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第十五部・針山夫婦 編
外野が口を挟まないでくれ
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「言っておきたいのは、佑くんとの関係を否定したい訳じゃないって事。ただ、佑くんって、何があっても香澄ちゃんを手放さないと思うのよね。彼はきっと浮気せず香澄ちゃんを一途に想う。他の男によそ見しないように、いい彼氏でいようと努力しているだろうし、喧嘩しても破綻しないように気を付けていると思う」
「……いい事……だと思いますけど。……何か悪いんでしょうか?」
キョトンとした香澄に、美鈴は真剣な顔で続ける。
「私から見ても、佑くんって条件のいい男よ? ただ、そんな彼に全力で囲われて、〝他〟を知らないで生きていくのかなって思うと、少し微妙な気持ちになってしまって」
言われて、「一理あるな……」と感じた。
極上の男に毎日愛を囁かれ、ベッドでも愛されて、生活は一流の物で囲まれる。
この世のほとんどの女性が一度は望むのでは、という環境になり、確かに佑以外の男性を見る気持ちはまったくなくなった。
井内に告白された時だって動じなかった。
第三者的に見れば、井内は清潔感があって整った顔立ちをしているし、優しくて誠実な人だ。
大企業であるChief Everyの秘書課に籍を置いているし、彼を望む女性は多くいるだろう。
佑がいなければ、もしかしたら井内の手を取っていたかもしれない。
だがそれは、ただの〝If〟の話だ。
実際は佑がいたから、一ミリも心が傾かなかった。
そういう意味では、香澄は今後もずっと他の男性に目を向けないだろう。
黙って考える香澄を見て、佑は少し焦って口を挟む。
「それのどこが悪いんだ? 俺は浮気をしないし、香澄を一生愛するし結婚したいと思っている。問題ないじゃないか」
言われて、美鈴は赤葡萄ジュースが入ったグラスをクルクル回しながら返事をする。
「問題ないんだけど……。人生って経験が宝でもあるのよ。私と出雲って、社長令嬢と御曹司のお見合い結婚よ。でも『どうせ決められた相手と結婚するなら』って、その前にたっぷり恋愛を楽しんだ。バカな真似はしなかったけど、色んな人と関わって、様々な価値観を学んだわ。佑くんは、そういうものをすべて奪っちゃうんじゃないかな、って」
美鈴の言葉を聞き、佑は目を細める。
「香澄ちゃんは佑くん以外の男性を知らずに生きていく。勿論悪い事じゃない。一途なのは素晴らしいと思う。その分、佑くんは香澄ちゃんを必ず幸せにする義務がある。別の人と幸せになったかもしれない人生の代わりに、彼女を幸せにするの」
〝佑の存在が悪い〟とも言える言葉に、香澄は気まずくなって彼を気にする。
気を悪くしていないかと思ったが、彼は思いの外真剣な表情で美鈴の言葉を聞いていた。
「その自覚はある。俺は香澄の人生を独占している。だが責任は取る。一生添い遂げるし、必ず幸せにする。香澄も、彼女の家族も、この先の生活に困らないようにする。そのための貯えもあるつもりだ」
佑は美鈴をしっかり見つめ、覚悟を伝える。
「覚悟した上で、運命の女を愛そうとしているんだ。心配は分かるが、口を挟まないでくれ」
和やかな空気から一転、緊張感のある雰囲気になって香澄はゴクリと唾を嚥下する。
佑に真剣にすごまれて怯むと思いきや、美鈴はケロッとしたまま香澄に話を振ってきた。
さすが大企業の社長夫人なだけあり、度胸が据わっている。
「佑くんには悪い事を言ったわね。謝る。けど、私は香澄ちゃんに話してるの。どう思う?」
いっぽうで香澄はアワアワしたまま、返事に窮する。
「わ、私ですか? ……ええと……」
「香澄、ゆっくりでいいよ。納得できる答えを言ってくれ」
佑に言われ「真剣に考えないと」と思った香澄は、テーブルの上に出された料理を見ながら考える。
ちなみに出雲はこの空気になっても、「んま」と言いながらつまみを摘まんでいた。
「……確かに経験って大切だと思います。佑さんと出会って、一般人の世界にいたら知らない事を沢山知りました。〝普通〟ではない視点で、仕事や世界経済について考える機会も持てました。そういう意味で、佑さんは私に沢山の経験をくれます」
そう答えた香澄の手を、佑がそっと握った。
「けど、美鈴さんが仰りたい事も分かります。佑さんと出会った時、私はまともな恋愛を経験していませんでした。ぼんやりと『このまま出会いがなかったら、結婚相談所やマッチングアプリを頼るのかな』と思っていました」
初耳だったのか、佑が目を見開いてまじまじと見てくる。
「佑さんに出会って本当に幸せです。宝くじの一等に当選するよりずっと幸運です。……もっと恋愛経験があれば、彼を困らせる事もなかったのでは……と、思う事もあります。だからこそ、何もかも初めてですが、『もっと愛したい、愛されたい、力になりたい』という気持ちにもなれています」
「前の彼は、それほど好きじゃなかったの?」
チーズを口に放り込んだ美鈴に尋ねられ、香澄は苦く笑う。
「あまりいい思い出じゃないんです。彼は私のどこが好きと言わず告白してきて、私もそれになんとなく応えてしまいました。そのあとは〝そういう事〟ばかり求められていました。好きとかより、彼からは『シたい』しか感じませんでした。だから『男の子ってそういう事しか考えていないんだ』って嫌になりました」
