【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十四部・東京日常 編

すれ違い

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 香澄はわざと一人分空けて座り直し、むーっと前方を睨む。

「怒ってるのか? 急にいなくなって心配させたなら悪かった」

 いつものように佑が頭を撫でてこようとするが、香澄はとっさに彼の手を払った。

「っ……」

 まさか拒まれると思っていなかった佑は、息を呑み固まる。

「……他の人がいる前で喧嘩したくないから、お部屋に戻ってるね。佑さんのしたい事を終えてから話そう」

 そう言った声は硬く、可愛げのない言い方しかできない。
 そんな自分が嫌になった香澄は、泣いてしまう前に立ち上がった。

「……怒ってるならごめん。すぐ戻る」

「汗をかいて熱を下げるんでしょう? 佑さんがそうしたほうがいいと思うなら、そうして。私はお部屋で待ってる」

 棘のある言い方しかできない香澄は、唇を噛むと踵を返した。

「……香澄……」

 後ろから佑の呟き声が聞こえたが、意地を張った香澄は振り向けない。

 佑への怒りもある。

 だがそれよりも、ネガティブな感情に支配されて制御できない自分の未熟さが、嫌で仕方がない。

(……もう、やだ……)

 足早に歩きながら、このままホテルから出てしまいたい気持ちと戦う。

 そもそも、香澄は怒る事が苦手だ。

 感情を抑え、相手に自分の意思を端的に告げて改善を求める。それだけの事ができない。

 怒りや悲しみというネガティブな感情ばかりが荒れ狂い、「心配してるのに」という押しつけがましい気持ちに支配されている。

(秘書失格だ)

 今はプライベートの時間だろうが、香澄は秘書だ。

 仕事の時に佑が熱を出し、荒療治で解熱しようとした時、こんな対応しかできないならお粗末にも程がある。

(きっと呆れられてる。『すぐ臍を曲げる相手とは結婚できない』って思われたらどうしよう)

 香澄はエレベーターの中で溜め息をつく。

 考え事をしている間に部屋に着いていたが、何をどうしたらいいのか分からず、しばらく広々としたリビングで立ち尽くしていた。



**



(まずい事をしただろうか)

 いっぽう佑は自力で熱を下げるため、もう一本スポーツドリンクを購入してからサウナに向かった。

 恐らく無理をした事で、香澄を怒らせてしまったのだろう。
 だが出社するために、朝のうちに熱を下げなければいけない。

 昨晩香澄に言った通り、年に一、二度、高熱を出す事は、佑の中では当たり前の事になっていた。
 最初こそインフルエンザかと思って焦ったが、三年目ぐらいになると「またか」と思うようになった。

 インフルエンザについては、毎年予防接種を受けている。

 その他予防接種や定期検診も受けてクリアしているので、健康には自信があった。





 佑は二十五歳の時に大きく体調を崩したのを理由に、元カノである美智瑠に振られ、プロポーズするはずだったのも失敗した。

 当時、美智瑠もそろそろプロポーズされると期待していたらしい。

 だが体調を崩した佑が復活するまで一年近くかかったので、待ちきれなくなり、愛想を尽かしたのだと思っている。

 最初のうちはお見舞いに来てくれていたが、一か月を過ぎるとその足も遠のいた。

 さらに松井から『社員の噂で、転職する準備をされていると聞きました』と教えられた。

 引き留めようかと思ったが、彼女に無茶な働き方を注意されたにも拘わらず、無視して体を壊した自分が「今さら何を言う」という気持ちになった。

 結局、佑は彼女の退職届けを受理した。

 何より堪えたのは、『私はあなたとじゃ幸せになれない。あなたを心配し続ける生活は無理』と言われた事だ。

 それ以来、佑は健康に気を遣うようになった。

 かかりつけ医がいつでも往診できるよう手配し、以前は忙しいを理由にしてあまり受けなかった、定期検診にも行くようになった。

 疲労からくる熱を出した初期は、高村にこう言われて納得した。

『御劔さんぐらいオーバーワークなら、熱を出してバランスを取ろうとしても、おかしくありません』

 そうならないように努力はしているが、どうしても熱をだしてしまう。

 そして、とにかく忙しい。

 休日でも、何かしら仕事の連絡に目を通している。
 仕事以外でも、世界中に繋がりがあるので、時間を問わず〝御劔佑〟に連絡をする人は多かった。

 今でもそうだが、二十代半ばはChief Everyがどんどん成長していて、仕事をするのが楽しかった。
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