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第十五部・針山夫婦 編

そこまで猫舌だったっけ?

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「スゥゥゥ………………っ、――――ふ、…………はぁああぁ……っ」

 とうとう香澄は、ホットミルクに到達する前に息を吸いすぎて酸欠になり、諦めてマグカップから唇を離した。

「――――っ、お、…………かし……っ」

 ベッドサイドにマグカップを置いた佑は、うつ伏せになり、背中を震わせて笑う。

「…………ひどい」

 笑われて恥ずかしく、香澄は赤面してジロリと佑を睨む。

「そこまで猫舌だったっけ?」

「そうだよ。麺類を食べる時は最初の一口の湯気が喉に直撃して、まず咳き込むよ」

 自棄になって言い返すと、佑はまたベッドに突っ伏して体を震わせる。

「もーっ!」

 香澄はうなり、立ち上がると佑の腰の上にドスンと跨がった。

「ばかっ」

 そのまま佑の後頭部を両手で押し、布団に顔を押しつける。
 三秒経ってから力を緩め、腕を組んでムスッとする。

「はぁ……。ごめんって」

 佑は香澄が跨がっている下で仰向けになり、香澄の腰に両手を添える。
 むぅ……と唇を尖らせる香澄を、佑は「ごめん」と言いながらニコニコして見上げていた。

「…………もう」

 怒るのを諦めた香澄は、溜め息をついてから佑の胸板の上にバフッと倒れ込んだ。

 佑は彼女の額にチュッとキスをし、クツクツと喉で笑う。

「可愛かったからつい」

「猫舌はいつも真剣にあつあつと戦っているんですからね?」

「了解です」

 もう一度香澄の額にキスをした佑が、ギューッと抱き締めてくる。

「手紙、誰に書いてたんだ?」

「ん? 札幌の友達」

「麻衣さん?」

「違う人」

「どんな内容?」

 気にする佑に苦笑いし、香澄は素直に内容を教える。

「年末に帰省できなくなったから、ごめんねって」

「ああ、そうか。香澄の帰省を楽しみにしてる友人もいるんだよな。……それは悪い事をした」

 今になって気づいたのか、佑の表情が曇る。

「や、いいの。家族にはちょいちょい会えてるし、麻衣とはこれから会えるし」

 だが佑は責任を感じているようだ。

「でも、ご家族と麻衣さんだけっていう訳にいかないだろ? 札幌には他にも友人がいるんだし。香澄を東京に連れて来たのは俺だけど、帰省させないなんて鬼の所業は避けたい」

 鬼の所業と言われ、香澄は思わず笑った。

「東京に引っ越したんだから、気軽に帰ってこられる訳じゃないのは、分かってるから大丈夫」

「ん……」

 一旦頷いた佑に、香澄は恐る恐る申しでる。

「あのね、手紙を書いてる友達なんだけど、いつか佑さんに会いたいって言ってるんだけど、どうかな? さすがに同窓会に佑さんを連れて行くつもりはないけど、仲のいい、秘密を守れる子には紹介したいというか……」

「予定さえ合えば構わないよ」

 あっさりと言われ、逆に驚いてしまった。

「本当に? 間近でキャーッて言われるかもしれないよ? 握手とかサインとか、求められるかもしれないし……」

「香澄の〝仲良し〟は何十人もいる訳じゃないだろ? 十人以内なら許容範囲だ。過去に失敗した企画だけど、お食事会みたいなものもやったし」

「あぁ……! あはは! 『御劔社長とお食事会』! ファンの集い!」

 佑が昔失敗した試みを思いだし、香澄はケタケタと笑う。

「こら、バカにしてるだろ。あれはあれで大変だったんだからな」

「バカにしてないよ。ただ、大変だったんだろうなぁ……って思うとおかしくて」

 昔、全国から抽選で当たったファンとの座談会……もとい食事会があったそうだ。

 しかし握手会、サイン会、主に恋愛に関する質問会になってしまい、商品アピールをする間もなく終わってしまったので、彼にとっては〝失敗〟だったらしい。

「んっふっふっふっふ……。想像しただけでおかしい」

「ほら、やっぱりバカにしてる。……このっ」

 そう言って佑は香澄を抱き締めたまま反転し、覆い被さるとチュッチュッ……とキスをしてくる。

「んふふふふ……っ」

 クスクス笑う香澄は、佑を抱き締めて唇を回避しようとした。

 けれどルームウェアの襟元から覗く鎖骨に、チュバッと大きな音を立てて吸い付かれる。
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