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第十五部・針山夫婦 編
収録後
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「〝香澄〟に手を出されたから、じゃない。他の秘書にされても俺は同じように注意する。俺はテレビ局にゲストとして招かれた。それに芸能人ではなく実業家だ。俺の秘書だってテレビ局の客だと捉えている」
そう言われ、香澄はゆっくり理解してく。
「俺は部下を軽んじる相手とは仕事をしたくない。俺にテレビ出演を願う局は、他に幾らでもある。それにメディアの仕事がなくなっても、本業にはほぼ影響はないだろう。テレビに出ているのは『少しでも購買者の興味を引いけたら』と思っての事だ。それがなかったら、いつ身を引いてもいいと思っている。だから赤松さんは何も気にしなくていい」
恐らく、あのディレクターは佑に注意を受けるだろう。
そう思うと、気まずくて堪らない。
唇を引き結び黙り込んだ香澄を見て、佑はフ……と笑った。
「赤松さん? 君はもう少し、こういう場面で『ざまみろ』と思うぐらいのタフさを身につけた方がいい。君の優しさは長所だ。けれどビジネスの場で、舐められたままだと損をするし、自分の人生も悪いものになっていく。無礼が度を超した時は、相手のためにもハッキリ伝えたほうがいい場合もある。それでなければ、ハナテレビはあのディレクターを野放しにしたままになってしまう。そうすれば他の出演者にも失礼な事をするかもしれないし、社としてもそのうち多方に謝る事になるだろう」
確かに、と思い、香澄は小さく頷く。
「責任はすべて俺が取る。だから君は安心して俺の隣に立っていて」
「……はい」
こういう時、佑はいつも正しい判断を下す。
香澄が迷ってどうにもならなくなった時、彼は落ち着いた大人の物の見方で、理路整然とした説明をしてくれる。
導いてくれる光を信じれば、きっと求める場所に行き着ける。
(信じよう)
香澄はもう一度頷き、佑に微笑んでみせた。
**
『アナタ・イズム』の収録は無事に終わり、佑はスタッフに「お疲れ様です」を言われてスタジオを去ろうとする。
その時、先ほどのディレクターが佑に挨拶をしてきた。
「御劔社長、お疲れ様でした」
「木島さん、でしたっけ。今回はありがとうございました」
佑は軽く会釈をし、いつもと変わらない微笑を浮かべ木島の言葉を待つ。
「いやですねぇ。それほど時間を挟まずお会いしたじゃないですか。名前覚えられていないなんて、ショックです」
木島はおもねりながら、ニコニコ笑う。
香澄は側に立ちながら、何とも言えない気持ちで彼を見た。
(誰かに似てる)
思いだしたのは、学生時代、クラスの目立つグループに属していた、お笑い担当の子のセリフだった。
お笑い担当と言っても、その子が面白い事を言う訳ではない。
他の女子からいじられ、「やだやめてよ」と言いながら、おどけて笑いを誘うのだ。
そうしなければ、彼女はそのグループにいられない。
処世術として、その子は自ら笑いをとっていたのだ。
本当は嫌だったかもしれないのに、嫌だと言えない空気があったのは、香澄でも分かる。
(テレビ業界って自分をネタにしないと生きていけないのかな。いじられても、『ひどーい』って言って笑うタフさがないと、有名になれないんだ。そういう〝テレビ気質〟はスタッフも同じなのかもしれない)
香澄はテレビ業界に詳しくないが、何となくそう感じる。
木島は佑に話しかけ、以前一緒にした仕事を話題にして一人で笑っていた。
近い距離で大きな声で喋り、笑っているので、彼の唾が佑のスーツに飛んでいる。
(やめて……)
佑を汚されている気がした香澄は、会話を終わらせ、早く帰りたいと思っていた。
「あの……」
香澄が口を開いた時、佑がスッと手を挙げて木島を制した。
「それでですね……。ん? 何か?」
上機嫌に話していた木島は、ようやく口を止める。
「余計な話はいいとして、うちの秘書への謝罪を求めます」
「えっ?」
木島は一瞬何を言われたか分からない顔をし、香澄を見てサッと表情を強張らせる。
そして苦々しい表情で睨んできた。
だが二人の視線の間に、佑が手を入れて遮ってくる。
「申し上げておきますが、私はChief Everyの売り上げに繋がればと思ってメディアの仕事を受けています。ですがテレビ出演がなくても私の仕事は成立します。第一に私はタレントではありません。自社の仕事を優先し、テレビ局で無礼があれば『共に仕事をする相手ではない』と判断し、撤退してもいいと思っています」
