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第十五部・針山夫婦 編

ホットミルク

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「お腹一杯になったね」

「ああ。肉、うまかったか?」

「うまかった」

 いつものように佑の口まねをすると、彼はクシャッと笑う。

「美味しかったー……。からこそ、明日はヘルシーご飯でいきましょう」

「はは、そうだな」

 スマホを開いて通知を確認すると、麻衣から連絡が入っていた。

「あ、麻衣からだ。もう年末の用意をしてるって。楽しみだな。んふふ、『浜梨亭』のお菓子を買ってきてくれるって」

「麻衣さんが来る予定もあったっけ。彼女はいいけど、アロクラが来ると騒がしくなりそうだな」

「数日だからいいじゃない」

「香澄がそう言うならいいけど。その前に俺は二人きりのクリスマスを満喫するぞ」

 佑が意気込んで言うので、香澄は苦笑いする。

「誕生日に沢山お祝いしてもらったから、プレゼントはいいからね」

「んー……。それは……また別という事で」

 これ以上物をもらっても置き場所に困るし、部屋がゴタゴタしてしまう。
 割と逼迫した意味で言ったのだが、佑は言葉を濁す。

「だって使ってないコスメとか着てない服とか、沢山あるんだもん」

「でもクリスマスにプレゼントなしっていうのも、格好悪いだろ」

「もー。また〝男の見栄〟……」

「去年出会って今年の一月に東京に来てもらったから、一緒にクリスマスを過ごせなかったじゃないか」

「……そうだけど……。あんまり気にしてないよ? だって他の事でたくさん構ってもらえたもの」

 どうやら佑は、初期に今ほど贈り物ができなかった事を気にしているらしい。

(この一年で、濃密な思い出と愛情をたっぷりもらったから、そんなに気にしなくても……)

 というかそもそも、最初に銀座の百貨店に行った時点で、喧嘩してしまったぐらい物を買ってもらった。

「ずっと後悔しているんだ。最初は香澄に運命を感じたと思っても、まだ踏み込めずにいた。付き合いたてだからできる事もあったはずなのに、見逃していた気がする」

「〝付き合いたてのラブラブ〟は今も続いているんだよ。だから、いいの」

「ん……」

 香澄に指摘されて、また暴走しかけたのを自覚したのか、佑は窓の外を見て頷く。
 そして無言で手を握ってきた。

 彼の手を握り返し、香澄は「愛しいなぁ」と思って微笑む。

 二人は御劔邸に着くまで手を繋ぎ、これまでを思いだすように窓の外を見ていた。



**



 帰宅したあと、香澄は風呂に入ってから自室で札幌の友人に手紙を書いていた。

 相手は麻衣ではない、学生時代に仲良しだった友人だ。

 以前から『次いつ戻ってくるの? 年末? もし可能なら、御劔社長と一緒にいる時に会いたいな』と言われていた。

 彼女はミーハーではあるが、言いふらす人ではないので信頼している。

 コネクターナウで尋ねられた時は、一旦保留にして『そのうち連絡するね』と言っておいた。

 少し前までは「年末に帰省できるかな?」と思っていたが、麻衣や双子、マティアスも来る事になったので、「年末はちょっと無理かも」と詫びる手紙を書いていた。

 一階のバスルームで風呂に入った佑が、階段を上がってきた。

「香澄」

「ん?」

 振り向くと、佑が両手にマグカップを持って部屋に入ってきた。

「ホットミルクどうぞ。寒くなってきたし、お腹を温めておくといいと思って」

「ありがとう」

 桜柄のマグカップには、湯気をたてたホットミルクが入っている。
 佑はカップをコースターの上に置いてくれ、香澄は息をついてペンを置いた。

「ベッド、座っていい?」

「いいよ」

 香澄はふぅふぅとホットミルクを冷まし、最初の一口を啜ろうとする。

 けれど猫舌なので、啜る口のままスゥゥゥ……と息を吸い続け、なかなかホットミルクにたどり着かない。

 マグカップは傾けているのだが、それもほんの少しずつだ。

 その姿を、躊躇いなく一口目を飲んだ佑がニヤニヤしながら見守っていた。
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