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第十五部・針山夫婦 編
車、全部処分する
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「独り占めしていいよ。香澄はもっと我が儘を言っていい」
「ありがと。……さらに質問だけど、嫌いな人っている? 別れた女の人ってどう思ってる?」
いつの間にか質問タイムになっていて、香澄は好奇心のままに尋ねる。
自分が愛されているのは分かっているが、他の女性の存在が気になるのもまた事実だ。
別れた相手を悪く言ってほしいなど思っておらず、彼が過去の女性、他の女性をどう思っているのか知りたかった。
「時間の無駄だから、切り捨てた人の事は考えないな。経営者をやっていて、ネットで好き勝手に書かれているのは、香澄も知ってるだろう? マスコミにも大げさに書かれた事がある。過去に、大して仲の良くない同級生がそれらを鵜呑みにして、絡まれて不快な思いをした事があったな」
「えぇ? そ、それはやだな……」
まさか同級生がネットの記事を信じると思わなかった。
香澄は表情を歪めるが、佑はケロリとしている。
「そういう奴はどれだけ説明しても聞き入れないし、俺を馬鹿にしたいだけだから、相手にするだけ無駄だけどな。そういう奴に絡まれてると、真澄や友人が助けてくれる。今も続く友情には本当に感謝してるよ」
彼の言葉にうんうんと頷き、さらに尋ねる。
「芸能人は? バラエティの〝いじり〟とか」
「あぁ、あれは台本通りだからな。『TVショーだ』って承知してるよ。香澄も企画書に目を通したと思うけど、事前に説明されるし、きちんとした人は挨拶がてら詫びてくれる」
「確かに」
先日のハナテレビの仕事とは別件で、松井や河野とテレビ局の話をしていると、『某芸能人がこんな挨拶をしてきた』など話題になる。
「俺は好きな人の事を考えるだけで精一杯だから、嫌いな人は思いださないし関わらないって決めてる。仕事では我が儘を言えないから、個人的な感情と切り離して人付き合いするけど」
「そっか……」
その辺り、自分はどこまでも私情を引きずっている気がする。
「付き合いのあった女性は、もう二度と会わないように徹底してる。さっきも言ったけど、俺には未練がなくても、彼女たちは違うかもしれない。俺は自分が一般人ではないと自覚しているから、余計に気をつけているつもりだ。俺の失敗は一人のものじゃないからね」
そういうふうに割り切れている佑を、凄いと思った。
(私はいつも『嫌われないように』って気を遣って疲れてるな……)
ふぅ、と溜め息をつき、香澄は佑に寄りかかる。
(佑さんみたいになれたらいいなぁ。でも私には無理なんだろうな。この年齢になって性格や考え方、価値観を変えられると思えないし。でも、少し楽に生きるための手段としてなら、何とかできるかな。佑さんだって『考え方一つ』って言ってるし)
考えていた時、手持ち無沙汰に香澄の胸を揉んでいた佑が聞き返してきた。
「香澄は嫌いな人っている?」
「え? 私? ……そうだなぁ……」
尋ねられて考え、「どうだろう?」と首をひねった。
「なるべく『嫌い』判定はしないようにしてる。ゼロか百の人だから、嫌いになっちゃうと塩対応になると思う。態度にだすと周りの空気を壊すから、意識しないようにしてる。それに人を嫌ったり憎むのって、エネルギーを使うから嫌だな」
「……健二さんは?」
尋ねられ、考え込む。
「……嫌い……なのか分からない。確かに彼のせいで、私はトラウマを負った。でも嫌いっていうか……、もう考えたくないかな。健二くんについて考えたら、負のループに嵌まっちゃう」
「考えたくない?」
「……うん。拒食になっていた頃、鬱っぽくなっていたと思う。でも麻衣がいてくれたから大学に通えていた。けど当時の事を思いだそうとすると、あまりいい感情が湧かないな。……本当は、改造した車のエンジン音とか大嫌いなの」
「え?」
香澄の言葉を聞いて、佑が固まる。
「当時の健二くんの車、改造した車だった。叔父さんの車をもらって改造して、エンジン音が大きかったの。私はその車の助手席に乗せられて、色んな所に連れていかれた」
佑は両腕を香澄のお腹に回し、きゅ……と抱き締めてくる。
「……彼は常にエッチできないか伺ってる人だった。だから車の中にいると、とても緊張したし不安になった。……実際、初めては車の中だったし」
溜め息をついた時、思いきり抱き締められた。
「……ごめん」
「何で佑さんが謝るの?」
目を瞬かせると、彼が斜め上の事を言う。
「エンジン音の大きい車、全部処分する」
