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第十五部・針山夫婦 編

針山出雲

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 下唇の輪郭をつぅっと辿られ、香澄の表情から緊張がとれていく。

「セックスを楽しんでいこう? 気持ちよくて理性が飛ぶと怖いかもしれない。でも側に俺がいる。俺だって最中は我を失っているし、お互い様だ。とろけている姿を『可愛い』とは思っても、嗤ったりしないよ」

 本能的に恐れていた事を指摘され、香澄は小さく息をつく。

「……流石だね。何も言わなくても、何に怯えているか筒抜けなんだね」

「香澄ソムリエだから」

「っふふ、なにそれ」

 クスクス笑った香澄を抱き締めてから、佑は濡れた手で髪を掻き上げた。

「体流して、そろそろ出ようか。香澄が逆上せたら困る」

「ん……。そうだね。そろそろ……」

 香澄はバスタブに両手を着いて腰を上げ、繋がりを解く。
 そのあとへたりこんでしまった彼女の秘部に、佑が触れてきた。

「綺麗にしてあげる。なんなら、シャワーで洗い流そうか」

 佑は香澄の体を支えたまま立ち上がり、洗い場のバスチェアに座らせると脚を開かせる。

「ん、もう……っ。そういうのはいいって」

「最後まで面倒みてあげるから」

 恥ずかしいので必死に遠慮するが、佑は嬉しそうに笑うだけだ。

 そして彼は香澄の秘部にシャワーを当て、指で蜜洞を掻き回してくるのだった。



**



 翌日から佑はシンガポールに出張になり、河野が同行する事になった。

 香澄は松井と一緒にオフィス勤務で、いつも通りメール処理や事務仕事をこなす。

 土曜日の午前中に佑が帰ってきて、日中は大人しく休んでもらう。

 くだんの針山家には、土曜日の夕方にお邪魔する予定だった。

 佑は「大丈夫」と言い張るので、香澄は「休んで」とベッドに押し込む。

 そのあと、抱き枕になる事を承諾して、午後まで休んでもらった。





 夕方になり、香澄はフューシャピンクのニットにベージュのマーメイドスカートを穿き、黒いコートを羽織る。

 佑はオリーブ色のセーターを着て、裾から下に着た白いロングTシャツの裾をチラリと見せ、黒い細身のパンツを穿いている。
 その上に黒いチェスターコートを羽織り、ライトグレーのスヌードを巻いた。

 手土産は妊婦の美鈴を気遣い、ヴィーガンスイーツにした。

 二人は小金井が運転する車に乗り、南麻布にある出雲と美鈴の家に向かった。

 目的地は、白金台からは車に乗って十分も掛からない距離になる。

 それでも週末はただでさえ賑わっているので、外を歩くデメリットを考えると、車で行ったほうがいいと判断した。





 針山家の周りはグルリと塀に囲まれている。

 門の前に車が停まると、自動で門が開き、敷地内に入ると玄関から男性が出迎えているのが見えた。

「彼が出雲だよ」

 彼の名前や、佑の親友だという事、『美人堂』の御曹司で社長などの情報は事前に聞かされていて、香澄は「凄い人なんだろうな」と思っていた。

 佑のように見るも眩しい、完璧御曹司を想像して構えていたのだが……。

「おー、来た来た」

 車から降りると、明るい声が聞こえる。

 実際の出雲は、思っていたよりもずっとカジュアルな雰囲気だった。

 爽やかでスポーツ万能、エリート! という感じで、顔立ちは間違いなく美形だ。

 佑が優しげで微かに色気のある美形だとするなら、出雲は思っている事をストレートに言いそうな、明朗な雰囲気があった。

 髪型はスッキリとした黒髪のショートヘアで、服はデザインより品質にこだわっているらしい、シンプルなシャツにテーパードパンツだ。

 目にはキラキラと悪戯っぽい光が宿り、表情が生き生きしている人だと思った。

 どことなく双子と似たものを感じ、香澄は「佑さんってこういうタイプの人に好かれるのかな?」と思った。
 手を振る彼に、佑が挨拶をして香澄を紹介する。

「外まで来てくれてありがとうな。出雲、彼女が香澄だ」

「初めまして。赤松香澄です」

 佑に照会され、香澄はぺこりとお辞儀をした。

「はい、初めまして。可愛いね、香澄ちゃん」

 出雲はニッコリ笑いながら手を差しだし、香澄はおずおずと握手する。

 ギュッと力強く握られた手をブンブンと上下に振られる。

 挨拶が終わったあと、出雲が「さみぃ!」と大きめの声を出して玄関に向かった。
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