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第十五部・針山夫婦 編
私はそういう風に生きられない
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「こっちおいで。満腹なら、横より縦になっているほうがいいから」
「ん」
「そしてできるなら、ルームウェアを脱いでくれると嬉しい。それが俺の最大限の譲歩」
「えー? ……っふふ、めげないなぁ」
一度ベッドを下りた香澄は、少し躊躇ってから後ろを向き、ストンとルームウェアのズボンを脱いだ。
もう一度躊躇い、えいっと上も脱ぐ。
キャミソールとパンティだけの姿になって再びベッドに上がると、後ろを向いて佑の膝の間に収まった。
「佑さん、ぎゅーして」
「ん」
背後から佑が抱き締めてきて、その存在感に安心する。
そのあとも佑は首筋にちゅっちゅっとキスをしてきて、心がホワホワと幸せで満ちていく。
「今日、出雲たちに会ってどうだった?」
「とっても素敵なご夫婦だったね」
「美鈴さん、どうだった?」
「私にないものを持っている人だなぁ……って、憧れた。明るくて物怖じしなくて、堂々としてる。これから仲良くしていきたい」
「そっか」
佑はポンポンと香澄の頭を撫で、頬にキスをする。
「……でも私、自分の嫌な面に気づいちゃった」
「ん?」
「美鈴さん、陽キャでしょ? お嬢様で堂々としていて、何でも持ってると思っちゃった。とっても美人だし、私みたいな一般家庭出身の人にも、気さくに話してくれる性格のいい人」
香澄がポツポツと話すのを、佑は黙って聞いてくれる。
「……私、美鈴さんがお料理好きじゃないって聞いて、安心しちゃった。『完璧じゃなくて良かった』って思ってしまった。……で、すっごく自分が恥ずかしくなって……。消えてしまいたくなった」
告白してから、香澄はふー……と溜め息をつく。
「……ごめんね。佑さんの大事なお友達なのに」
香澄は自嘲しながら謝った。
いくら優しい佑でも、友人の妻に嫉妬したと聞けば、怒るまではいかなくても呆れるだろう。
「嬉しいよ」
「え?」
けれど予想外の事を言われ、香澄は振り返った。
「香澄が俺に『自分の嫌な面』を告白してくれたのが嬉しい。それって、本音を話しても俺が嫌わないって信頼してくれたからだろ? 思った事を素直に話してくれるようになったんだな……って思うと、凄く嬉しい」
心底嬉しそうに言い、佑はもう一度香澄の頬にキスをする。
「……佑さんは……」
――どうしてこんなに優しいんだろう。
ポロッと涙が零れそうになり、香澄は瞬きをする。
涙を誤魔化してから、佑に向き直って抱きついた。
「……しゅき」
「ん、分かってる」
佑は香澄の頭にキスをし、ポンポンと撫でてくる。
「あと多分それ、美鈴さん本人に言っても笑い飛ばされて終わりだよ。あの人、自分の長所も短所もきちんと自覚してる。それに自分が受け入れると決めた人には、本当に甘いから」
「……だろうな、って思う」
美鈴は第一印象の通り、太陽のように明朗快活な人なのだろう。
「あまり落ち込まなくていいよ。美鈴さんは香澄が思ってるほど完璧じゃない。彼女はちょっと気難しくて、十人と会って、気に入るのは一人いるかいないかだ。残りは適当に話を合わせて興味を示さない。その態度を不快だと言われても気にしない。得るものと捨てるものを明確に分けている人だ」
「……私はそういう風に生きられない。……でも、いいな。気にしないでいられるのって、憧れる」
佑はぽつんと呟いた香澄を抱き締め、顎に手を掛けて顔を上向かせ、キスをする。
「『一人一人違う』でいいんだよ。香澄がなりたい〝憧れ〟はあるかもしれないけど、俺はそのままの香澄を愛してる。香澄がどれだけ自分の嫌な部分を見せてきても、俺はまったく幻滅しないよ。だからそんなに自分を責めなくていいんだ。完璧であろうとしなくていい」
そう言われ、力が抜けてしまう。
「佑さんって凄いね」
「凄くないよ。俺は美鈴さんよりキャパが小さい」
恥ずかしがらずに言った彼に「正直に言えるの、凄いな」と思いながら、香澄は続きを言う。
「私、本音を言える人が少ないと思う。家族や麻衣には素の自分を見せられてる。勿論、佑さんには家族や麻衣が知らない顔も見せてる。……でも他の人には、嫌われたくないから、当たり障りなく接してる」
