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第十五部・針山夫婦 編
佑の優先順位
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「皆そうだと思うよ。〝当たり障りなく〟は悪いものじゃなくて、周囲とうまくやっていくために必要なものだ。本当の自分を知ってもらいたいっていう願望は誰にでもあると思うけど、初対面から深い話をしたら引かれてしまう。もしかしたら、大事な話をしたのに裏切られるかもしれない」
香澄はコクンと頷く。
「だから皆、相手が信頼できる人か探り合う。そのために、まず当たり障りなく接する事は大前提として必要なコミュニケーション能力だから、特に落ち込まなくていいよ」
「そっか……」
佑に言われて、香澄は安堵する。
「本当に仲良くなれるのは、十人会って一人いるかどうかだと思う。今はSNSで見知らぬ人と会話をするのは当たり前だけど、実際会ってみて、ネットの印象と違った……とか、きっとある」
「うん」
「まぁ、俺の持論では、SNSは匿名である分、その人の本性が出ていると思うけどね」
「確かに」
ネットは顔の見えない相手と話しているので、良くも悪くもその人の素が出るのだと思う。
対面していれば相手の容姿などで判断し、態度を変えるかもしれない。
だが相手の情報がアイコンと多少の文字しかないなら、好き放題言ってもいいと思っている人が一定数いる。
画面の裏側に生身の人間がいて、それぞれの人生を送ってきた事を想像できないのだ。
「出雲も美鈴さんも、これから何回も会っていく中で、慣れて特別感が薄れていくと思う。初対面だと『金持ちの夫婦』って思うだろうし、漂うサラブレッド感があると思う」
「うん、ある」
思わず香澄は頷く。
「でも二人とも俺の親友だし、『裏がある』って構えなくていいよ。あいつらが嫌な奴だったら、俺はすでに付き合っていないと思うから」
「……そうだね」
佑の話を聞いて、随分気持ちが楽になった。
「……確かに、初対面で親友みたいに仲良くなろうなんて、望みすぎたのかも。初対面の人って、何回か会いながら感覚を調整していくものだし。……うん。近くに住んでるし、少しずつ仲良くなっていきたい」
結論をだすと、何だか心が楽になった。
「香澄の事だから、『初回から完璧にやらないと』って思ったんだろ? 緊張してたの丸わかりだったし」
「分かるの? 私、できるだけ普通にしてたんだけど……」
思わず佑を見ると、彼はパチンとウインクした。
「俺が香澄の事をどれだけ知ってると思う? 一年ちょっとの付き合いだけど、俺以上に香澄を知る人は、多分ご家族と麻衣さん以外にいないんじゃないかな。自称香澄ソムリエだし」
「ん……、んふふ」
改めて言われると、恥ずかしい。
佑はニヤニヤ笑いながら、香澄の胸を弄んできた。
「香澄が思っている以上に、俺は香澄を見てるよ。視線や仕草、それらから連動する心の動き、癖、微かな表情の変化……。全部チェックしてる」
「う……うぅ……。変態……」
そう言うと、佑がふはっと笑い「冗談だよ」とキスをしてきた。
「見てるのは本当だけど、香澄がいま思ったほどは見てないよ」
「…………本当かな」
「どうかな?」
「もーっ」
佑は香澄をからかってご機嫌になり、彼女の乳房を揉みながら、ときおり満腹具合を確かめるように胃の辺りをさする。
「……オナカヤダ……」
膨れたお腹に触られ、香澄は赤面してうなる。
もそもそと体勢を変えた香澄は、思った事を尋ねた。
「佑さんの、人付き合いの優先順位はどんな感じなの?」
「ん? まず氷山の頂点に香澄と家族がいるな。その次に親友、親戚連中。もう少し下に学生時代の友人や、知り合い……かな。仕事関係の人は大切さが違うから入れてない」
「氷山って事は……。水面下にも沢山いるって事?」
さらに尋ねると、佑が苦笑いする。
「まぁね。プライベートか仕事か分からない〝知り合い〟は大勢いる。たまに仕事抜きで飯に行くから〝仕事だけ〟の相手じゃない。けど相手は、俺に個人的なものと仕事での期待を持っている。下心のある人は、優先順位が低くなってるかな。仕事に生かせる関係はありがたいけど、その人たちを〝大切〟に思うかって言われると、少し違う」
「……向こうは友達になりたいって思ってるかもしれないよ?」
佑の本音を聞きたくて、少し食い下がってみる。
「確かに気が合う可能性もあるし、下心がないと分かるかもしれない。ただ俺には時間がない。ただでさえ仕事で忙しい。大切な人だと思えるか分からない人複数に時間を使うなら、香澄を抱き締めてゴロゴロしていたいし、息抜きに南の島や温泉に行きたいな」
