989 / 1,559
第十六部・クリスマス 編
〝友人〟なら当たり前だ
しおりを挟む
そしてマティアスはすぐにTMタワーに向かい、警備員に話し掛ける。
「タスク・ミツルギに会いたい」
「え? ……どういう……。社長はアポイントのない方にはお会いしませんが……」
警備員は女性――香澄を抱いたマティアスを胡散臭そうに見て、困惑している。
「彼女はChief Everyの社員だ。タスク・ミツルギの秘書で婚約者のカスミ・アカマツだ。嘘だと思うなら直接連絡をすればいい」
そう言われ、警備員は奥に引っ込んで内線から受付に電話をした。
「あー、もしもし。一階警備室ですが、アカマツカスミさんという秘書の方はいらっしゃいますか?」
問いかけてすぐ明瞭な返事をもらったのか、警備員の顔つきが変わる。
「え、いえ。いま海外の方が気絶したアカマツさんを、お姫様抱っこしてるんですよ。それで社長に会わせろと言っていて……」
受付から「お待ちください」と言われたのか、警備員は受話器を持ったまま不審げな目でマティアスを見てくる。
「えっ? 社長自らこちらにいらっしゃる!? は、はい! 待っています!」
警備員は呆然としたまま、受話器を下ろした。
「……い、今、御劔社長がこちらまでいらっしゃるようです。一階は人気が多いので、オフィスエレベーターがあるほうでお待ちください」
そう言って警備員はマティアスをビルの奥にいざなう。
マティアスは香澄を抱いたまま、壁にもたれかかり佑を待つ。
(また怒鳴られても仕方ないが、カスミを助けた経緯を説明しよう。あと、アロクラを呼んでおかなければ。あの男たちが今も倒れていると思えないが、一応現場に戻って確認したほうがいい。コーヒーショップにも手がかりがあるかもしれない)
エレベーターは数基あるが、佑は社長室から来るだろうから、目の前のエレベーターからは来ないかもしれない。
香澄を見ると、無防備にくうくう眠っている。
(即効性の睡眠薬だろうな。即効性は持続時間は短いはずだ。別の場所にカスミを運ぶつもりだったなら、持続時間の長い物も混入した可能性がある)
可能ならどこかに寝かせてあげたいが、このビルに香澄を寝かせるベッドはあるのだろうか。
高層ビルの場合、他のフロアがマンションになっている事も多いが、佑なら自分の家を持っているだろうか。
考えていると奥からカツカツと足音が聞こえ、スーツ姿の佑が姿を現した。
「香澄!!」
彼はぐったりとした香澄の姿を見て、蒼白になって固まったあと、残る距離を走ってきた。
「マティアス! どういう事だ!」
表情を険しくする佑を見て、マティアスは「やっぱりな」と思いつつ冷静に説明する。
「カスミが謎の男二人と女一人に、誘拐されかけていた。俺はコーヒーショップの前で、男がカスミを担いで出てきたところに遭遇した。恐らく中で女に声を掛けられ、薬の入ったコーヒーを飲まされたのだと思う」
〝薬〟という単語を聞いて、佑の唇が震える。
「男二人は撃退したが、女は逃がした。多分、今コーヒーショッに戻っても、奴らはいないと思う」
「そう……か……。…………礼を言う……」
佑は両手を差しだし、マティアスから香澄を抱き受ける。
香澄の無防備な寝顔を見て、佑は一瞬泣きだしそうな表情になり――、ぐっと堪えてマティアスを見た。
「お前がいなかったら、香澄は誘拐されていただろう。近場だと思って油断した俺の落ち度だ。改めて礼を言う」
「構わない。俺はカスミを一生かけて守ると誓った。〝友人〟なら当たり前だ」
マティアスはいつもと変わらず冷静な口調で言う。
佑は溜め息をつき、警備員を見る。
「知らせてくださってありがとうございます。この女性は、最重要人物として覚えておいてください」
警備員は佑を前にして、蒼白になっていた。
「は、はい。申し訳ございません……」
「この女性は私の婚約者です。どうかこれからもしっかり警備をお願いします」
「はいっ」
佑は直立不動になった警備員に会釈し、「来てくれ」とマティアスに顎をしゃくる。
二人は一階のさらに奥に進み、エレベーターに乗る。
「タスク・ミツルギに会いたい」
「え? ……どういう……。社長はアポイントのない方にはお会いしませんが……」
警備員は女性――香澄を抱いたマティアスを胡散臭そうに見て、困惑している。
「彼女はChief Everyの社員だ。タスク・ミツルギの秘書で婚約者のカスミ・アカマツだ。嘘だと思うなら直接連絡をすればいい」
そう言われ、警備員は奥に引っ込んで内線から受付に電話をした。
「あー、もしもし。一階警備室ですが、アカマツカスミさんという秘書の方はいらっしゃいますか?」
問いかけてすぐ明瞭な返事をもらったのか、警備員の顔つきが変わる。
「え、いえ。いま海外の方が気絶したアカマツさんを、お姫様抱っこしてるんですよ。それで社長に会わせろと言っていて……」
受付から「お待ちください」と言われたのか、警備員は受話器を持ったまま不審げな目でマティアスを見てくる。
「えっ? 社長自らこちらにいらっしゃる!? は、はい! 待っています!」
警備員は呆然としたまま、受話器を下ろした。
「……い、今、御劔社長がこちらまでいらっしゃるようです。一階は人気が多いので、オフィスエレベーターがあるほうでお待ちください」
そう言って警備員はマティアスをビルの奥にいざなう。
マティアスは香澄を抱いたまま、壁にもたれかかり佑を待つ。
(また怒鳴られても仕方ないが、カスミを助けた経緯を説明しよう。あと、アロクラを呼んでおかなければ。あの男たちが今も倒れていると思えないが、一応現場に戻って確認したほうがいい。コーヒーショップにも手がかりがあるかもしれない)
エレベーターは数基あるが、佑は社長室から来るだろうから、目の前のエレベーターからは来ないかもしれない。
香澄を見ると、無防備にくうくう眠っている。
(即効性の睡眠薬だろうな。即効性は持続時間は短いはずだ。別の場所にカスミを運ぶつもりだったなら、持続時間の長い物も混入した可能性がある)
可能ならどこかに寝かせてあげたいが、このビルに香澄を寝かせるベッドはあるのだろうか。
高層ビルの場合、他のフロアがマンションになっている事も多いが、佑なら自分の家を持っているだろうか。
考えていると奥からカツカツと足音が聞こえ、スーツ姿の佑が姿を現した。
「香澄!!」
彼はぐったりとした香澄の姿を見て、蒼白になって固まったあと、残る距離を走ってきた。
「マティアス! どういう事だ!」
表情を険しくする佑を見て、マティアスは「やっぱりな」と思いつつ冷静に説明する。
「カスミが謎の男二人と女一人に、誘拐されかけていた。俺はコーヒーショップの前で、男がカスミを担いで出てきたところに遭遇した。恐らく中で女に声を掛けられ、薬の入ったコーヒーを飲まされたのだと思う」
〝薬〟という単語を聞いて、佑の唇が震える。
「男二人は撃退したが、女は逃がした。多分、今コーヒーショッに戻っても、奴らはいないと思う」
「そう……か……。…………礼を言う……」
佑は両手を差しだし、マティアスから香澄を抱き受ける。
香澄の無防備な寝顔を見て、佑は一瞬泣きだしそうな表情になり――、ぐっと堪えてマティアスを見た。
「お前がいなかったら、香澄は誘拐されていただろう。近場だと思って油断した俺の落ち度だ。改めて礼を言う」
「構わない。俺はカスミを一生かけて守ると誓った。〝友人〟なら当たり前だ」
マティアスはいつもと変わらず冷静な口調で言う。
佑は溜め息をつき、警備員を見る。
「知らせてくださってありがとうございます。この女性は、最重要人物として覚えておいてください」
警備員は佑を前にして、蒼白になっていた。
「は、はい。申し訳ございません……」
「この女性は私の婚約者です。どうかこれからもしっかり警備をお願いします」
「はいっ」
佑は直立不動になった警備員に会釈し、「来てくれ」とマティアスに顎をしゃくる。
二人は一階のさらに奥に進み、エレベーターに乗る。
23
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる