【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十五部・針山夫婦 編

神様を抱いている

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(ここで意地を張ったら、また喧嘩になる)

 喧嘩をしたのは、佑が熱を出した件が初めてだ。

 今までは、気まずくなっても佑が折れてくれたし、そのあと香澄が納得できるよう説明してくれた。

 でもいつまでも佑の気の長さに甘えていてはいけない。

 結婚するなら、自分の〝譲れない部分〟を譲れるようにならなければいけない。

 いつまでも独身のつもりで「好きなようにしたい」「自分の我を通したい」と思っていたら、二人で協力して暮らすなどできない。

 ローマで、マリアと話して理解したはずだ。

 自分の人生の中に他人を入れるという事は、一人で抱えてきたものを信頼する相手にも持ってもらう事だ。

 だからとても勇気を出し、恐る恐る尋ねた。

「……じゃあ、家賃、渡さなくても……いい、の?」

 とても不安だったため、自信のない声になってしまう。

「全然構わないよ。何があっても俺は香澄を追い出したりしない。手放すつもりもない。……結婚したいと思っている女性なんだから、もっと自分の価値を認めてあげていいんだよ、香澄」

 最後に佑は柔らかく笑い、香澄の髪を撫でながら抱き寄せ、キスをしてきた。

「…………っ」

 佑の言葉を聞いて、香澄は自分が家賃を払う事で、保険をかけていたのだと気づかされた。

 同時に自分がお金で弱い心を守ろうとしていた事に気付き、一気に情けなくなって涙が零れそうになる。

 体を強張らせた香澄を、佑は優しく抱き締める。

「香澄の自己肯定感がとても低い理由は、原西のせいだと分かってる。それは香澄のせいじゃない。失敗して傷付かないために、慎重になろうとするよな。分かるよ」

 自分では乗り越えたと思っていた健二との過去が、今でも佑との関係に影を落としていた。

「っごめ……」

「いいんだ。俺は絶対に香澄を責めない。ゆっくりでいいよ。俺はこれからも香澄と一緒にいたい。香澄がゆっくり進みたいなら、その歩幅に合わせる」

「……ありが、とう」

 メイクをしているのでなるべく泣きたくないのに、頬をツゥッと涙が流れていく。
 そんな香澄の頭を、佑はよしよしと撫でてくれた。

「俺も香澄も人間だ。完璧じゃないんだ。だからお互い弱みが分かったら、補い合えるようにしていこう」

「……うん」

 ――好きだなぁ。

 香澄は佑の腕にしがみつき、顔を押しつけようとして――、ハッと「ファンデがつく!」と思いとどまった。

「どうした?」

 不思議そうな顔をする佑に、香澄は誤魔化し笑いをする。

「ファンデついちゃう」

「そんなのいいよ。おいで」

 軽やかに笑った佑が香澄をギュッと抱き締めてくる。
 その力強く頼りがいのある腕に、また涙が零れそうになった。

 何度も何度も、佑に救われている。

 自分でも「こんな女、面倒臭くて嫌だ」と思うのに、彼は呆れる事なく何度でも向き合って、納得できる答えをくれる。

 衣食住、何もかも整えてくれて、この上ない深い愛情までくれる。

 だから心底「何をすればお返しができるのだろう?」と悩んでしまう。

「…………っ」

 だから、ギュウッと佑を抱き返した。

「……好き」

 それしか言えない自分が情けない。

「す」と「き」の中に、自分の心の中で大きくうねった感情をすべて込める。

 言葉だけではこの気持ちを表しきれない。

 キスをして舐め合って、深く体を繋いでも心だけは分からない。

 彼を想うだけで泣いてしまいそうになる感情も伝わらない。

 好きで好きで堪らなく、途方もない恩を感じているのに、爪の先ほども伝えられていなくて、悔しくて堪らない。

「好き。……大切なの。……ありがとう」

 神様を抱いていると思った。

 つたない言葉で感情を表す香澄を佑は抱き締め、背中をさすってくれる。

「全部分かってるよ。知ってる」

 包み込むような温かい声に、香澄はもっと涙を零してきつく抱きつく。

 一生、この人だけを愛して、大切にしようと思いながら、グスッと洟を啜った。



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