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第十六部・クリスマス 編
シリアスなティータイム
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「アロクラがカイ達と合流する前に、ある程度日本を満喫しておきたいと言って、予定より二週間早めにドイツをでた」
「二週間も?」
佑は目を瞬かせる。
「ああ、途中で香港に寄っていた。飲茶や点心、美味かったぞ」
「はぁ……、なるほど。そっちはホリデーか」
ブルーメンブラットヴィルがあるバイエルン州のホリデーは、二十三日頃からだ。
だが彼らが休むと言えば『アロクラ』は休みになるのだろう。
「アロクラは、六本木の店舗を見に行ったのもあるが、あそこのタワーで催されている、クリスマスマーケットを見たかったようだ。国で毎年催されているのに、日本に来てまで見たがる気持ちは、俺には分からないが」
「そうか」
佑は適当に茶葉を選び、ティーポットを温めたりなど手際よく準備をする。
「日本語が随分堪能になったな」
「ああ、フラウ・セツコにみっちりと教わった。カスミの友人になるためには、やはり母国語で話せたほうが、上手にコミュニケーションを取れる気がした」
その答えを聞き、佑は微妙な顔になる。
「……香澄のためか?」
そう言われ、マティアスはさすがに佑が言わんとする事を理解し、首を横に振る。
「カスミに異性への感情はない。彼女が望んだ通り、友人でありたいだけだ。俺は一生をかけて、よき友人として彼女を守りたい」
愚かな過ちをした自分には、それぐらいしか罪を償う方法はない。
彼はそう思っている。
香澄があっさりと自分を許したからこそ、マティアスは一生彼女を守らなければと思っている。
「…………お前がきちんとわきまえてくれているなら、俺は何も言わない。どうか信頼させてくれ。……完全に信頼できるまでには、まだ時間がかかるかもしれないが」
苦悩に満ちた佑の表情を見て、マティアスは無理もないと頷く。
「もう二度と裏切らない。カイの気持ちも分かるつもりだ。俺はただ、信じてもらえるまで、誠実に行動するのみだ」
「分かった」
佑はお湯が沸く寸前で火を止め、ティーポットにお湯を注いでゆく。
彼はもともと香澄以外には口数が多くないため、沈黙したまま茶葉が開くのを待つ。
「香澄の飲まされた薬物に、検討はつくか?」
やがて佑がマティアスにお茶をだす。
マティアスがストレートで飲むのを分かっているので、ミルクなどは置かない。
「コーヒーショップは路面店だ。人の出入りも多いだろう。女が声を掛けてカスミを油断させ、男が見張りをしている間に飲み物に混入させた可能性が高い。即効性の物を飲まされたとして、誘拐して移動するなら、その間も眠ってもらわないと困るだろう。だから持続性の物も飲まされたと思っている」
佑は目の前の空間をジッと見つめてから、溜め息をつく。
「相手に見当はついているか? 俺も可能な限り協力する」
マティアスが申し出たが、佑はハッキリ言えない。
「……あると言えばあるし、ないと言えばない。息をするように敵を作っている自覚はある」
「……カイやアロクラぐらい有名だと、そういう心配は常にあるよな」
有名ゆえの苦悩を思い、マティアスは同情する。
マティアスが知っているだけでも、エミリアにだって嫌がらせの郵便物やメールが届いていた。
佑にだってそのような物が届く事はあるだろうし、双子からも笑い話として嫌がらせの話を聞いている。
香澄は佑の大きな弱点だ。
エミリアが敵になった時は、彼女の個人的な感情が原因だった。
彼女の事件は終わったとしても、いつ誰から恨みを買い、香澄を狙われるか分からない。
アパレル界で王者と呼ばれているChief Everyだからこそ、業界で鎬を削っている他の企業や、末端の小さな会社に恨まれている可能性は高い。
はたまた、仕事は関係なく御劔佑という個人に恨み、または一方的な感情を抱いている者がいる可能性もある。
「香澄を誘拐しようとした人物の詳細は?」
佑は紅茶を飲んで尋ねる。
そう言われ、マティアスはスマホを出して写真を見せた。
「主犯らしき女は若く見せていたが三十代。染めたブロンドだった。目はブルーだったが、カラーコンタクトの可能性も高い。コーカソイドで出身国は恐らくアメリカ。身長百七十五に至らないほど、普通体型。旅行者風で赤のダウンジャケットにジーンズ。人一人入りそうな大きなブルーのスーツケースを持っていた」
