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第十五部・針山夫婦 編
親友との電話
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「そうですよ。あと、勘づいたた彼氏が聞いてきても、言わないほうが吉と教えています。当然快く思わないでしょうし、告白してきてくれた人にも失礼です。彼氏が告白した人に悪印象を抱いて何かするかもしれません。秘密を守ってくれる女友達になら、打ち明けていいと思いますけどね」
斎藤がさり気なく出したトスを、香澄はポスンと受け止める。
「そう……ですね」
納得し、ごくんと口の中の物を嚥下すると、味気なく感じていた味覚がもとに戻ってくる。
「何かあったんですか?」
「い、いいえ。……何も」
首を横に振る香澄を、斎藤は微笑んで見守る。
香澄が食べ終わったあと、斎藤は片付けをして帰っていった。
その後、香澄は麻衣と電話をして気が済むまで話を聞いてもらった。
『それ、仕方ないよ。向こうだって玉砕覚悟だったんでしょ? 申し訳ないって思うほどドツボになるから、もうちょっと軽く考えなって』
「うん、ありがとう」
『天下の御劔社長が婚約者なんだよ? その井内さんがどんなポテンシャルを秘めていても、万が一はあり得ない。向こうも気持ちを打ち明けてスッキリして、次に進めたと思う。まぁ、香澄からすれば困らされただけかもしれないけど』
「ううん。困らされたとは思わないけど。申し訳ないなとは思う」
『香澄はいつでも〝申し訳ない〟って思ってるから、もうちょっと軽く考えなよ。もっと〝私は幸せになるの!〟って自己中心的に考えていいんだからね? 香澄の人生の主人公は、香澄。モブに遠慮する必要はないの』
「んー……」
親友の言葉に励まされ、香澄は枕に顔を押しつける。
『なに? 異論なら認める』
「麻衣、大好き」
『おっ? お世辞なら沢山聞くよ?』
二人で「あはは!」と笑ったあとは、もう気持ちがスッキリしていた。
「麻衣、大好き」
『私も香澄が大好きだよ。大好きだから、来月東京に行った時は道案内してね?』
「んふふ! するする! でもそれほど慣れてる訳じゃないから、一緒に迷おう?」
『なにそれ~! 頼りにならんな。でも札幌なんて話にならないほど都会なんでしょ?』
「比べたら失礼だけど、都会がどこまでも続いてるよ。それに札幌って何条何丁目って、碁盤の目になってて分かりやすいでしょ。そういうのじゃないから、もっと混乱すると思う」
『なるほど! いやぁ、でも香澄と迷えるなら楽しいよ。あちこち見て写真撮って、食い倒れしようね! っていうか、御劔社長の従兄弟さんも来るんだっけ?』
「うん、そう。あと……あのー……その。例のマティアスさんも……」
『ハァ!? 香澄に手ぇ出した男が来る訳!?』
いきなり麻衣の声が大きくなった。
「お、お怒りはごもっともですが、既に和解済みでして……。せっかく友達になれたのに、ずっと引きずるのは嫌なの。マティアスさんは命令されただけで、その罰はもう受けてるし、私たちが『もういいよ』って赦して、彼にも前を向いて進んでほしい」
電話の向こうから、大きな溜め息が聞こえる。
『ほんっと、あんたは馬鹿がつくほどお人好しだよねぇ』
「すみません……」
『もー! バカバカバカバカバカ。バーカ!』
「うう……。仰る通りです」
もう一度溜め息が聞こえ、麻衣の声が優しくなる。
『そういう所が好きなんだけどね。だから幸せになってほしい。御劔社長にしっかり幸せにしてもらうんだよ?』
「うん」
『あと、その双子さんとマティアスさんに、私からも一言いわせてもらうからね? 私は香澄のモンペなんだから』
「う、うん。でも……お手柔らかにね?」
『分かってるよ。一緒に年末年始を過ごすんだもん、空気を悪くする事はしないって』
「うんうん。麻衣のそういうところ好き」
『今日、久しぶりの出社だったんでしょ? 明日も仕事あるんだから、早めに寝ときな? 私ならいつでも電話してOKだから』
