908 / 1,508
第十四部・東京日常 編
ちょくちょく怒るね
しおりを挟む
「あそこのチーズケーキ、お土産で有名だけど、美味い?」
「うまい!」
香澄は目に涙を浮かべつつも、いつものように元気に応える。
すると佑は破顔して彼女を抱き締めた。
そんな彼を抱き締め返し、香澄は笑顔で言う。
「小樽、一緒に行こう。いい所だから」
「ん」
佑は心底幸せそうな顔をし、香澄の額に口づける。
「……凄いな、俺たち。二回も過去に人生が交差してた」
「んふふ。……だね」
ここまで運命が交わっていたなら、自分こそが結ばれるべき相手だと思いたい。
彼の癒しとなり、最後の女になりたかった。
様々な想いが胸に溢れ、香澄はギュッと彼を抱き締める。
「私が愛してあげる」なんて、上から目線で言いたくない。
「大変だったね」という言葉で、簡単に済ませたくない。
客観的に見れば、美智瑠を「酷い女性」と言えないと思う。
自分だって佑が無理な熱の下げ方をしたから、疎外感を覚えて寂しくなり、臍を曲げてしまったのだから。
「悪い癖はなるべく直したい。……けど『明日は会社がある』と思ったから、無理をしてでも治さないとという悪い癖が出てしまったんだろうな。香澄がどうして怒ったか、最初分からなかった。無意識に同じ過ちを繰り返すところだった。……本当に馬鹿だ。ごめん……」
悔いる言葉を聞き、彼は美智瑠と別れてからずっと、自分の欠点と向き合って改善しようと努力してきたのを知る。
「……私、思うの」
「ん?」
「一見〝優しい人〟って思われている人って、怒りたい事があっても我慢しちゃうの。怒るほどの事じゃないと思って『まぁいいか』って見て見ぬフリをする。怒れば波風が立ってしまうから、自分さえ我慢すればそれでいいと思ってしまうの。でも何かのきっかけでその我慢が〝限界〟を越えてしまう。そしたら、それまでずっと我慢して溜めていたものが、ぜーんぶ溢れてしまう。『昔はこれも我慢した、あの時からずっと嫌だった』って。そのあと、嫌になって『もういいや』って関係を終わらせてしまう」
佑は思い当たったのか、瞠目した。
「優しい人っていうより、怒りたくなくて我慢しちゃう人って言ったほうがいいのかな。〝和〟を大切にして、感情を抑え込んでしまう人。日本人はそういう気質が多いんだって。美智瑠さんもそうだったんじゃないかな……って思った」
香澄の言葉を聞き、佑は頷く。
「そうだな。美智瑠とは喧嘩する時間がなかった。彼女には言いたい事があっても、俺は文句を言わせる時間を与えなかった。……だから、最後に言いたかった事をすべてぶつけてきたのが分かる」
その言葉を聞き、香澄は佑の頬を両手で包んで微笑んだ。
「だから、私ちょくちょく怒るね」
「え?」
目を丸くした佑に、香澄はクシャッと笑う。
「私も溜め込むタイプだと思う。でも爆発したくないから小出しに怒ってく。だから、今回の喧嘩もその一つだと思っていこ? 佑さんは理由を話してくれて、私も理解した。今後、佑さんが体調を崩した時、お仕事も含めてどう対処していくかは二人で考えていこう」
香澄の提案を聞き、佑は泣きそうな顔で笑い、ギュッと抱き締めてきた。
「……ああ。二人で考えよう」
佑は香澄に頬ずりをし、耳にキスをしてくる。
さらにパフッと胸に手を当ててきたので、香澄は笑いながらその手を外した。
「駄目だよ、病み上がりなんだから」
佑は顔を傾けてキスをしようとしていたが、ピタリと止まって項垂れる。
「……生殺しだ」
「んふふふ……。これもお仕置きの一つです。受け入れたまえ」
佑は屈託なく笑う香澄を見て苦笑いし、そのまま彼女を抱いて立ち上がった。
「わ、と」
「じゃあ、キスとセックスなしのイチャイチャをしよう」
そのまま佑は、病み上がりと思えない力で香澄を抱き、二階の寝室に向かう。
「ち……力あるね」
「そりゃあ、熱があっても走る体力はあるから」
ケロリと言われたあと、ベッドの上に横たえられてしまった。
「邪魔な物は脱がしてしまおう」
そう言って佑は香澄のワンピースを脱がす。
彼がネクタイを緩め、シャツのボタンを外している間、香澄は慌てて布団の中に潜り込んだ。
潜ったあと、急におかしくなって笑いだす。
「ん? どうした?」
尋ねた佑もつられて笑い、下着一枚になったので布団に入ってくる。
「いや、私っていつも佑さんに剥かれてお布団に潜っているから、石があったら入り込むワラジムシみたいだなって思って」
おかしそうに笑う香澄を見て、佑もつられ笑いをした。
「うまい!」
香澄は目に涙を浮かべつつも、いつものように元気に応える。
すると佑は破顔して彼女を抱き締めた。
そんな彼を抱き締め返し、香澄は笑顔で言う。
「小樽、一緒に行こう。いい所だから」
「ん」
佑は心底幸せそうな顔をし、香澄の額に口づける。
「……凄いな、俺たち。二回も過去に人生が交差してた」
「んふふ。……だね」
ここまで運命が交わっていたなら、自分こそが結ばれるべき相手だと思いたい。
彼の癒しとなり、最後の女になりたかった。
様々な想いが胸に溢れ、香澄はギュッと彼を抱き締める。
「私が愛してあげる」なんて、上から目線で言いたくない。
「大変だったね」という言葉で、簡単に済ませたくない。
客観的に見れば、美智瑠を「酷い女性」と言えないと思う。
自分だって佑が無理な熱の下げ方をしたから、疎外感を覚えて寂しくなり、臍を曲げてしまったのだから。
「悪い癖はなるべく直したい。……けど『明日は会社がある』と思ったから、無理をしてでも治さないとという悪い癖が出てしまったんだろうな。香澄がどうして怒ったか、最初分からなかった。無意識に同じ過ちを繰り返すところだった。……本当に馬鹿だ。ごめん……」
悔いる言葉を聞き、彼は美智瑠と別れてからずっと、自分の欠点と向き合って改善しようと努力してきたのを知る。
「……私、思うの」
「ん?」
「一見〝優しい人〟って思われている人って、怒りたい事があっても我慢しちゃうの。怒るほどの事じゃないと思って『まぁいいか』って見て見ぬフリをする。怒れば波風が立ってしまうから、自分さえ我慢すればそれでいいと思ってしまうの。でも何かのきっかけでその我慢が〝限界〟を越えてしまう。そしたら、それまでずっと我慢して溜めていたものが、ぜーんぶ溢れてしまう。『昔はこれも我慢した、あの時からずっと嫌だった』って。そのあと、嫌になって『もういいや』って関係を終わらせてしまう」
佑は思い当たったのか、瞠目した。
「優しい人っていうより、怒りたくなくて我慢しちゃう人って言ったほうがいいのかな。〝和〟を大切にして、感情を抑え込んでしまう人。日本人はそういう気質が多いんだって。美智瑠さんもそうだったんじゃないかな……って思った」
香澄の言葉を聞き、佑は頷く。
「そうだな。美智瑠とは喧嘩する時間がなかった。彼女には言いたい事があっても、俺は文句を言わせる時間を与えなかった。……だから、最後に言いたかった事をすべてぶつけてきたのが分かる」
その言葉を聞き、香澄は佑の頬を両手で包んで微笑んだ。
「だから、私ちょくちょく怒るね」
「え?」
目を丸くした佑に、香澄はクシャッと笑う。
「私も溜め込むタイプだと思う。でも爆発したくないから小出しに怒ってく。だから、今回の喧嘩もその一つだと思っていこ? 佑さんは理由を話してくれて、私も理解した。今後、佑さんが体調を崩した時、お仕事も含めてどう対処していくかは二人で考えていこう」
香澄の提案を聞き、佑は泣きそうな顔で笑い、ギュッと抱き締めてきた。
「……ああ。二人で考えよう」
佑は香澄に頬ずりをし、耳にキスをしてくる。
さらにパフッと胸に手を当ててきたので、香澄は笑いながらその手を外した。
「駄目だよ、病み上がりなんだから」
佑は顔を傾けてキスをしようとしていたが、ピタリと止まって項垂れる。
「……生殺しだ」
「んふふふ……。これもお仕置きの一つです。受け入れたまえ」
佑は屈託なく笑う香澄を見て苦笑いし、そのまま彼女を抱いて立ち上がった。
「わ、と」
「じゃあ、キスとセックスなしのイチャイチャをしよう」
そのまま佑は、病み上がりと思えない力で香澄を抱き、二階の寝室に向かう。
「ち……力あるね」
「そりゃあ、熱があっても走る体力はあるから」
ケロリと言われたあと、ベッドの上に横たえられてしまった。
「邪魔な物は脱がしてしまおう」
そう言って佑は香澄のワンピースを脱がす。
彼がネクタイを緩め、シャツのボタンを外している間、香澄は慌てて布団の中に潜り込んだ。
潜ったあと、急におかしくなって笑いだす。
「ん? どうした?」
尋ねた佑もつられて笑い、下着一枚になったので布団に入ってくる。
「いや、私っていつも佑さんに剥かれてお布団に潜っているから、石があったら入り込むワラジムシみたいだなって思って」
おかしそうに笑う香澄を見て、佑もつられ笑いをした。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
2,461
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる