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第十六部・クリスマス 編

妙な雰囲気

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「俺たちはまだ仕事がある。昼間は家を空けるのに、お前たちを放置できないだろう」

「えー? いいじゃん。サイトーさん? 彼女と一緒に料理作って待っててやるよ」

(ああ、斎藤さん……)

 双子は既婚者で子供がいようが、構わないらしい。

 斎藤も初め、ナンパではないものの気安く話し掛けられ、戸惑っていた。

 しかし彼女はフランスで修行しただけあり、コミュニケーション能力が高くてすぐに双子に順応した。

「カスミからも何か言ってよ!」

 突然クラウスに絡まれ、香澄は「えっ?」と声を漏らす。

「え……あ、……あのう」

 何か言おうとしたが、へたな事を言えば地雷を踏んでしまうと思い、とっさにピザを頬張った。

「んむっ」

「あー、食って誤魔化した」

「可愛いから許されるよねー。もー」

 双子がブツブツ言っている時、マティアスが口を挟んだ。

「予定通りいこう。カイたちに仕事があるのは分かっていたじゃないか。それまで一週間、自由に遊ぶんだろう? 札幌のバーテンダーに会いに行くんじゃなかったのか?」

 言われて、急に双子は上機嫌になる。

「まぁねー。ミサト、寂しがってると思うし」

「そうそう。久しぶりだなー。僕たちの新しい家に招待したら、喜んでくれるかな。リモートでは確認したけど、現地は見てないんだよね。内装はインテリアデザイナーに頼んだから、間違いないはずなんだけど……」

「家具も全部揃えたあとなんですか!?」

 ピザを食べている途中で声を上げると、双子が元気よく「うん!」と返事をした。

「だって新しい家には、新しい気分で臨まないとね?」

「和室もあるし、日本人のインテリアデザイナーにうまく選んでもらったよ。楽しかったなー!」

「カスミも来てよね! 泊まれる部屋あるからね!」

「そのうち、佑さんと一緒なら」

 一歩引いた返事をしたが、双子はキャッキャとはしゃいで特に突っ込みを入れない。

「北海道って庭でジンギスカンやってもいいんだって?」

「場所によるんじゃないでしょうか? 広い庭ならアリかもですが、あんまり煙が立つと、匂いがしますし、火事と勘違いされても困りますし」

「ふーん」

 双子は気のない返事をするが、諦めた感じではない。

(大丈夫かなぁ……)

 香澄はヒヤヒヤしつつもピザの残りを口に入れ、もぐもぐと食べる。

「美里さんとは、連絡続いているんですか?」

 香澄には、例の札幌のバーテンダーからは連絡がない。

 連絡先を交換したのは、友達目的というより「困った事があったら頼ってほしい」という主旨だった。

 なので「連絡がないという事は、あまり困っていないのかな?」と思っていたのだが。

「ミサトの事が知りたくて質問ばっかりしてたら、返事がこなくなっちゃって」

 アロイスが肩をすくめ、クラウスに向かって「なぁ?」と同意を求める。

「そうそう。『何か気に障った?』って言っても返事がなくて。だから一週間早く入国して、ミサトに会おうと思ってるんだ。傷付けたなら謝ろうと思って」

「それ、私たちに会いに来るよりも先に、まっすぐ札幌に行かないと駄目なやつじゃないですか」

 思わず突っ込んだが、その瞬間、四人からなぜか強い視線をもらった。

(…………ん?)

 きょろ、と目を動かして佑、マティアス、双子……と見ていくが、全員香澄と目が合うとそれとなく視線を逸らす。

「????」

 目を瞬かせ頭の中を疑問符で一杯にさせた香澄の頭を、佑がポンポンと撫でてくる。

「香澄の言う通りだな。女性の機嫌を損ねたなら、すぐフォローしないと」

 佑が言ったあと、双子は溜め息をつき、同じタイミングでビールの缶に手を伸ばしてクーッと残りを飲む。

「そーだけどさぁ」

 クラウスはもの言いたげな目を香澄に向け、ステーキを口に入れる。

「カスミ、美味い?」

 アロイスに尋ねられ、香澄は笑顔で頷く。

「美味しいです!」

「そ、良かった」

 にっこりと微笑まれるものの、先ほどの妙な雰囲気が気になってしまうのだった。
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