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第十六部・クリスマス 編
第十六部・序章1 河野の過去
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その後、佑の国内出張が十二月の上旬にあり、香澄はオフィスで働きながら迫る年末イベントを楽しみにしていた。
そんななか、一つ意外な事があった。
「赤松さんに、一つ謝らないといけませんね」
社長秘書室にいるのは、香澄と河野のみだ。
松井は佑に同行して都内の展示会に向かい、香澄は河野と二人でデスクワークをしていた。
仕事納めの日には忘年会もあり、十二月の予定はパツパツだ。
香澄はリフレッシュのためにコーヒーを淹れようと思い、秘書室にあるコーヒーメーカーで二人分を淹れていた。
デスクに戻った時、いきなり河野にそう言われ、目を瞬かせる。
「え? 謝るって何ですか?」
何かされたっけ? と思うが、心当たりがない。
「僕、一番最初に社長のお宅に伺って、赤松さんにご挨拶をしたじゃないですか」
「ああ、ありましたね。その節は美味しいケーキをありがとうございました」
ペコリと頭を下げるが、河野はどこか微妙な表情で香澄を見つめてくる。
「……? 何でしょうか?」
「いえ。赤松さんは、あのとき何も思いませんでしたか?」
「何もって……」
確かに当時、色々強めに言われたが、自分も多少浮かれていたのもあり、そう思われるのは当然だと思った。
多少悔しく思ったのは確かだが、彼は間違えた事を言っていなかったし、意地悪からではなかった。
河野は前の職場でも秘書をしていて、出身大学も有名大学で、語学力もあるし護身術にも長けていて国際免許も取得している。
これまで秘書一本で生きてきた彼に多少厳しく言われても、佑におんぶに抱っこで秘書の若葉マークを付けている自分は、何も言い返せない。
彼が香澄より優秀なのは言わずもがなだし、秘書という仕事への心構えも違う。
社長が婚約者である秘書に対し、「遊び半分」「恋愛の延長上で仕事をしている」「いい加減」と思われても仕方がない。
けれどあれから半年が経とうとしている。
今は彼の態度もやや軟化していて、彼の人となりも理解している。
言い方や態度に癖はあるものの、悪い人ではないし〝そういう人〟と思えばいちいち反感を抱かずに済む。
だから今は初対面の時に言われた事を、まったく気にしていない。
「相変わらず赤松さんはボケボケしていますね」
溜め息混じりに言われたが、これも通常運転なので何とも思わない。
「はぁ……。何でしょうか?」
「あの時、態度が悪かった事を反省しています」
「え?」
いきなり謝られ、香澄は目を瞬かせる。
頂き物のパイ菓子を囓っていたが、その欠片がポロッと膝の上に落ちた。
「僕は前職でも社長秘書をしていました。某企業の第二秘書でしたね。第一秘書は僕より年上の男性で、途中から第三秘書に若い女性が入ってきました」
「はい」
香澄は河野の身の上話を、咀嚼したお菓子を呑み込んでから真剣に聞く。
「その若い第三秘書の登場で、社長周りがドロドロになってしまったんです。最初、彼女は僕に『飲みに行かないか』と誘ってきました。ノミニケーションという言葉もありますし、後輩と飲むぐらいはいいかと思って数度付き合いました。そのうちホテルに誘われましたが、僕は彼女に何の魅力も感じていなかったので、お断りしました。仕事以外、彼女に興味がなかったんです」
「……まぁ、そうでしょうね。私も同じです」
河野は眼鏡を外すと、レンズの曇りをチェックする。
「それが面白くなかったのか、彼女は第一秘書を落としにかかりました。彼は重役の娘さんと婚約話のある、将来有望な身でした。最初のうちは彼も断っていたようですが、僕の時よりも強引に迫られたようです。そのうち、明らかに関係が親密になったのが分かりました。イチャついている訳ではありませんが、目配せをしたり、明らかに『こいつらヤッたな』という雰囲気をだしているんです」
自分と佑も、そんな雰囲気を醸し出しているかもしれないと思った香澄は、ヒヤッとする。
「やがて彼女は社長にも手をだしました。結果、社長は彼女の毒牙に掛かり、社長室、秘書室、どこに行っても息苦しい日々が続きました」
「泥沼ですね……」
「ここまできたら、もうお察しですよね? 彼女は社長夫人から糾弾され、第一秘書も重役の怒りを買い、上層部は大変な事になりました。僕は火の粉を浴びないようにしていましたが、耐えられなくなって辞職しました」
「それで……Chief Everyに?」
河野に気の毒な過去があったと知り、香澄は何とも言えない気持ちになる。
そんななか、一つ意外な事があった。
「赤松さんに、一つ謝らないといけませんね」
社長秘書室にいるのは、香澄と河野のみだ。
松井は佑に同行して都内の展示会に向かい、香澄は河野と二人でデスクワークをしていた。
仕事納めの日には忘年会もあり、十二月の予定はパツパツだ。
香澄はリフレッシュのためにコーヒーを淹れようと思い、秘書室にあるコーヒーメーカーで二人分を淹れていた。
デスクに戻った時、いきなり河野にそう言われ、目を瞬かせる。
「え? 謝るって何ですか?」
何かされたっけ? と思うが、心当たりがない。
「僕、一番最初に社長のお宅に伺って、赤松さんにご挨拶をしたじゃないですか」
「ああ、ありましたね。その節は美味しいケーキをありがとうございました」
ペコリと頭を下げるが、河野はどこか微妙な表情で香澄を見つめてくる。
「……? 何でしょうか?」
「いえ。赤松さんは、あのとき何も思いませんでしたか?」
「何もって……」
確かに当時、色々強めに言われたが、自分も多少浮かれていたのもあり、そう思われるのは当然だと思った。
多少悔しく思ったのは確かだが、彼は間違えた事を言っていなかったし、意地悪からではなかった。
河野は前の職場でも秘書をしていて、出身大学も有名大学で、語学力もあるし護身術にも長けていて国際免許も取得している。
これまで秘書一本で生きてきた彼に多少厳しく言われても、佑におんぶに抱っこで秘書の若葉マークを付けている自分は、何も言い返せない。
彼が香澄より優秀なのは言わずもがなだし、秘書という仕事への心構えも違う。
社長が婚約者である秘書に対し、「遊び半分」「恋愛の延長上で仕事をしている」「いい加減」と思われても仕方がない。
けれどあれから半年が経とうとしている。
今は彼の態度もやや軟化していて、彼の人となりも理解している。
言い方や態度に癖はあるものの、悪い人ではないし〝そういう人〟と思えばいちいち反感を抱かずに済む。
だから今は初対面の時に言われた事を、まったく気にしていない。
「相変わらず赤松さんはボケボケしていますね」
溜め息混じりに言われたが、これも通常運転なので何とも思わない。
「はぁ……。何でしょうか?」
「あの時、態度が悪かった事を反省しています」
「え?」
いきなり謝られ、香澄は目を瞬かせる。
頂き物のパイ菓子を囓っていたが、その欠片がポロッと膝の上に落ちた。
「僕は前職でも社長秘書をしていました。某企業の第二秘書でしたね。第一秘書は僕より年上の男性で、途中から第三秘書に若い女性が入ってきました」
「はい」
香澄は河野の身の上話を、咀嚼したお菓子を呑み込んでから真剣に聞く。
「その若い第三秘書の登場で、社長周りがドロドロになってしまったんです。最初、彼女は僕に『飲みに行かないか』と誘ってきました。ノミニケーションという言葉もありますし、後輩と飲むぐらいはいいかと思って数度付き合いました。そのうちホテルに誘われましたが、僕は彼女に何の魅力も感じていなかったので、お断りしました。仕事以外、彼女に興味がなかったんです」
「……まぁ、そうでしょうね。私も同じです」
河野は眼鏡を外すと、レンズの曇りをチェックする。
「それが面白くなかったのか、彼女は第一秘書を落としにかかりました。彼は重役の娘さんと婚約話のある、将来有望な身でした。最初のうちは彼も断っていたようですが、僕の時よりも強引に迫られたようです。そのうち、明らかに関係が親密になったのが分かりました。イチャついている訳ではありませんが、目配せをしたり、明らかに『こいつらヤッたな』という雰囲気をだしているんです」
自分と佑も、そんな雰囲気を醸し出しているかもしれないと思った香澄は、ヒヤッとする。
「やがて彼女は社長にも手をだしました。結果、社長は彼女の毒牙に掛かり、社長室、秘書室、どこに行っても息苦しい日々が続きました」
「泥沼ですね……」
「ここまできたら、もうお察しですよね? 彼女は社長夫人から糾弾され、第一秘書も重役の怒りを買い、上層部は大変な事になりました。僕は火の粉を浴びないようにしていましたが、耐えられなくなって辞職しました」
「それで……Chief Everyに?」
河野に気の毒な過去があったと知り、香澄は何とも言えない気持ちになる。
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「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
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