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第十六部・クリスマス 編

一週間、お元気で

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「さて……、片付けたし、俺たちはここを出て帰ろうと思ってるが」

 食事が終わって食器を洗ったあと、佑が立ち上がって双子とマティアスに言う。

「OK! 俺たちもホテルに戻るよ」

「僕らは明日、札幌に行くね」

 香澄は思わず「札幌に行けるのいいなぁ」と思ってしまう。
 だが口に出せば双子に「一緒に来る?」と言われるので、別の話題を口にした。

「マティアスさんも札幌に行くんですか?」

 尋ねられ、マティアスは表情を変えないまま「いや」と首を横に振る。

「俺は一人で東京観光する。日本ならではの風景を写真に撮りたいし、大衆食堂や居酒屋に行って、等身大の空気を味わいたい」

「そうですね、以前もたぬきの信楽焼に興味があると言っていましたし」

 香澄がスラッと〝あの時〟の直前の事を口にしたので、マティアスは目を見開いてこちらを見てきた。

 だがマティアスに対し、香澄は「大丈夫です」という表情で微笑み、小さく首を左右に振る。

「カスミ。一週間後、東京で撮った写真を見てくれるか?」

「はい、喜んで。マティアスさんの目に、東京や日本がどう映っているのか知りたいです」

 返事をしたあと、三人が立ちあがった。

「じゃー僕ら、ホテル戻るね」

「カスミ、色々気を付けなね?」

 アロイスにポンポンと頭を撫でられたあと、クラウスも同じように頭を撫でてくる。
 そのあとマティアスが無言で同じようにしてきた。

「……私の頭、触ってもご利益ないんだけどな」

「少なくとも俺にはあるから、大丈夫だよ」

 玄関に向かう三人を見送る香澄の隣で、佑が微笑む。

「カスミ! 一週間分のハグ!」

 バッと双子が両腕を広げ、香澄はビクッとして固まる。
 恐る恐る佑を振り向くと、彼は腕組みをして首を横に振った。
 なので、握手だけしておく事にした。

「一週間、お元気で」

 アロイスの大きな手をキュッと握ると、途端に彼の表情がだらしなく緩む。

「あぁ、この小さくて柔らかい手。たまんないね」

「ずるい、アロ。僕も!」

 香澄の右手をクラウスが奪い、にぎにぎと握ってくる。

「じゃあね! カスミ」

 そのままクラウスは香澄の手を引っ張り、自分の腕の中に収めてハグした挙げ句、頬にキスをしてきた。

「わっ」

「クラ!」

 佑が声を上げた瞬間、クラウスはペロッと舌を出して玄関ドアをすり抜けていった。

「……はぁ……」

 ようやく佑と二人きりになったが、とても濃厚なひとときを過ごした気がして、思わず溜め息を漏らす。

「まったく……」

 佑は腕を組んだまま廊下の壁にもたれ掛かり、深い溜め息をついた。
 彼はそのまま香澄を見てくるが、その視線がどこか色っぽくて、思わず視線を逸らした。

「怪我はないな?」

 そう言って、佑が香澄の頬をスルリと撫でてくる。

「ん? ないよ」

 佑はスリスリと香澄の頬を撫で、髪をかき分けたあと、首筋や肩にも触れる。

「おいで」

 言われて、香澄は佑が両手を広げた中にポスンと収まった。

 そのまま、佑は玄関ホールのソファに座る。

 香澄は佑の膝の上に座り、彼の胸板に額をつけた。
 そして彼に軽く抱きついた体勢でリラックスして息をつく。

「あのね、佑さん」

 昼休憩から戻らなかった事を謝ろうとしたが、佑に「しぃ」と黙っているよう窘められた。
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