「ありがとう」
『ちゃんと社長に甘えて寝るんだよ。おやすみ!』
「うん、ありがとう。おやすみ」
香澄はにっこり笑ってから電話を切り、「はーっ」と溜め息をついて仰向けになった。
斎藤がさり気なく出したトスを、香澄はポスンと受け止める。
「そう……ですね」
納得し、ごくんと口の中の物を嚥下すると、味気なく感じていた味覚がもとに戻ってくる。
「何かあったんですか?」
「い、いいえ。……何も」
首を横に振る香澄を、斎藤は微笑んで見守る。
香澄が食べ終わったあと、斎藤は片付けをして帰っていった。
その後、香澄は麻衣と電話をして気が済むまで話を聞いてもらった。
『それ、仕方ないよ。向こうだって玉砕覚悟だったんでしょ? 申し訳ないって思うほどドツボになるから、もうちょっと軽く考えなって』
「うん、ありがとう」
『天下の御劔社長が婚約者なんだよ? その井内さんがどんなポテンシャルを秘めていても、万が一はあり得ない。向こうも気持ちを打ち明けてスッキリして、次に進めたと思う。まぁ、香澄からすれば困らされただけかもしれないけど』
「ううん。困らされたとは思わないけど。申し訳ないなとは思う」
『香澄はいつでも〝申し訳ない〟って思ってるから、もうちょっと軽く考えなよ。もっと〝私は幸せになるの!〟って自己中心的に考えていいんだからね? 香澄の人生の主人公は、香澄。モブに遠慮する必要はないの』
「んー……」
親友の言葉に励まされ、香澄は枕に顔を押しつける。
『なに? 異論なら認める』
「麻衣、大好き」
『おっ? お世辞なら沢山聞くよ?』
二人で「あはは!」と笑ったあとは、もう気持ちがスッキリしていた。
「麻衣、大好き」
『私も香澄が大好きだよ。大好きだから、来月東京に行った時は道案内してね?』
「んふふ! するする! でもそれほど慣れてる訳じゃないから、一緒に迷おう?」
『なにそれ~! 頼りにならんな。でも札幌なんて話にならないほど都会なんでしょ?』
「比べたら失礼だけど、都会がどこまでも続いてるよ。それに札幌って何条何丁目って、碁盤の目になってて分かりやすいでしょ。そういうのじゃないから、もっと混乱すると思う」
『なるほど! いやぁ、でも香澄と迷えるなら楽しいよ。あちこち見て写真撮って、食い倒れしようね! っていうか、御劔社長の従兄弟さんも来るんだっけ?』
「うん、そう。あと……あのー……その。例のマティアスさんも……」
『ハァ!? 香澄に手ぇ出した男が来る訳!?』
いきなり麻衣の声が大きくなった。
「お、お怒りはごもっともですが、既に和解済みでして……。せっかく友達になれたのに、ずっと引きずるのは嫌なの。マティアスさんは命令されただけで、その罰はもう受けてるし、私たちが『もういいよ』って赦して、彼にも前を向いて進んでほしい」
電話の向こうから、大きな溜め息が聞こえる。
『ほんっと、あんたは馬鹿がつくほどお人好しだよねぇ』
「すみません……」
『もー! バカバカバカバカバカ。バーカ!』
「うう……。仰る通りです」
もう一度溜め息が聞こえ、麻衣の声が優しくなる。
『そういう所が好きなんだけどね。だから幸せになってほしい。御劔社長にしっかり幸せにしてもらうんだよ?』
「うん」
『あと、その双子さんとマティアスさんに、私からも一言いわせてもらうからね? 私は香澄のモンペなんだから』
「う、うん。でも……お手柔らかにね?」
『分かってるよ。一緒に年末年始を過ごすんだもん、空気を悪くする事はしないって』
「うんうん。麻衣のそういうところ好き」
『今日、久しぶりの出社だったんでしょ? 明日も仕事あるんだから、早めに寝ときな? 私ならいつでも電話してOKだから』
「ありがとう」
『ちゃんと社長に甘えて寝るんだよ。おやすみ!』
「うん、ありがとう。おやすみ」
香澄はにっこり笑ってから電話を切り、「はーっ」と溜め息をついて仰向けになった。
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