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第十四部・東京日常 編
仲直り
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「十時くらいには下がったよ。誰かさんの甲斐甲斐しい看病のお陰で」
手を取られ、そのままお姫様にするように手の甲にチュッとキスをされた。
「え!? えっと……え? な、なんでここ……」
「座っていい? 俺も栄養つけたい」
「は、はい! どうぞ!」
彼は席に着くと、オーダーを取りに来たスタッフに、ヒレステーキと車エビのコースを頼んだ。
(えっと……)
香澄は呆然としたまま、考えを整理しようとする。
(行き先を告げずに出たのに、なんで分かったんだろう?)
その驚きが強く、佑に抱いていた不満はどこかへ飛んででいた。
何をどう話せばいいのか分からないまま、とりあえず水を飲む。
すると佑のほうから切り出してきた。
「ごめん、GPSをちょっと確認させてもらったんだ」
「あ、ああ……」
必要になるかもしれないと言われ、位置情報アプリを入れてもらったのを思いだした。
香澄はそのアプリをまったく使っておらず、松井からも必要とする状況を説明されていなかった。
だからスマホにアプリが入っているのは分かっていても、一回ぐらい確認したあと放置して忘れてしまっていた。
「怒った?」
「え? や、別に。そのためのアプリなんでしょ?」
「なら良かった」
佑は微笑み、水を一口飲む。
「場所はともかく、デパートの中は広いよ?」
「ああー……、それは……」
佑は目を泳がせる。
何かあるなと思った香澄は、頬杖をついて彼を見つめた。
「……言って?」
「ん、んー……。責任者と知り合いだから、香澄がここにきたと分かったあと、ちょっと根回ししておいた」
「根回し……とな」
「いつもの佑さんだ」と思いながら、香澄は続きを促す。
「個室のある場所で話したかったから、店員と話す事があったら、さり気なく個室のあるレストランに行くように勧めてもらった。どのレストランに着いても、個室に案内できるようお願いしておいた」
あまりにも佑が通常運転すぎて、香澄は苦笑いする。
「……まぁ、今さら佑さんが何をしても驚かないけど。ホテルで仕事してるんじゃなかったの?」
「ランチ休憩だよ」
「なるほど」
頷いた時、個室のドアがノックされ、飲み物が運ばれてきた。
テーブルの上にドリンクが置かれ、ウェイターが去っていったあと、佑が謝ってきた。
「もう今回みたいな事はしないから、許してほしい」
佑は体ごと香澄のほうを向き、目を見つめてから頭を下げる。
もう怒りの感情が収まっている香澄は、仲直りできる機会をくれた彼に感謝して、自分も謝罪した。
「……私も、怒りすぎた。……から。……私こそごめんなさい」
許しの言葉を聞いて、佑は顔を上げるとフワッと柔らかく微笑んだ。
こんな顔をされたなら、もう許す以外の選択肢がなくなってしまう。
「今までは自分のやり方でやってきたけど、今は香澄が側にいるって失念していた。熱でボーッとしていたとはいえ、香澄が心配してくれたのは分かっていたのに」
謝罪され、反省されて香澄も穏やかに話し始める。
「……私、高熱って滅多に出さないからびっくりしたの。四十度近くの熱は、重病だって思ってる。それを〝いつもの事〟と思えないから、驚いて動揺しちゃったんだと思う」
「まぁ、一般的には病院案件だよな。自分の事だから客観視できなかった」
「……本当に熱下がった?」
香澄は佑の額にぺたりと手を当てる。
「ホテルを出る直前に測った時は、三十六.四度まで下がっていたよ」
「そっ……か。……でも無理したらいけないから、ご飯食べたら戻ろう?」
「香澄が一緒に戻ってくれるなら」
「うん」
やがて生ハムサラダが出され、香澄は安心して料理を楽しむ。
佑はモシャモシャと口を動かす香澄を、隣から嬉しそうに見ている。
そのうち個室に鉄板焼きのシェフが現れ、華麗な手つきで野菜や肉をグリルし始めた。
二人は程よくサシの入った肉と白米のコンボを楽しむ。
そしてデザートには、ガラスのプレートにチョコソースで『いつもありがとう』と書かれたガトーショコラが出された。
手を取られ、そのままお姫様にするように手の甲にチュッとキスをされた。
「え!? えっと……え? な、なんでここ……」
「座っていい? 俺も栄養つけたい」
「は、はい! どうぞ!」
彼は席に着くと、オーダーを取りに来たスタッフに、ヒレステーキと車エビのコースを頼んだ。
(えっと……)
香澄は呆然としたまま、考えを整理しようとする。
(行き先を告げずに出たのに、なんで分かったんだろう?)
その驚きが強く、佑に抱いていた不満はどこかへ飛んででいた。
何をどう話せばいいのか分からないまま、とりあえず水を飲む。
すると佑のほうから切り出してきた。
「ごめん、GPSをちょっと確認させてもらったんだ」
「あ、ああ……」
必要になるかもしれないと言われ、位置情報アプリを入れてもらったのを思いだした。
香澄はそのアプリをまったく使っておらず、松井からも必要とする状況を説明されていなかった。
だからスマホにアプリが入っているのは分かっていても、一回ぐらい確認したあと放置して忘れてしまっていた。
「怒った?」
「え? や、別に。そのためのアプリなんでしょ?」
「なら良かった」
佑は微笑み、水を一口飲む。
「場所はともかく、デパートの中は広いよ?」
「ああー……、それは……」
佑は目を泳がせる。
何かあるなと思った香澄は、頬杖をついて彼を見つめた。
「……言って?」
「ん、んー……。責任者と知り合いだから、香澄がここにきたと分かったあと、ちょっと根回ししておいた」
「根回し……とな」
「いつもの佑さんだ」と思いながら、香澄は続きを促す。
「個室のある場所で話したかったから、店員と話す事があったら、さり気なく個室のあるレストランに行くように勧めてもらった。どのレストランに着いても、個室に案内できるようお願いしておいた」
あまりにも佑が通常運転すぎて、香澄は苦笑いする。
「……まぁ、今さら佑さんが何をしても驚かないけど。ホテルで仕事してるんじゃなかったの?」
「ランチ休憩だよ」
「なるほど」
頷いた時、個室のドアがノックされ、飲み物が運ばれてきた。
テーブルの上にドリンクが置かれ、ウェイターが去っていったあと、佑が謝ってきた。
「もう今回みたいな事はしないから、許してほしい」
佑は体ごと香澄のほうを向き、目を見つめてから頭を下げる。
もう怒りの感情が収まっている香澄は、仲直りできる機会をくれた彼に感謝して、自分も謝罪した。
「……私も、怒りすぎた。……から。……私こそごめんなさい」
許しの言葉を聞いて、佑は顔を上げるとフワッと柔らかく微笑んだ。
こんな顔をされたなら、もう許す以外の選択肢がなくなってしまう。
「今までは自分のやり方でやってきたけど、今は香澄が側にいるって失念していた。熱でボーッとしていたとはいえ、香澄が心配してくれたのは分かっていたのに」
謝罪され、反省されて香澄も穏やかに話し始める。
「……私、高熱って滅多に出さないからびっくりしたの。四十度近くの熱は、重病だって思ってる。それを〝いつもの事〟と思えないから、驚いて動揺しちゃったんだと思う」
「まぁ、一般的には病院案件だよな。自分の事だから客観視できなかった」
「……本当に熱下がった?」
香澄は佑の額にぺたりと手を当てる。
「ホテルを出る直前に測った時は、三十六.四度まで下がっていたよ」
「そっ……か。……でも無理したらいけないから、ご飯食べたら戻ろう?」
「香澄が一緒に戻ってくれるなら」
「うん」
やがて生ハムサラダが出され、香澄は安心して料理を楽しむ。
佑はモシャモシャと口を動かす香澄を、隣から嬉しそうに見ている。
そのうち個室に鉄板焼きのシェフが現れ、華麗な手つきで野菜や肉をグリルし始めた。
二人は程よくサシの入った肉と白米のコンボを楽しむ。
そしてデザートには、ガラスのプレートにチョコソースで『いつもありがとう』と書かれたガトーショコラが出された。
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