マティアスは脳内に叩き込んだ情報を佑に話していく。
「二週間も?」
佑は目を瞬かせる。
「ああ、途中で香港に寄っていた。飲茶や点心、美味かったぞ」
「はぁ……、なるほど。そっちはホリデーか」
ブルーメンブラットヴィルがあるバイエルン州のホリデーは、二十三日頃からだ。
だが彼らが休むと言えば『アロクラ』は休みになるのだろう。
「アロクラは、六本木の店舗を見に行ったのもあるが、あそこのタワーで催されている、クリスマスマーケットを見たかったようだ。国で毎年催されているのに、日本に来てまで見たがる気持ちは、俺には分からないが」
「そうか」
佑は適当に茶葉を選び、ティーポットを温めたりなど手際よく準備をする。
「日本語が随分堪能になったな」
「ああ、フラウ・セツコにみっちりと教わった。カスミの友人になるためには、やはり母国語で話せたほうが、上手にコミュニケーションを取れる気がした」
その答えを聞き、佑は微妙な顔になる。
「……香澄のためか?」
そう言われ、マティアスはさすがに佑が言わんとする事を理解し、首を横に振る。
「カスミに異性への感情はない。彼女が望んだ通り、友人でありたいだけだ。俺は一生をかけて、よき友人として彼女を守りたい」
愚かな過ちをした自分には、それぐらいしか罪を償う方法はない。
彼はそう思っている。
香澄があっさりと自分を許したからこそ、マティアスは一生彼女を守らなければと思っている。
「…………お前がきちんとわきまえてくれているなら、俺は何も言わない。どうか信頼させてくれ。……完全に信頼できるまでには、まだ時間がかかるかもしれないが」
苦悩に満ちた佑の表情を見て、マティアスは無理もないと頷く。
「もう二度と裏切らない。カイの気持ちも分かるつもりだ。俺はただ、信じてもらえるまで、誠実に行動するのみだ」
「分かった」
佑はお湯が沸く寸前で火を止め、ティーポットにお湯を注いでゆく。
彼はもともと香澄以外には口数が多くないため、沈黙したまま茶葉が開くのを待つ。
「香澄の飲まされた薬物に、検討はつくか?」
やがて佑がマティアスにお茶をだす。
マティアスがストレートで飲むのを分かっているので、ミルクなどは置かない。
「コーヒーショップは路面店だ。人の出入りも多いだろう。女が声を掛けてカスミを油断させ、男が見張りをしている間に飲み物に混入させた可能性が高い。即効性の物を飲まされたとして、誘拐して移動するなら、その間も眠ってもらわないと困るだろう。だから持続性の物も飲まされたと思っている」
佑は目の前の空間をジッと見つめてから、溜め息をつく。
「相手に見当はついているか? 俺も可能な限り協力する」
マティアスが申し出たが、佑はハッキリ言えない。
「……あると言えばあるし、ないと言えばない。息をするように敵を作っている自覚はある」
「……カイやアロクラぐらい有名だと、そういう心配は常にあるよな」
有名ゆえの苦悩を思い、マティアスは同情する。
マティアスが知っているだけでも、エミリアにだって嫌がらせの郵便物やメールが届いていた。
佑にだってそのような物が届く事はあるだろうし、双子からも笑い話として嫌がらせの話を聞いている。
香澄は佑の大きな弱点だ。
エミリアが敵になった時は、彼女の個人的な感情が原因だった。
彼女の事件は終わったとしても、いつ誰から恨みを買い、香澄を狙われるか分からない。
アパレル界で王者と呼ばれているChief Everyだからこそ、業界で鎬を削っている他の企業や、末端の小さな会社に恨まれている可能性は高い。
はたまた、仕事は関係なく御劔佑という個人に恨み、または一方的な感情を抱いている者がいる可能性もある。
「香澄を誘拐しようとした人物の詳細は?」
佑は紅茶を飲んで尋ねる。
そう言われ、マティアスはスマホを出して写真を見せた。
「主犯らしき女は若く見せていたが三十代。染めたブロンドだった。目はブルーだったが、カラーコンタクトの可能性も高い。コーカソイドで出身国は恐らくアメリカ。身長百七十五に至らないほど、普通体型。旅行者風で赤のダウンジャケットにジーンズ。人一人入りそうな大きなブルーのスーツケースを持っていた」
マティアスは脳内に叩き込んだ情報を佑に話していく。
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