「なにそのクソ男!」
美鈴が大きな声で言い、美しい顔を歪める。
出雲も溜め息をつき、脚を組み替えた。
「……いい事……だと思いますけど。……何か悪いんでしょうか?」
キョトンとした香澄に、美鈴は真剣な顔で続ける。
「私から見ても、佑くんって条件のいい男よ? ただ、そんな彼に全力で囲われて、〝他〟を知らないで生きていくのかなって思うと、少し微妙な気持ちになってしまって」
言われて、「一理あるな……」と感じた。
極上の男に毎日愛を囁かれ、ベッドでも愛されて、生活は一流の物で囲まれる。
この世のほとんどの女性が一度は望むのでは、という環境になり、確かに佑以外の男性を見る気持ちはまったくなくなった。
井内に告白された時だって動じなかった。
第三者的に見れば、井内は清潔感があって整った顔立ちをしているし、優しくて誠実な人だ。
大企業であるChief Everyの秘書課に籍を置いているし、彼を望む女性は多くいるだろう。
佑がいなければ、もしかしたら井内の手を取っていたかもしれない。
だがそれは、ただの〝If〟の話だ。
実際は佑がいたから、一ミリも心が傾かなかった。
そういう意味では、香澄は今後もずっと他の男性に目を向けないだろう。
黙って考える香澄を見て、佑は少し焦って口を挟む。
「それのどこが悪いんだ? 俺は浮気をしないし、香澄を一生愛するし結婚したいと思っている。問題ないじゃないか」
言われて、美鈴は赤葡萄ジュースが入ったグラスをクルクル回しながら返事をする。
「問題ないんだけど……。人生って経験が宝でもあるのよ。私と出雲って、社長令嬢と御曹司のお見合い結婚よ。でも『どうせ決められた相手と結婚するなら』って、その前にたっぷり恋愛を楽しんだ。バカな真似はしなかったけど、色んな人と関わって、様々な価値観を学んだわ。佑くんは、そういうものをすべて奪っちゃうんじゃないかな、って」
美鈴の言葉を聞き、佑は目を細める。
「香澄ちゃんは佑くん以外の男性を知らずに生きていく。勿論悪い事じゃない。一途なのは素晴らしいと思う。その分、佑くんは香澄ちゃんを必ず幸せにする義務がある。別の人と幸せになったかもしれない人生の代わりに、彼女を幸せにするの」
〝佑の存在が悪い〟とも言える言葉に、香澄は気まずくなって彼を気にする。
気を悪くしていないかと思ったが、彼は思いの外真剣な表情で美鈴の言葉を聞いていた。
「その自覚はある。俺は香澄の人生を独占している。だが責任は取る。一生添い遂げるし、必ず幸せにする。香澄も、彼女の家族も、この先の生活に困らないようにする。そのための貯えもあるつもりだ」
佑は美鈴をしっかり見つめ、覚悟を伝える。
「覚悟した上で、運命の女を愛そうとしているんだ。心配は分かるが、口を挟まないでくれ」
和やかな空気から一転、緊張感のある雰囲気になって香澄はゴクリと唾を嚥下する。
佑に真剣にすごまれて怯むと思いきや、美鈴はケロッとしたまま香澄に話を振ってきた。
さすが大企業の社長夫人なだけあり、度胸が据わっている。
「佑くんには悪い事を言ったわね。謝る。けど、私は香澄ちゃんに話してるの。どう思う?」
いっぽうで香澄はアワアワしたまま、返事に窮する。
「わ、私ですか? ……ええと……」
「香澄、ゆっくりでいいよ。納得できる答えを言ってくれ」
佑に言われ「真剣に考えないと」と思った香澄は、テーブルの上に出された料理を見ながら考える。
ちなみに出雲はこの空気になっても、「んま」と言いながらつまみを摘まんでいた。
「……確かに経験って大切だと思います。佑さんと出会って、一般人の世界にいたら知らない事を沢山知りました。〝普通〟ではない視点で、仕事や世界経済について考える機会も持てました。そういう意味で、佑さんは私に沢山の経験をくれます」
そう答えた香澄の手を、佑がそっと握った。
「けど、美鈴さんが仰りたい事も分かります。佑さんと出会った時、私はまともな恋愛を経験していませんでした。ぼんやりと『このまま出会いがなかったら、結婚相談所やマッチングアプリを頼るのかな』と思っていました」
初耳だったのか、佑が目を見開いてまじまじと見てくる。
「佑さんに出会って本当に幸せです。宝くじの一等に当選するよりずっと幸運です。……もっと恋愛経験があれば、彼を困らせる事もなかったのでは……と、思う事もあります。だからこそ、何もかも初めてですが、『もっと愛したい、愛されたい、力になりたい』という気持ちにもなれています」
「前の彼は、それほど好きじゃなかったの?」
チーズを口に放り込んだ美鈴に尋ねられ、香澄は苦く笑う。
「あまりいい思い出じゃないんです。彼は私のどこが好きと言わず告白してきて、私もそれになんとなく応えてしまいました。そのあとは〝そういう事〟ばかり求められていました。好きとかより、彼からは『シたい』しか感じませんでした。だから『男の子ってそういう事しか考えていないんだ』って嫌になりました」
「なにそのクソ男!」
美鈴が大きな声で言い、美しい顔を歪める。
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