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第十六部・クリスマス 編

コーヒーを買いに

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「きっと、同じコミュニティで気の合う人が見つかると思いますよ」

「ライブに行ったら推しを応援するのに必死ですからね。女性に出会いに行くのでは、目的が違ってしまいますから。難しいところです」

「そうですね」

「ま、それはさておき、言いたい事を言えてスッキリしました。そろそろ仕事に戻りましょう」

「はい」

 河野の知られざる一面を知り、香澄は嬉しくなってまたモニターに向き直る。

(これをきっかけに、もっと仲良くなっていけたらいいな)

 微笑んでから、また気を引き締めてマウスを握った。



**



「じゃあ、私、昼休みが終わる前にコーヒーを買ってきます」

「気を付けて」

 昼休みに社員食堂でいつものように佑、三人組とランチを取ったあと、香澄は席を立った。

 時は十二月十八日で、来週頭になればクリスマスだ。

 三人組とは「プレゼント交換しよう」と言っている。
 クリスマス当日は平日なので、昼休みに開封の儀をする予定で、今から楽しみだ。

 今週の平日夜には、四人で集まってクリスマス女子会をする予定になっていた。
 週末は四人とも彼氏と過ごす予定があるので、別途女子会が計画された。

(お泊まりじゃなくて飲むだけだけど、楽しみだな)

 香澄は社長室のあるフロアまでエレベーターで下り、手洗いで歯磨きをしてから社長秘書室のロッカーでコートを着る。

 オフィスフロアから一階まで直通のエレベーターに乗り、一人なのをいい事に鼻歌でクリスマスソングを歌っていた。

(食事が早く終わったから、昼休憩の残り時間がたっぷりあるな。すぐ近くのコーヒーショップじゃなくて、一区画向こうのお店に行こうかな。佑さんはどっちかというと、あっちのお店のコーヒーのほうが好きみたいだし)

 午後の仕事が始まる前、佑と秘書三人分のコーヒーを買いに行くのが香澄の日課になっていた。

 最初は河野が「赤松さん一人に押しつけているみたいなので、ローテーションを組みましょう」と言ってくれた。
 だが香澄は「外の空気を吸いたいので、行かせてください」と言っている。

 コーヒー代は後でそれぞれから徴収しているので、香澄の懐が痛くなる訳でもない。

 秘書室に置いてあるコーヒーマシンで作るコーヒーも悪くないが、どうせなら午後一番に美味しいコーヒーを飲んで仕事をしたい。

 そう思ってのお使いだった。

 地上まで下りると、TMタワーの賑わいを見て思わず笑顔になる。

 佑は最初、自社ビルに何という名前をつけるのか悩んだそうだ。
 しかし最終的に名前のイニシャルを入れてしまえば、宣伝にもなるし覚えやすいと考えてTMタワーと名付けたらしい。

 巨大なクリスマスツリーの前には人が大勢いて、スマホやカメラを向けている。

 クリスマスミュージックもかかり、香澄はルンルンしながらコーヒーショップに向かった。





 一区画離れたコーヒーショップは、チェーン店より専門的な雰囲気があるため、こだわりのありそうな人が客に多い。

 インテリっぽい男性が本を読んでいたり、仕事のできそうなサラリーマンが薄型パソコンを開いてキーボードを叩いている。

 レジ前の列に並ぼうと思った時、女性に声を掛けられた。

「Excuse me.(すみません)」

 英語で話し掛けられ、香澄はピコンと英語脳にシフトする。

『どうかしましたか?』

 振り向くと、いかにも旅行者という風貌の女性がスーツケースを引きずっている。
 化粧っ気のない、二十代半ばぐらいの女性だ。

 英語が通じたと分かった女性は、明らかにホッとした顔になり言葉を続ける。

『ウエノに行きたいんですが、どう行けばいいですか? 日本のメトロ、入り組んでいてよく分からなくて……』

 女性は持ち歩いていた、真新しいガイドブックを見せてくる。

『ああー……と、じゃあ、乗り換えをメモして差し上げますね。コーヒーを買ってから、ちょっとテーブルに座りましょう』

『OK』

 すぐに意気投合し、女性はアメリカから来たという事や、日本縦断をしている途中だという事を気さくに話してくる。
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