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第十五部・針山夫婦 編
ママの先輩として
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「やだぁ! めっちゃ香澄ちゃんと話合う! しかも可愛い! 佑くん、この子ちょうだい!」
「あげませんよ」
ご機嫌になった美鈴に、佑が冷静に突っ込む。
そんな二人のやり取りはいつもの事なのか、出雲がのんびりと声を掛ける。
「これから飯の用意するから、ちょっと待っててくれ。佑はハイボールでいいか?」
「ああ」
キッチンには料理人が二人いて、食事を用意してくれているところだ。
「香澄ちゃんは好きな酒ある? 食前酒にシャンパンやシードルどう?」
「あ、頂きます」
反射的に頷いたあと、佑がつけ加えた。
「香澄はあまり辛いのは得意じゃない。甘めを頼む」
「りょーかい」
出雲はピ、と指でサインを送りつつ、カロンと舌を鳴らす。
そのままダイニングにあるバーカウンターに向かい、佑のハイボールなどを作り始めた。
夫を見守りながら、腕を組んだ美鈴が言う。
「あいつ、ちょっと留学したからって、いちいちキザっぽいのよね」
妻の言葉を聞き、出雲が笑いながらあ「聞こえてるぞ」と言う。
「美鈴さん、りらちゃんは?」
佑の問いに、美鈴が微笑んだ。
「さっきおっぱいあげて、いま寝てるところ。爆睡してるからちょっと顔見せてあげる」
そう言って彼女はちょいちょいと手招きをし、リビングの奥にあるベビーベッドに歩み寄る。
子供を見られると知り、香澄はワクワクする。
「りらちゃんって言うんですか? 女の子?」
「そうなの。私たちの出会いはお見合いなんだけど、『結婚するか』って思ったの、札幌に旅行に行った時だったの」
「え? 札幌?」
思わぬところで地元が出て、香澄は目を瞬かせる。
「丁度ライラックまつりの時期でね、カラッと晴れていて暑すぎもなく、すっごい気持ち良かったわ。広々とした所をドライブして、最後に札幌市内を見てライラックがとても綺麗でいいなーって思ったのね。……で、女の子が生まれたら、リラっていう名前になったらロマンチックかなーって思った」
ベビーベッドの中では赤ん坊がすうすうと寝ていて、その無垢な寝顔に思わず胸の奥がキュッとなる。
「……可愛い……。りらちゃん。初めまして」
小さな声で呼びかけると、りらの口元がムズムズと動く。
思わず佑を見ると、彼も微笑んでいた。
「佑ー、ハイボール」
「ああ」
バーカウンターから出雲が呼び、佑が応じる。
香澄は美鈴とりらを覗き込み、作り物のように小さな手に感嘆の溜め息を漏らす。
「あの……美鈴さん」
「ん?」
小さな声で話し掛けると、美鈴も同じぐらいの声で反応してくれる。
「その……もし良かったら、いつになるか分からないですが、ママの先輩として、何か教えてもらえたら嬉しいです」
将来出産した時の事を匂わせると、美鈴がにっこりと笑った。
「勿論! その頃には二人目も産んでる予定だから、がっつり頼って!」
美鈴はガシッと肩を組み、耳元でボソボソと返事をしてくる。
佑から話を聞いていた時は「気が合うかな?」と心配になっていたが、実際こうして話してみると、うまが合い話しやすい。
「なんだか美鈴さん、お姉さんみたいで話しやすいです。頼りにしちゃいますね」
そう言うと、彼女はクシャッと笑った。
「私、今年三十歳になったし、香澄ちゃんよりお姉さんよ。いつでも頼って。あと、お互い予定があったら女子会もしよ。香澄ちゃんに教えたい、いい雰囲気のカフェやレストランがあるの」
「はい!」
誘いを受け、香澄は嬉しくなって頷く。
「ママ友はいるけど、皆〝お嬢様〟っていう感じで息が詰まるのよね。私、スポーツカーや馬を乗り回すタイプなの。習い事も叩き込まれたけど、着物を着て大人しくしているのが性に合わなくて」
「う、馬?」
思わず声に出した香澄に、美鈴はにっこり笑う。
「そう、馬。普段は馬場に預けてお世話を頼んでいるんだけど、週末になると乗りに行くわね。今度香澄ちゃんも連れてってあげる。気持ちいいわよ」
「ありがとうございます。馬ってこの人生でノータッチでして」
「でしょー」
美鈴はりらの側を離れ、ソファに向かう。
「あげませんよ」
ご機嫌になった美鈴に、佑が冷静に突っ込む。
そんな二人のやり取りはいつもの事なのか、出雲がのんびりと声を掛ける。
「これから飯の用意するから、ちょっと待っててくれ。佑はハイボールでいいか?」
「ああ」
キッチンには料理人が二人いて、食事を用意してくれているところだ。
「香澄ちゃんは好きな酒ある? 食前酒にシャンパンやシードルどう?」
「あ、頂きます」
反射的に頷いたあと、佑がつけ加えた。
「香澄はあまり辛いのは得意じゃない。甘めを頼む」
「りょーかい」
出雲はピ、と指でサインを送りつつ、カロンと舌を鳴らす。
そのままダイニングにあるバーカウンターに向かい、佑のハイボールなどを作り始めた。
夫を見守りながら、腕を組んだ美鈴が言う。
「あいつ、ちょっと留学したからって、いちいちキザっぽいのよね」
妻の言葉を聞き、出雲が笑いながらあ「聞こえてるぞ」と言う。
「美鈴さん、りらちゃんは?」
佑の問いに、美鈴が微笑んだ。
「さっきおっぱいあげて、いま寝てるところ。爆睡してるからちょっと顔見せてあげる」
そう言って彼女はちょいちょいと手招きをし、リビングの奥にあるベビーベッドに歩み寄る。
子供を見られると知り、香澄はワクワクする。
「りらちゃんって言うんですか? 女の子?」
「そうなの。私たちの出会いはお見合いなんだけど、『結婚するか』って思ったの、札幌に旅行に行った時だったの」
「え? 札幌?」
思わぬところで地元が出て、香澄は目を瞬かせる。
「丁度ライラックまつりの時期でね、カラッと晴れていて暑すぎもなく、すっごい気持ち良かったわ。広々とした所をドライブして、最後に札幌市内を見てライラックがとても綺麗でいいなーって思ったのね。……で、女の子が生まれたら、リラっていう名前になったらロマンチックかなーって思った」
ベビーベッドの中では赤ん坊がすうすうと寝ていて、その無垢な寝顔に思わず胸の奥がキュッとなる。
「……可愛い……。りらちゃん。初めまして」
小さな声で呼びかけると、りらの口元がムズムズと動く。
思わず佑を見ると、彼も微笑んでいた。
「佑ー、ハイボール」
「ああ」
バーカウンターから出雲が呼び、佑が応じる。
香澄は美鈴とりらを覗き込み、作り物のように小さな手に感嘆の溜め息を漏らす。
「あの……美鈴さん」
「ん?」
小さな声で話し掛けると、美鈴も同じぐらいの声で反応してくれる。
「その……もし良かったら、いつになるか分からないですが、ママの先輩として、何か教えてもらえたら嬉しいです」
将来出産した時の事を匂わせると、美鈴がにっこりと笑った。
「勿論! その頃には二人目も産んでる予定だから、がっつり頼って!」
美鈴はガシッと肩を組み、耳元でボソボソと返事をしてくる。
佑から話を聞いていた時は「気が合うかな?」と心配になっていたが、実際こうして話してみると、うまが合い話しやすい。
「なんだか美鈴さん、お姉さんみたいで話しやすいです。頼りにしちゃいますね」
そう言うと、彼女はクシャッと笑った。
「私、今年三十歳になったし、香澄ちゃんよりお姉さんよ。いつでも頼って。あと、お互い予定があったら女子会もしよ。香澄ちゃんに教えたい、いい雰囲気のカフェやレストランがあるの」
「はい!」
誘いを受け、香澄は嬉しくなって頷く。
「ママ友はいるけど、皆〝お嬢様〟っていう感じで息が詰まるのよね。私、スポーツカーや馬を乗り回すタイプなの。習い事も叩き込まれたけど、着物を着て大人しくしているのが性に合わなくて」
「う、馬?」
思わず声に出した香澄に、美鈴はにっこり笑う。
「そう、馬。普段は馬場に預けてお世話を頼んでいるんだけど、週末になると乗りに行くわね。今度香澄ちゃんも連れてってあげる。気持ちいいわよ」
「ありがとうございます。馬ってこの人生でノータッチでして」
「でしょー」
美鈴はりらの側を離れ、ソファに向かう。
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