上 下
996 / 1,508
第十六部・クリスマス 編

仕事を終えた佑の帰宅

しおりを挟む
 そんな彼女をみてクラウスが言う。

「香澄が悩む事じゃないよ。これはマティアスの生き方だ。こいつはあますほど資産を持ってるし、ちょっとやそっと自由に生きても死なないよ。僕らと同じく手堅い投資してるし、会社勤めをしなくても投資家として生きていけるんじゃない?」

「そうですね」

 香澄は投資をあまり知らないため、投資家がどれだけ儲かっているのか分からない。
 なのでぼんやりとした返事をしておいた。

「マティアスの話は置いといてさ、カスミの話をしてよ。ここ三か月元気だった?」

 改めて「久しぶりだね」という話題に戻り、香澄は佑とヨーロッパを回った事や帰国してからの事を話し始めた。



**



「なに……やってるんだ」

 十八時半すぎになって佑が部屋にやってきた。

 しかし彼はリビングですでに開かれているピザパーティーに目を丸くし、固まってしまった。

「んぐ、んっ、む、……ふっ、――――んぐっ」

 香澄はピザを頬張ったまま振り返り、佑に何か言おうとして、呑み込みかけたピザに噎せる。

「あっ、ちょ……何か飲んで!」

 慌てて佑は香澄の前にあったグラスを掴み、彼女の唇につける。

「んっ……く、ん、ん、ん……っぷ、ぁ! あ、ありがとう……」

「どういたしまして。具合はいいのか?」

「うん、全然」

 唇の周りについたソースをペロリと舐める香澄を見て、佑は「はぁ……」と溜め息をつく。

「タスクも食ったら? いま来たばっかりだからあったかいよ」

 クラウスに言われ、佑はもう一度テーブルにぎっしりと置かれたイタリアンデリバリーを見て溜め息をつく。

「……スーツ脱いでくる」

 そして諦めたように言うと、部屋の奥に行ってしまった。

「そういえば、タスクの飲み物考えてなかったね?」

「その辺のお茶でいいだろ」

 やはり双子の佑の扱いは雑だ。

 二人は「それもそっか」と言うと、またピザに齧り付いた。

 マティアスは「先に野菜から」と言って、取り皿に盛ったサラダをムシャムシャ食べている。

 香澄はティッシュで口元を拭って立つと、隣にいるアロイスの脚を跨いで佑を追いかける。

(えっと……)

 目覚めてからずっとリビングで話していたので、ここの間取りを分かっていない。

 幸いにも電気がついていたので、彼が向かった部屋が分かった。
 香澄は明かりが漏れている部屋を覗き込み、「佑さん」と呼ぶ。

「ん?」

 そこにはシャツを脱いで、今まさにスラックスを脱ごうとしている佑がいた。

「ひゃあっ」

 香澄は悲鳴を上げ、バッと廊下の壁に貼り付いた。
 すると佑がクツクツと笑う。

「着替えを見たぐらいで、今さら何を恥ずかしがってるんだ」

 衣擦れの音がしたあと、上半身裸の佑が姿を現す。
 下半身はジーンズを穿いているのでホッとした。

「だって……。最初から見てるのと、不可抗力で見ちゃったのとでは、心構えが違うもの」

 言い返してから服を全部着るまでは……と後ろを向くと、背後から壁ドンされた。

「ドキドキしてる?」

 耳元で佑が囁き、彼の声を聞いただけで胸の奥がキュンとする。

「ぅ……。し、してるよ……。……いつだって、ドキドキしてる」

 素直に答えて振り向き、上目遣いに睨むと、佑っは笑み崩れた。

「俺もだよ。毎日香澄に恋してる」

 幸せそうに微笑んだ彼は、チュッとキスしてきた。
 そして「Tシャツは……」と言って、またウォークインクローゼットに戻る。

「このマンション、使ってるの? 会社の下にあるんだね? 私、初めて入った」

 ここがTMタワーの中である事は、さっき双子から聞いた。

 佑からも以前、自社ビルに家があると聞いていたが、まさかそこに寝かされていたとは思っていなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

[完結]キツネの嫁入り

66
BL / 完結 24h.ポイント:937pt お気に入り:381

女嫌いの騎士は呪われた伯爵令嬢を手放さない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:950

後宮に咲く薔薇

恋愛 / 完結 24h.ポイント:20,775pt お気に入り:773

【R-18】八年執着されましたが、幸せです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:616

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:380

処理中です...