「なんで!? 佑さんの車が嫌なんて一言も言ってないじゃない!」
驚きすぎたあまり、香澄は素っ頓狂な声をだす。
「ありがと。……さらに質問だけど、嫌いな人っている? 別れた女の人ってどう思ってる?」
いつの間にか質問タイムになっていて、香澄は好奇心のままに尋ねる。
自分が愛されているのは分かっているが、他の女性の存在が気になるのもまた事実だ。
別れた相手を悪く言ってほしいなど思っておらず、彼が過去の女性、他の女性をどう思っているのか知りたかった。
「時間の無駄だから、切り捨てた人の事は考えないな。経営者をやっていて、ネットで好き勝手に書かれているのは、香澄も知ってるだろう? マスコミにも大げさに書かれた事がある。過去に、大して仲の良くない同級生がそれらを鵜呑みにして、絡まれて不快な思いをした事があったな」
「えぇ? そ、それはやだな……」
まさか同級生がネットの記事を信じると思わなかった。
香澄は表情を歪めるが、佑はケロリとしている。
「そういう奴はどれだけ説明しても聞き入れないし、俺を馬鹿にしたいだけだから、相手にするだけ無駄だけどな。そういう奴に絡まれてると、真澄や友人が助けてくれる。今も続く友情には本当に感謝してるよ」
彼の言葉にうんうんと頷き、さらに尋ねる。
「芸能人は? バラエティの〝いじり〟とか」
「あぁ、あれは台本通りだからな。『TVショーだ』って承知してるよ。香澄も企画書に目を通したと思うけど、事前に説明されるし、きちんとした人は挨拶がてら詫びてくれる」
「確かに」
先日のハナテレビの仕事とは別件で、松井や河野とテレビ局の話をしていると、『某芸能人がこんな挨拶をしてきた』など話題になる。
「俺は好きな人の事を考えるだけで精一杯だから、嫌いな人は思いださないし関わらないって決めてる。仕事では我が儘を言えないから、個人的な感情と切り離して人付き合いするけど」
「そっか……」
その辺り、自分はどこまでも私情を引きずっている気がする。
「付き合いのあった女性は、もう二度と会わないように徹底してる。さっきも言ったけど、俺には未練がなくても、彼女たちは違うかもしれない。俺は自分が一般人ではないと自覚しているから、余計に気をつけているつもりだ。俺の失敗は一人のものじゃないからね」
そういうふうに割り切れている佑を、凄いと思った。
(私はいつも『嫌われないように』って気を遣って疲れてるな……)
ふぅ、と溜め息をつき、香澄は佑に寄りかかる。
(佑さんみたいになれたらいいなぁ。でも私には無理なんだろうな。この年齢になって性格や考え方、価値観を変えられると思えないし。でも、少し楽に生きるための手段としてなら、何とかできるかな。佑さんだって『考え方一つ』って言ってるし)
考えていた時、手持ち無沙汰に香澄の胸を揉んでいた佑が聞き返してきた。
「香澄は嫌いな人っている?」
「え? 私? ……そうだなぁ……」
尋ねられて考え、「どうだろう?」と首をひねった。
「なるべく『嫌い』判定はしないようにしてる。ゼロか百の人だから、嫌いになっちゃうと塩対応になると思う。態度にだすと周りの空気を壊すから、意識しないようにしてる。それに人を嫌ったり憎むのって、エネルギーを使うから嫌だな」
「……健二さんは?」
尋ねられ、考え込む。
「……嫌い……なのか分からない。確かに彼のせいで、私はトラウマを負った。でも嫌いっていうか……、もう考えたくないかな。健二くんについて考えたら、負のループに嵌まっちゃう」
「考えたくない?」
「……うん。拒食になっていた頃、鬱っぽくなっていたと思う。でも麻衣がいてくれたから大学に通えていた。けど当時の事を思いだそうとすると、あまりいい感情が湧かないな。……本当は、改造した車のエンジン音とか大嫌いなの」
「え?」
香澄の言葉を聞いて、佑が固まる。
「当時の健二くんの車、改造した車だった。叔父さんの車をもらって改造して、エンジン音が大きかったの。私はその車の助手席に乗せられて、色んな所に連れていかれた」
佑は両腕を香澄のお腹に回し、きゅ……と抱き締めてくる。
「……彼は常にエッチできないか伺ってる人だった。だから車の中にいると、とても緊張したし不安になった。……実際、初めては車の中だったし」
溜め息をついた時、思いきり抱き締められた。
「……ごめん」
「何で佑さんが謝るの?」
目を瞬かせると、彼が斜め上の事を言う。
「エンジン音の大きい車、全部処分する」
「なんで!? 佑さんの車が嫌なんて一言も言ってないじゃない!」
驚きすぎたあまり、香澄は素っ頓狂な声をだす。
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