護衛もいる。俺自身も、ある程度は対処できるように訓練している」
「私、格闘ゲームならできるんだけどなぁ」
コントローラーを持つ真似をすると、佑が笑って肩を震わせた。
「っはは、それでどうにかなったらいいんだけどな」
香澄の頭を撫でて軽くキスをしたあと、佑は息をついて話題を戻す。
「俺の言う通りにしていたら窮屈かもしれない。自由な行動ができなくて、不満が溜まるかもしれない。それでも、俺や護衛がいない所で一人になったり、知らない人が出した物を口にしないでほしい。相手が俺の友達、知り合いと言ったり、仕事関係の人だと言っても、まず俺に連絡をしてほしい」
「分かりました」
香澄が了承したのを聞いてから、佑は溜め息をついてまた抱き締めてくる。
「……無事で良かった……」
佑は噛みしめるように言い、抱き締めてくる。
その様子を見て、自分がどれだけ心配をさせたのか、胸の奥がズシッと重くなる。
「……ごめんなさい」
「もう謝らなくていいよ。『気をつける』と言ってくれたらそれでいい。あとは約束を守ってくれれば、何度も謝る必要はないんだ」
「はい」
こういう時、佑は本当に理想の上司だと思う。
失敗した香澄がどうしたら同じ失敗をせずに済むか、きちんと考えてくれている。
世の中には謝っているのにネチネチ絡み、必要以上に謝罪させ、果ては土下座まで求めてくる人もいる。
自分の小さなプライドを満たしたいために、相手を消耗させる事しか考えていない、疫病神のような人は確かにいるのだ。
だがシンプルに考えれば、本当に必要なのは二度としないという本人の意思のみだ。
注意をされ「以後気をつけます」と言い、繰り返さない。
それだけですべてが終わるのが本来あるべき姿だ。
思えば健二はネチネチ言うタイプだったと思い、今さらながら佑というホワイト彼氏をありがたく思うのだった。
――ホワイトだが、ヤンデレでもあるのだが。
「……さて、話は以上だ。俺たちも帰ろう」
佑はもういつもの穏やかな表情に戻っていた。
「……あれ。私、荷物どうしたっけ? 会社?」
リビングに荷物があったか思いだそうとしたが、覚えている限りなかった気がする。
「ああ。松井さんから受け取って俺が持ってきたよ」
「うっ……。す、すみません。社長」
「No problem.」
佑はサラッと英語で返し、香澄と一緒にリビングに戻った。
そして二人は地下駐車場に向かう。
今日は予定が変更し、いつ帰宅するか分からなくなったのもあり、小金井を先に帰したようだ。
なので佑が自ら運転席に座り、香澄は助手席に座る。
「なんか、ドキドキする。佑さんが運転する車に乗るのって」
「そうか? 安全運転だから安心して」
「そうじゃないの。好きな人が運転する車に乗ってるっていうシチュエーションに、ドキドキしてるの」
「……なら、ちょっとだけ夜のドライブデートしようか」
「えっ、……ほ、ほんと?」
「本当に近場だけど」
「佑さんと行けるなら、どこでもいいよ!」
嬉しくなった香澄はつい大きめの声をだし、ニヤニヤしながらハンドルを握る佑を盗み見する。
「……マティアスさん、喧嘩できるの?」
喧嘩が〝できる〟という言葉もおかしい気がするが、何と言うのが正解か分からない。
「あいつは強いよ。双子はアマチュアのキックボクシングの大会で優勝してる。マティアスは大会には出ていないものの、双子と対等にやり合えるスキルを持っている。秘書兼ボディガードもしていたし、大会向けの双子よりも、より実践的な訓練を受けたんじゃないかな。あらゆる格闘技のコーチに訓練を受けて、自分がやりやすいスタイルを作っていった。ボクシングみたいに殴り合いもできるし、いきなり絞め技も決めてくる。かと思えばシステマみたいに急所を狙った一撃も加えてくる」
「しすてま?」
言われて思い浮かんだのは、歯ブラシだ。
「うん。まぁ、世界中には色々あるんだよ」
「佑さんは何かあった時、大丈夫なの?」
佑の心配をすると、彼はふはっと笑う。
「俺は大丈夫だよ。護衛もいる。俺自身も、ある程度は対処できるように訓練している」
「私、格闘ゲームならできるんだけどなぁ」
コントローラーを持つ真似をすると、佑が笑って肩を震わせた。
「っはは、それでどうにかなったらいいんだけどな」
香澄の頭を撫でて軽くキスをしたあと、佑は息をついて話題を戻す。
「俺の言う通りにしていたら窮屈かもしれない。自由な行動ができなくて、不満が溜まるかもしれない。それでも、俺や護衛がいない所で一人になったり、知らない人が出した物を口にしないでほしい。相手が俺の友達、知り合いと言ったり、仕事関係の人だと言っても、まず俺に連絡をしてほしい」
「分かりました」
香澄が了承したのを聞いてから、佑は溜め息をついてまた抱き締めてくる。
「……無事で良かった……」
佑は噛みしめるように言い、抱き締めてくる。
その様子を見て、自分がどれだけ心配をさせたのか、胸の奥がズシッと重くなる。
「……ごめんなさい」
「もう謝らなくていいよ。『気をつける』と言ってくれたらそれでいい。あとは約束を守ってくれれば、何度も謝る必要はないんだ」
「はい」
こういう時、佑は本当に理想の上司だと思う。
失敗した香澄がどうしたら同じ失敗をせずに済むか、きちんと考えてくれている。
世の中には謝っているのにネチネチ絡み、必要以上に謝罪させ、果ては土下座まで求めてくる人もいる。
自分の小さなプライドを満たしたいために、相手を消耗させる事しか考えていない、疫病神のような人は確かにいるのだ。
だがシンプルに考えれば、本当に必要なのは二度としないという本人の意思のみだ。
注意をされ「以後気をつけます」と言い、繰り返さない。
それだけですべてが終わるのが本来あるべき姿だ。
思えば健二はネチネチ言うタイプだったと思い、今さらながら佑というホワイト彼氏をありがたく思うのだった。
――ホワイトだが、ヤンデレでもあるのだが。
「……さて、話は以上だ。俺たちも帰ろう」
佑はもういつもの穏やかな表情に戻っていた。
「……あれ。私、荷物どうしたっけ? 会社?」
リビングに荷物があったか思いだそうとしたが、覚えている限りなかった気がする。
「ああ。松井さんから受け取って俺が持ってきたよ」
「うっ……。す、すみません。社長」
「No problem.」
佑はサラッと英語で返し、香澄と一緒にリビングに戻った。
そして二人は地下駐車場に向かう。
今日は予定が変更し、いつ帰宅するか分からなくなったのもあり、小金井を先に帰したようだ。
なので佑が自ら運転席に座り、香澄は助手席に座る。
「なんか、ドキドキする。佑さんが運転する車に乗るのって」
「そうか? 安全運転だから安心して」
「そうじゃないの。好きな人が運転する車に乗ってるっていうシチュエーションに、ドキドキしてるの」
「……なら、ちょっとだけ夜のドライブデートしようか」
「えっ、……ほ、ほんと?」
「本当に近場だけど」
「佑さんと行けるなら、どこでもいいよ!」
嬉しくなった香澄はつい大きめの声をだし、ニヤニヤしながらハンドルを握る佑を盗み見する。
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