987 / 1,549
第十六部・クリスマス 編
目覚めるとドイツ組
しおりを挟む
『こっちに向かっているわ。合流地点まで少し歩くわよ』
女性が男性二人に言い、歩きだす。
その時――。
『その人をどこに連れて行くつもりだ』
三人の前に立ちはだかったのは、――マティアスだ。
彼は青い目を眇め、臆する事なく大股に三人に近付いてくる。
香澄を背負っていない男性が、突然マティアスにパンチした。
が、彼は難なく躱したあと、相手の空いた胴に肘を打ち込む。
「Damn!」
痛みに顔を歪めた彼の足を払い、次の瞬間マティアスは男の顔面に躊躇いなく掌底を叩き込んでいた。
「!!」
鼻をへし折られた男は鼻血を噴き出しながら体勢を崩し、さらに鳩尾にマティアスの重たい拳を受ける。
『こいつ!』
もう一人の男は香澄を乱暴に金髪の女性に押しつけ、マティアスに殴りかかってきた。
だがマティアスは男の腕をパンッと横に受け流すと、がら空きになった相手の鼻っ柱に、やはり掌底を叩き込んだ。
直後、冷静に男の急所を膝で蹴り上げ、声もなく崩れ落ちた男には目もくれず、香澄を抱えたまま固まっている女性に目を向ける。
周囲には人だかりができ、スマホで動画を撮っている者もいる。
『カスミを返せ。女でも容赦しない』
低く告げたマティアスに勝てる見込みがないと思ったのか、女性は香澄の体をドンッと突き飛ばし走っていった。
『っと……』
とっさに香澄を受け止めたマティアスは、チラッと男二人の様子を見る。
まだ起き上がらない事を確認すると、彼は足で男たちを転がし、その顔や全身をスマホで遠慮なくバシャバシャと撮る。
そのあと香澄を抱いたまま、歩いていった。
**
「ん……」
(喉渇いた。おしっこしたい……)
香澄はそんな事を考えながら、意識を浮上させた。
なぜだか起きるのがとても億劫で、指先を動かすのも怠い。
目を覚ますとベッドに寝かされていて、見た事のない部屋の内装が目に入る。
「どこ……ここ……」
ベッドはキングサイズで、香澄はずり、ずりと体をずらしてベッドの端を目指す。
床に足をつけると、足はストッキングのままだ。
香澄は眠たくて堪らない目を擦りながら、フローリングの上を歩いていく。
そこはまるでホテルのスイートルーム――に思えるが、マンションにも思える。
「どこ……」
普通なら混乱して怯えるはずなのに、香澄はぼんやりとしたまま徘徊した。
何せ部屋数が異常に多く、玄関の位置は分からないし、どこが何の部屋かも分からない。
やがてボソボソと話し声が聞こえるのが聞こえ、そちらに足を向けると――。
「あれ、起きてきた」
こちらを見てパチリと青い目を瞬かせたのは――どちらだろう。
「あ、ホントだ」
一拍遅れて、同じ顔がこちらを見る。
もう一人、茶色い髪に青い瞳の彼は――マティアスだ。
「カスミ大丈夫か?」
マティアスに尋ねられ、香澄はボーッとしたまま彼に返事をする。
「日本語お上手になりましたね」
「…………」
しばしの沈黙のあと、双子が両手を打ち鳴らしてゲラゲラと笑いだした。
「これだよーー! 僕らのお姫様は!」
「平和! 日本ってめっちゃ平和だねぇ!」
「あ……あの……。えーと……」
何か話そうと思ったが、とりあえず手洗いを済ませたい。
「す、すみません。お手洗いどこですか?」
「案内しよう」
おずおずと尋ねた香澄に、マティアスが立ち上がって先を歩いた。
「何か飲み物を用意しておく。長く眠っていたから、喉が渇いているだろう」
「ありがとうございます」
案内された手洗いに入ると、ホテルのように広々とした作りだ。
女性が男性二人に言い、歩きだす。
その時――。
『その人をどこに連れて行くつもりだ』
三人の前に立ちはだかったのは、――マティアスだ。
彼は青い目を眇め、臆する事なく大股に三人に近付いてくる。
香澄を背負っていない男性が、突然マティアスにパンチした。
が、彼は難なく躱したあと、相手の空いた胴に肘を打ち込む。
「Damn!」
痛みに顔を歪めた彼の足を払い、次の瞬間マティアスは男の顔面に躊躇いなく掌底を叩き込んでいた。
「!!」
鼻をへし折られた男は鼻血を噴き出しながら体勢を崩し、さらに鳩尾にマティアスの重たい拳を受ける。
『こいつ!』
もう一人の男は香澄を乱暴に金髪の女性に押しつけ、マティアスに殴りかかってきた。
だがマティアスは男の腕をパンッと横に受け流すと、がら空きになった相手の鼻っ柱に、やはり掌底を叩き込んだ。
直後、冷静に男の急所を膝で蹴り上げ、声もなく崩れ落ちた男には目もくれず、香澄を抱えたまま固まっている女性に目を向ける。
周囲には人だかりができ、スマホで動画を撮っている者もいる。
『カスミを返せ。女でも容赦しない』
低く告げたマティアスに勝てる見込みがないと思ったのか、女性は香澄の体をドンッと突き飛ばし走っていった。
『っと……』
とっさに香澄を受け止めたマティアスは、チラッと男二人の様子を見る。
まだ起き上がらない事を確認すると、彼は足で男たちを転がし、その顔や全身をスマホで遠慮なくバシャバシャと撮る。
そのあと香澄を抱いたまま、歩いていった。
**
「ん……」
(喉渇いた。おしっこしたい……)
香澄はそんな事を考えながら、意識を浮上させた。
なぜだか起きるのがとても億劫で、指先を動かすのも怠い。
目を覚ますとベッドに寝かされていて、見た事のない部屋の内装が目に入る。
「どこ……ここ……」
ベッドはキングサイズで、香澄はずり、ずりと体をずらしてベッドの端を目指す。
床に足をつけると、足はストッキングのままだ。
香澄は眠たくて堪らない目を擦りながら、フローリングの上を歩いていく。
そこはまるでホテルのスイートルーム――に思えるが、マンションにも思える。
「どこ……」
普通なら混乱して怯えるはずなのに、香澄はぼんやりとしたまま徘徊した。
何せ部屋数が異常に多く、玄関の位置は分からないし、どこが何の部屋かも分からない。
やがてボソボソと話し声が聞こえるのが聞こえ、そちらに足を向けると――。
「あれ、起きてきた」
こちらを見てパチリと青い目を瞬かせたのは――どちらだろう。
「あ、ホントだ」
一拍遅れて、同じ顔がこちらを見る。
もう一人、茶色い髪に青い瞳の彼は――マティアスだ。
「カスミ大丈夫か?」
マティアスに尋ねられ、香澄はボーッとしたまま彼に返事をする。
「日本語お上手になりましたね」
「…………」
しばしの沈黙のあと、双子が両手を打ち鳴らしてゲラゲラと笑いだした。
「これだよーー! 僕らのお姫様は!」
「平和! 日本ってめっちゃ平和だねぇ!」
「あ……あの……。えーと……」
何か話そうと思ったが、とりあえず手洗いを済ませたい。
「す、すみません。お手洗いどこですか?」
「案内しよう」
おずおずと尋ねた香澄に、マティアスが立ち上がって先を歩いた。
「何か飲み物を用意しておく。長く眠っていたから、喉が渇いているだろう」
「ありがとうございます」
案内された手洗いに入ると、ホテルのように広々とした作りだ。
23
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる