【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十六部・クリスマス 編

香澄は、最初の位置から動いてないよ

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 壁には高級そうな絵画が掛かっていて、大きな鏡がついた手洗いも独立してついている。

 棚にはステンドグラスのランプがあり、小さめの観葉植物も置かれてあった。

 香澄はひとまず用を足して手を洗い、鏡で自分の顔をぼんやりと見た。

(……さっき目を擦ったから、マスカラ落ちてる)

 洗面所にあるティッシュを濡らし、ちょいちょいと目の下を擦ると何とか見られる顔になり、ホッと息をつく。

 手洗いを出てリビングに向かうと、セーターにジーンズという格好をした双子が「おかえり」と笑いかけてくれた。

 二人はいつも通り、シンプルながら質のいい服を着ている。
 セーターはアロイスがカーキ色、クラウスがネイビーだ。

 マティアスはキッチンで冷蔵庫を覗いている。

「カスミ、ここ座りなよ」

 アロイスが言い、ポンポンと高級そうなソファの座面を叩く。
 リビングダイニングは何十畳もありそうで、香澄は贅をこらした内装を見てボーッとしていた。

「カスミ、オレンジジュースを飲めるか?」

 が、マティアスに尋ねられ、ハッと我に返る。

「あ、はい! いただきます」

「その前にとりあえず、水をたんまり飲ませたほうがいいよ」

「そうだな」

 双子の言葉を聞いて「なぜお水?」と思った時、窓の外がとっぷりと暮れているのにようやく気づいた。

「あれっ? えっ? 夜!? 嘘! 私、仕事……」

「まぁまぁ、タスクならそのうち来るから安心しなよ。ちゃんと報告しておいたから」

 アロイスが香澄の肩に手を置き、ポンポンと軽く叩いてくる。

「ほ、本当ですか? こ、ここ、どこでしょうか?」

 混乱した香澄は、眼下に広がる摩天楼を見ても、いまだどこにいるか分かっていない。

「どこって……」

 アロイスはクラウスと顔を見合わせ、にんまりと笑った。

 そしてサウンドスピーカーかと思うほどピッタリ息を合わせ、答えた。

「「香澄は、最初の位置から動いてないよ」」



**



 香澄を助けたマティアスは、彼女を抱いてTMタワーに向かった。

 双子の提案で予定より早く日本入りしたマティアスは、ホテルに荷物を置き、一人でぶらりと佑の自社ビルを見学しにきた。

 佑とは因縁があるのだが、今回は彼の家に世話になる。

 そうなるよう提案してくれたのは香澄だ。
 彼女には多大な迷惑をかけてしまったのに、縁を切らず許してくれた。

 佑は香澄を溺愛している。

 今回の滞在に関する連絡で特に何も言われていないが、佑が香澄に頼まれて折れ、自宅に招待してくれたのは間違いない。

 彼が自分への悪感情より香澄を優先しているなら、自分もそれに倣い、楽しく過ごせるよう努力しなければと思っている。

 マティアスにも訪日した際に行きたい所はあったが、まずは佑がどんなビジネスを展開しているか見に行こうと思った。

 佑と知り合ったのはドイツで、今まで何度か顔を合わせていたのもヨーロッパがメインだ。
 彼が手広く事業をしていると聞いていたものの、実際その仕事ぶりを目にしていなかったので興味があった。

 勿論ドイツにもChief Everyの店舗はあるし、CEPが世界的に有名なハイブランドなのも知っている。
 だがドイツにいるマティアスにとってのChief Everyは、〝有名な店〟というだけだ。

 だから日本にある自社ビルを訪ね、佑がどれだけ立派な男なのか、この目で確認したいと思っていた。

 あと少しでTMタワーに差し掛かるという時、いきなり目の前のコーヒーショップから外国人の男二人がでてきた。

 普通なら気にも留めなかったが、男の一人が香澄を背負っていたのは見逃せなかった。

 ――これは誘拐の瞬間だ。

 理解したあとは、何も考えず体が動いた。

 あれだけ可哀想な目に遭った彼女を、これ以上の悲劇に見舞わせてはいけない。

 自分には、彼女が幸せになるのを見守る義務がある。

 相手の力量を知らず立ち向かうのは、愚の骨頂だ。

 だが対峙してすぐ、相手がただのゴロつきレベルだと理解した。

 すぐ冷静になったマティアスは、相手の動きを見きって急所に重たい一撃を叩き込み、即座に黙らせた。

 実戦では、いかに相手を早く沈黙させるかに限る。

 本当は誰が香澄を誘拐するよう命令したのか、聞き出したかった。

 だが今は自分しかいないので、まずは香澄の身の安全を確保するのを優先し、男たちの顔を写真に収めてその場を立ち去ったのだった。
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