上 下
991 / 1,544
第十六部・クリスマス 編

シリアスなティータイム

しおりを挟む
「アロクラがカイ達と合流する前に、ある程度日本を満喫しておきたいと言って、予定より二週間早めにドイツをでた」

「二週間も?」

 佑は目を瞬かせる。

「ああ、途中で香港に寄っていた。飲茶や点心、美味かったぞ」

「はぁ……、なるほど。そっちはホリデーか」

 ブルーメンブラットヴィルがあるバイエルン州のホリデーは、二十三日頃からだ。
 だが彼らが休むと言えば『アロクラ』は休みになるのだろう。

「アロクラは、六本木の店舗を見に行ったのもあるが、あそこのタワーで催されている、クリスマスマーケットを見たかったようだ。国で毎年催されているのに、日本に来てまで見たがる気持ちは、俺には分からないが」

「そうか」

 佑は適当に茶葉を選び、ティーポットを温めたりなど手際よく準備をする。

「日本語が随分堪能になったな」

「ああ、フラウ・セツコにみっちりと教わった。カスミの友人になるためには、やはり母国語で話せたほうが、上手にコミュニケーションを取れる気がした」

 その答えを聞き、佑は微妙な顔になる。

「……香澄のためか?」

 そう言われ、マティアスはさすがに佑が言わんとする事を理解し、首を横に振る。

「カスミに異性への感情はない。彼女が望んだ通り、友人でありたいだけだ。俺は一生をかけて、よき友人として彼女を守りたい」

 愚かな過ちをした自分には、それぐらいしか罪を償う方法はない。

 彼はそう思っている。

 香澄があっさりと自分を許したからこそ、マティアスは一生彼女を守らなければと思っている。

「…………お前がきちんとわきまえてくれているなら、俺は何も言わない。どうか信頼させてくれ。……完全に信頼できるまでには、まだ時間がかかるかもしれないが」

 苦悩に満ちた佑の表情を見て、マティアスは無理もないと頷く。

「もう二度と裏切らない。カイの気持ちも分かるつもりだ。俺はただ、信じてもらえるまで、誠実に行動するのみだ」

「分かった」

 佑はお湯が沸く寸前で火を止め、ティーポットにお湯を注いでゆく。

 彼はもともと香澄以外には口数が多くないため、沈黙したまま茶葉が開くのを待つ。

「香澄の飲まされた薬物に、検討はつくか?」

 やがて佑がマティアスにお茶をだす。
 マティアスがストレートで飲むのを分かっているので、ミルクなどは置かない。

「コーヒーショップは路面店だ。人の出入りも多いだろう。女が声を掛けてカスミを油断させ、男が見張りをしている間に飲み物に混入させた可能性が高い。即効性の物を飲まされたとして、誘拐して移動するなら、その間も眠ってもらわないと困るだろう。だから持続性の物も飲まされたと思っている」

 佑は目の前の空間をジッと見つめてから、溜め息をつく。

「相手に見当はついているか? 俺も可能な限り協力する」

 マティアスが申し出たが、佑はハッキリ言えない。

「……あると言えばあるし、ないと言えばない。息をするように敵を作っている自覚はある」

「……カイやアロクラぐらい有名だと、そういう心配は常にあるよな」

 有名ゆえの苦悩を思い、マティアスは同情する。

 マティアスが知っているだけでも、エミリアにだって嫌がらせの郵便物やメールが届いていた。
 佑にだってそのような物が届く事はあるだろうし、双子からも笑い話として嫌がらせの話を聞いている。

 香澄は佑の大きな弱点だ。

 エミリアが敵になった時は、彼女の個人的な感情が原因だった。
 彼女の事件は終わったとしても、いつ誰から恨みを買い、香澄を狙われるか分からない。

 アパレル界で王者と呼ばれているChief Everyだからこそ、業界で鎬を削っている他の企業や、末端の小さな会社に恨まれている可能性は高い。

 はたまた、仕事は関係なく御劔佑という個人に恨み、または一方的な感情を抱いている者がいる可能性もある。

「香澄を誘拐しようとした人物の詳細は?」

 佑は紅茶を飲んで尋ねる。

 そう言われ、マティアスはスマホを出して写真を見せた。

「主犯らしき女は若く見せていたが三十代。染めたブロンドだった。目はブルーだったが、カラーコンタクトの可能性も高い。コーカソイドで出身国は恐らくアメリカ。身長百七十五に至らないほど、普通体型。旅行者風で赤のダウンジャケットにジーンズ。人一人入りそうな大きなブルーのスーツケースを持っていた」

 マティアスは脳内に叩き込んだ情報を佑に話していく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...