淡々と言う佑の言葉を聞いて、木島の顔色が悪くなる。
佑は特に大きな声を出していない。
だが周囲のスタッフやMC、タレントたちまでもが、振り向いて彼の言葉を聞いていた。
そう言われ、香澄はゆっくり理解してく。
「俺は部下を軽んじる相手とは仕事をしたくない。俺にテレビ出演を願う局は、他に幾らでもある。それにメディアの仕事がなくなっても、本業にはほぼ影響はないだろう。テレビに出ているのは『少しでも購買者の興味を引いけたら』と思っての事だ。それがなかったら、いつ身を引いてもいいと思っている。だから赤松さんは何も気にしなくていい」
恐らく、あのディレクターは佑に注意を受けるだろう。
そう思うと、気まずくて堪らない。
唇を引き結び黙り込んだ香澄を見て、佑はフ……と笑った。
「赤松さん? 君はもう少し、こういう場面で『ざまみろ』と思うぐらいのタフさを身につけた方がいい。君の優しさは長所だ。けれどビジネスの場で、舐められたままだと損をするし、自分の人生も悪いものになっていく。無礼が度を超した時は、相手のためにもハッキリ伝えたほうがいい場合もある。それでなければ、ハナテレビはあのディレクターを野放しにしたままになってしまう。そうすれば他の出演者にも失礼な事をするかもしれないし、社としてもそのうち多方に謝る事になるだろう」
確かに、と思い、香澄は小さく頷く。
「責任はすべて俺が取る。だから君は安心して俺の隣に立っていて」
「……はい」
こういう時、佑はいつも正しい判断を下す。
香澄が迷ってどうにもならなくなった時、彼は落ち着いた大人の物の見方で、理路整然とした説明をしてくれる。
導いてくれる光を信じれば、きっと求める場所に行き着ける。
(信じよう)
香澄はもう一度頷き、佑に微笑んでみせた。
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その時、先ほどのディレクターが佑に挨拶をしてきた。
「御劔社長、お疲れ様でした」
「木島さん、でしたっけ。今回はありがとうございました」
佑は軽く会釈をし、いつもと変わらない微笑を浮かべ木島の言葉を待つ。
「いやですねぇ。それほど時間を挟まずお会いしたじゃないですか。名前覚えられていないなんて、ショックです」
木島はおもねりながら、ニコニコ笑う。
香澄は側に立ちながら、何とも言えない気持ちで彼を見た。
(誰かに似てる)
思いだしたのは、学生時代、クラスの目立つグループに属していた、お笑い担当の子のセリフだった。
お笑い担当と言っても、その子が面白い事を言う訳ではない。
他の女子からいじられ、「やだやめてよ」と言いながら、おどけて笑いを誘うのだ。
そうしなければ、彼女はそのグループにいられない。
処世術として、その子は自ら笑いをとっていたのだ。
本当は嫌だったかもしれないのに、嫌だと言えない空気があったのは、香澄でも分かる。
(テレビ業界って自分をネタにしないと生きていけないのかな。いじられても、『ひどーい』って言って笑うタフさがないと、有名になれないんだ。そういう〝テレビ気質〟はスタッフも同じなのかもしれない)
香澄はテレビ業界に詳しくないが、何となくそう感じる。
木島は佑に話しかけ、以前一緒にした仕事を話題にして一人で笑っていた。
近い距離で大きな声で喋り、笑っているので、彼の唾が佑のスーツに飛んでいる。
(やめて……)
佑を汚されている気がした香澄は、会話を終わらせ、早く帰りたいと思っていた。
「あの……」
香澄が口を開いた時、佑がスッと手を挙げて木島を制した。
「それでですね……。ん? 何か?」
上機嫌に話していた木島は、ようやく口を止める。
「余計な話はいいとして、うちの秘書への謝罪を求めます」
「えっ?」
木島は一瞬何を言われたか分からない顔をし、香澄を見てサッと表情を強張らせる。
そして苦々しい表情で睨んできた。
だが二人の視線の間に、佑が手を入れて遮ってくる。
「申し上げておきますが、私はChief Everyの売り上げに繋がればと思ってメディアの仕事を受けています。ですがテレビ出演がなくても私の仕事は成立します。第一に私はタレントではありません。自社の仕事を優先し、テレビ局で無礼があれば『共に仕事をする相手ではない』と判断し、撤退してもいいと思っています」
淡々と言う佑の言葉を聞いて、木島の顔色が悪くなる。
佑は特に大きな声を出していない。
だが周囲のスタッフやMC、タレントたちまでもが、振り向いて彼の言葉を聞いていた。
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