「そっか……。何か、申し訳ないけど嬉しい」
そう言って、香澄はむぎゅっと佑を抱き締める。
いつも思うが、〝御劔佑〟を独占していると思うと、とても贅沢だ。
香澄はコクンと頷く。
「だから皆、相手が信頼できる人か探り合う。そのために、まず当たり障りなく接する事は大前提として必要なコミュニケーション能力だから、特に落ち込まなくていいよ」
「そっか……」
佑に言われて、香澄は安堵する。
「本当に仲良くなれるのは、十人会って一人いるかどうかだと思う。今はSNSで見知らぬ人と会話をするのは当たり前だけど、実際会ってみて、ネットの印象と違った……とか、きっとある」
「うん」
「まぁ、俺の持論では、SNSは匿名である分、その人の本性が出ていると思うけどね」
「確かに」
ネットは顔の見えない相手と話しているので、良くも悪くもその人の素が出るのだと思う。
対面していれば相手の容姿などで判断し、態度を変えるかもしれない。
だが相手の情報がアイコンと多少の文字しかないなら、好き放題言ってもいいと思っている人が一定数いる。
画面の裏側に生身の人間がいて、それぞれの人生を送ってきた事を想像できないのだ。
「出雲も美鈴さんも、これから何回も会っていく中で、慣れて特別感が薄れていくと思う。初対面だと『金持ちの夫婦』って思うだろうし、漂うサラブレッド感があると思う」
「うん、ある」
思わず香澄は頷く。
「でも二人とも俺の親友だし、『裏がある』って構えなくていいよ。あいつらが嫌な奴だったら、俺はすでに付き合っていないと思うから」
「……そうだね」
佑の話を聞いて、随分気持ちが楽になった。
「……確かに、初対面で親友みたいに仲良くなろうなんて、望みすぎたのかも。初対面の人って、何回か会いながら感覚を調整していくものだし。……うん。近くに住んでるし、少しずつ仲良くなっていきたい」
結論をだすと、何だか心が楽になった。
「香澄の事だから、『初回から完璧にやらないと』って思ったんだろ? 緊張してたの丸わかりだったし」
「分かるの? 私、できるだけ普通にしてたんだけど……」
思わず佑を見ると、彼はパチンとウインクした。
「俺が香澄の事をどれだけ知ってると思う? 一年ちょっとの付き合いだけど、俺以上に香澄を知る人は、多分ご家族と麻衣さん以外にいないんじゃないかな。自称香澄ソムリエだし」
「ん……、んふふ」
改めて言われると、恥ずかしい。
佑はニヤニヤ笑いながら、香澄の胸を弄んできた。
「香澄が思っている以上に、俺は香澄を見てるよ。視線や仕草、それらから連動する心の動き、癖、微かな表情の変化……。全部チェックしてる」
「う……うぅ……。変態……」
そう言うと、佑がふはっと笑い「冗談だよ」とキスをしてきた。
「見てるのは本当だけど、香澄がいま思ったほどは見てないよ」
「…………本当かな」
「どうかな?」
「もーっ」
佑は香澄をからかってご機嫌になり、彼女の乳房を揉みながら、ときおり満腹具合を確かめるように胃の辺りをさする。
「……オナカヤダ……」
膨れたお腹に触られ、香澄は赤面してうなる。
もそもそと体勢を変えた香澄は、思った事を尋ねた。
「佑さんの、人付き合いの優先順位はどんな感じなの?」
「ん? まず氷山の頂点に香澄と家族がいるな。その次に親友、親戚連中。もう少し下に学生時代の友人や、知り合い……かな。仕事関係の人は大切さが違うから入れてない」
「氷山って事は……。水面下にも沢山いるって事?」
さらに尋ねると、佑が苦笑いする。
「まぁね。プライベートか仕事か分からない〝知り合い〟は大勢いる。たまに仕事抜きで飯に行くから〝仕事だけ〟の相手じゃない。けど相手は、俺に個人的なものと仕事での期待を持っている。下心のある人は、優先順位が低くなってるかな。仕事に生かせる関係はありがたいけど、その人たちを〝大切〟に思うかって言われると、少し違う」
「……向こうは友達になりたいって思ってるかもしれないよ?」
佑の本音を聞きたくて、少し食い下がってみる。
「確かに気が合う可能性もあるし、下心がないと分かるかもしれない。ただ俺には時間がない。ただでさえ仕事で忙しい。大切な人だと思えるか分からない人複数に時間を使うなら、香澄を抱き締めてゴロゴロしていたいし、息抜きに南の島や温泉に行きたいな」
「そっか……。何か、申し訳ないけど嬉しい」
そう言って、香澄はむぎゅっと佑を抱き締める。
いつも思うが、〝御劔佑〟を独占していると思うと、とても贅沢だ。
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