佑や美鈴のように嫌われる事を怖れない人を見ていると、自分がとても中途半端に思える。
「ん」
「そしてできるなら、ルームウェアを脱いでくれると嬉しい。それが俺の最大限の譲歩」
「えー? ……っふふ、めげないなぁ」
一度ベッドを下りた香澄は、少し躊躇ってから後ろを向き、ストンとルームウェアのズボンを脱いだ。
もう一度躊躇い、えいっと上も脱ぐ。
キャミソールとパンティだけの姿になって再びベッドに上がると、後ろを向いて佑の膝の間に収まった。
「佑さん、ぎゅーして」
「ん」
背後から佑が抱き締めてきて、その存在感に安心する。
そのあとも佑は首筋にちゅっちゅっとキスをしてきて、心がホワホワと幸せで満ちていく。
「今日、出雲たちに会ってどうだった?」
「とっても素敵なご夫婦だったね」
「美鈴さん、どうだった?」
「私にないものを持っている人だなぁ……って、憧れた。明るくて物怖じしなくて、堂々としてる。これから仲良くしていきたい」
「そっか」
佑はポンポンと香澄の頭を撫で、頬にキスをする。
「……でも私、自分の嫌な面に気づいちゃった」
「ん?」
「美鈴さん、陽キャでしょ? お嬢様で堂々としていて、何でも持ってると思っちゃった。とっても美人だし、私みたいな一般家庭出身の人にも、気さくに話してくれる性格のいい人」
香澄がポツポツと話すのを、佑は黙って聞いてくれる。
「……私、美鈴さんがお料理好きじゃないって聞いて、安心しちゃった。『完璧じゃなくて良かった』って思ってしまった。……で、すっごく自分が恥ずかしくなって……。消えてしまいたくなった」
告白してから、香澄はふー……と溜め息をつく。
「……ごめんね。佑さんの大事なお友達なのに」
香澄は自嘲しながら謝った。
いくら優しい佑でも、友人の妻に嫉妬したと聞けば、怒るまではいかなくても呆れるだろう。
「嬉しいよ」
「え?」
けれど予想外の事を言われ、香澄は振り返った。
「香澄が俺に『自分の嫌な面』を告白してくれたのが嬉しい。それって、本音を話しても俺が嫌わないって信頼してくれたからだろ? 思った事を素直に話してくれるようになったんだな……って思うと、凄く嬉しい」
心底嬉しそうに言い、佑はもう一度香澄の頬にキスをする。
「……佑さんは……」
――どうしてこんなに優しいんだろう。
ポロッと涙が零れそうになり、香澄は瞬きをする。
涙を誤魔化してから、佑に向き直って抱きついた。
「……しゅき」
「ん、分かってる」
佑は香澄の頭にキスをし、ポンポンと撫でてくる。
「あと多分それ、美鈴さん本人に言っても笑い飛ばされて終わりだよ。あの人、自分の長所も短所もきちんと自覚してる。それに自分が受け入れると決めた人には、本当に甘いから」
「……だろうな、って思う」
美鈴は第一印象の通り、太陽のように明朗快活な人なのだろう。
「あまり落ち込まなくていいよ。美鈴さんは香澄が思ってるほど完璧じゃない。彼女はちょっと気難しくて、十人と会って、気に入るのは一人いるかいないかだ。残りは適当に話を合わせて興味を示さない。その態度を不快だと言われても気にしない。得るものと捨てるものを明確に分けている人だ」
「……私はそういう風に生きられない。……でも、いいな。気にしないでいられるのって、憧れる」
佑はぽつんと呟いた香澄を抱き締め、顎に手を掛けて顔を上向かせ、キスをする。
「『一人一人違う』でいいんだよ。香澄がなりたい〝憧れ〟はあるかもしれないけど、俺はそのままの香澄を愛してる。香澄がどれだけ自分の嫌な部分を見せてきても、俺はまったく幻滅しないよ。だからそんなに自分を責めなくていいんだ。完璧であろうとしなくていい」
そう言われ、力が抜けてしまう。
「佑さんって凄いね」
「凄くないよ。俺は美鈴さんよりキャパが小さい」
恥ずかしがらずに言った彼に「正直に言えるの、凄いな」と思いながら、香澄は続きを言う。
「私、本音を言える人が少ないと思う。家族や麻衣には素の自分を見せられてる。勿論、佑さんには家族や麻衣が知らない顔も見せてる。……でも他の人には、嫌われたくないから、当たり障りなく接してる」
佑や美鈴のように嫌われる事を怖れない人を見ていると、自分がとても中途半端に思える。
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