926 / 1,559
第十五部・針山夫婦 編
テレビ局へ
しおりを挟む
ハナテレビの地下駐車場に入ると、香澄はあらかじめ渡されていた通行証を佑に渡し、自分も首から提げる。
車から降りて警備員に挨拶をし、いざテレビ局に入った。
テレビ局にはまだ数度しか入っていないが、広々としたホールは綺麗で、受付嬢も綺麗だ。
到着を待っていた番組ADが「お待ちしておりました」と笑みを浮かべ、二人を楽屋まで案内する。
「御劔社長には、先にメイクをして頂きます。いやぁ、メイク要らずと言われているだけあって、さすがお綺麗な顔をされていますね。念のため、ライトで肌が光る事などを考えて、軽くファンデーションなどを施させて頂きます」
「分かりました」
エレベーターではアイドルらしい若い女性二人と一緒になり、佑は物凄い視線を浴びていた。
一人は無言で息を呑み、大きな目を見開いて尊いものでも拝んでいるかのような顔だ。
もう一人はひたすら佑の横顔を凝視し、時々ハッと気づいては視線を逸らし、それでもまた見てしまう。
アイドルたちはいきなり声をかけては失礼と思っているのか、結局佑に話し掛けなかった。
(凄い……。皆が会いたがるアイドルにこんな目を向けられて、何とも思っていない男……)
香澄は逆に感心し、そして少し安心してしまう。
やがて目的のフロアに着き、二人は楽屋でコート類を脱ぐ。
佑はADに案内されてメイク室に行き、香澄はADに番組の進行説明を聞きに行った。
収録は夜の時間帯に放送される『アナタ・イズム』というトーク式の番組のものだ。
「真澄氏からのインタビューは事前に収録させて頂いています。他、仲がいいという俳優やモデルから一言、それを交えて御劔社長と司会者がトークを交えていきます。台本はお渡ししてある通りですが、メイクが終わったあと、いま一度楽屋で台本を確認して頂けたら幸いです」
「トーク内容は、台本通りと考えて宜しいですね?」
「はい。会話が盛り上がって脱線した場合、面白ければ使わせて頂きます。色々とこちらで編集しますけれど」
そう言って、ADは両手でチョキを作り、ちょきんとテープカットするジャスチャーをしてみせる。
「承知致しました。御劔は自身の発言を、本意ではない所で切り貼りされる事を好んでおりません。その事を気に留めて頂けたらと思います。こちらも争いは好みませんので」
香澄は真顔で言い、佑に不利になるような編集をすれば、弁護士に相談する事も辞さないと暗に仄めかす。
「承知しております。そこは気を付けますとも。天下の御劔社長ですから」
逆にADにチクリとやり返される。
「御劔の飲み物は、連絡致しました通り、ウーロン茶でお願い致します」
「はい」
「毎回テレビ取材の時に申し上げておりますが、御劔は目の色素が常人より薄いため、あまり強い照明を使わないようお願いします」
そう言って香澄はスタジオを確認する。
夜に放送する番組なので、落ち着いた雰囲気のセットだ。
ライトは間接照明を使い、セットもウッド調でそろえている。
香澄は佑が座る椅子に近づき、実際に座ってみた。
そして頭上のメインライトや、佑が浴びる各ライトを確認して頷く。
彼女の様子を見て、ADが尋ねてきた。
「大丈夫ですか?」
「はい。ご配慮ありがとうございます。それでは、御劔の様子を見て参ります」
香澄はペコリと頭を下げ、佑がいるメイクルームに向かおうとする。
その時、番組ディレクターに声を掛けられた。
「ああ、あなたが河野さんの代理の赤松さんですか? あの、婚約者の」
「はい。お世話になっております」
余計な一言がついたが、香澄はビジネススマイルを浮かべたまま一礼をする。
「いやぁ、お美しいですね。ああ、私こういう者です」
「恐縮です」
香澄もスッと名刺を出して交換する。
ディレクターは香澄の名刺を確認したあと、遠慮のない視線でジロジロ見てくる。
嫌だなと思うが黙って微笑んでいると、とんでもない事を言われた。
「赤松さんはタレントデビューしないんですか?」
「えっ?」
香澄は思わず素っ頓狂な声を出し、周りから一瞬チラッと視線をもらう。
車から降りて警備員に挨拶をし、いざテレビ局に入った。
テレビ局にはまだ数度しか入っていないが、広々としたホールは綺麗で、受付嬢も綺麗だ。
到着を待っていた番組ADが「お待ちしておりました」と笑みを浮かべ、二人を楽屋まで案内する。
「御劔社長には、先にメイクをして頂きます。いやぁ、メイク要らずと言われているだけあって、さすがお綺麗な顔をされていますね。念のため、ライトで肌が光る事などを考えて、軽くファンデーションなどを施させて頂きます」
「分かりました」
エレベーターではアイドルらしい若い女性二人と一緒になり、佑は物凄い視線を浴びていた。
一人は無言で息を呑み、大きな目を見開いて尊いものでも拝んでいるかのような顔だ。
もう一人はひたすら佑の横顔を凝視し、時々ハッと気づいては視線を逸らし、それでもまた見てしまう。
アイドルたちはいきなり声をかけては失礼と思っているのか、結局佑に話し掛けなかった。
(凄い……。皆が会いたがるアイドルにこんな目を向けられて、何とも思っていない男……)
香澄は逆に感心し、そして少し安心してしまう。
やがて目的のフロアに着き、二人は楽屋でコート類を脱ぐ。
佑はADに案内されてメイク室に行き、香澄はADに番組の進行説明を聞きに行った。
収録は夜の時間帯に放送される『アナタ・イズム』というトーク式の番組のものだ。
「真澄氏からのインタビューは事前に収録させて頂いています。他、仲がいいという俳優やモデルから一言、それを交えて御劔社長と司会者がトークを交えていきます。台本はお渡ししてある通りですが、メイクが終わったあと、いま一度楽屋で台本を確認して頂けたら幸いです」
「トーク内容は、台本通りと考えて宜しいですね?」
「はい。会話が盛り上がって脱線した場合、面白ければ使わせて頂きます。色々とこちらで編集しますけれど」
そう言って、ADは両手でチョキを作り、ちょきんとテープカットするジャスチャーをしてみせる。
「承知致しました。御劔は自身の発言を、本意ではない所で切り貼りされる事を好んでおりません。その事を気に留めて頂けたらと思います。こちらも争いは好みませんので」
香澄は真顔で言い、佑に不利になるような編集をすれば、弁護士に相談する事も辞さないと暗に仄めかす。
「承知しております。そこは気を付けますとも。天下の御劔社長ですから」
逆にADにチクリとやり返される。
「御劔の飲み物は、連絡致しました通り、ウーロン茶でお願い致します」
「はい」
「毎回テレビ取材の時に申し上げておりますが、御劔は目の色素が常人より薄いため、あまり強い照明を使わないようお願いします」
そう言って香澄はスタジオを確認する。
夜に放送する番組なので、落ち着いた雰囲気のセットだ。
ライトは間接照明を使い、セットもウッド調でそろえている。
香澄は佑が座る椅子に近づき、実際に座ってみた。
そして頭上のメインライトや、佑が浴びる各ライトを確認して頷く。
彼女の様子を見て、ADが尋ねてきた。
「大丈夫ですか?」
「はい。ご配慮ありがとうございます。それでは、御劔の様子を見て参ります」
香澄はペコリと頭を下げ、佑がいるメイクルームに向かおうとする。
その時、番組ディレクターに声を掛けられた。
「ああ、あなたが河野さんの代理の赤松さんですか? あの、婚約者の」
「はい。お世話になっております」
余計な一言がついたが、香澄はビジネススマイルを浮かべたまま一礼をする。
「いやぁ、お美しいですね。ああ、私こういう者です」
「恐縮です」
香澄もスッと名刺を出して交換する。
ディレクターは香澄の名刺を確認したあと、遠慮のない視線でジロジロ見てくる。
嫌だなと思うが黙って微笑んでいると、とんでもない事を言われた。
「赤松さんはタレントデビューしないんですか?」
「えっ?」
香澄は思わず素っ頓狂な声を出し、周りから一瞬チラッと視線をもらう。
33
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる