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第十四部・東京日常 編
三人VS佑
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「社長! お邪魔してまーす!」
「いつもそうやって赤松さんに『ただいま』してるんですね!?」
「〝ただいまのキス〟リクエストしていいですか!?」
リビングから顔を見せ、好き放題に言う三人を見て、佑は大きな溜め息をついた。
「なんだあれは。酔っ払いか?」
「……ちょ、ちょっとしか飲んでないはずなんだけど……」
三人がいる前でプライベートモードになっていいか分からず、香澄は小声で説明して首を傾げる。
佑がコートを脱ごうとしたので、ついいつものように受け取ろうとすると、「ヒュウウーッ!」とはやし立てられた。
(ううう……っ、やりづらい!)
佑は香澄の頭を撫で、先にリビングに行って三人に話しかける。
「あまり飲んで騒がないように。明日も仕事なんだからな」
「分かってますって」
「ステーキとケーキごちそうさまでした! 美味しかったです!」
「ごちそうさまです! またいつでも呼んでください!」
「どういたしまして。ただ、今回の事は内密に。いいね?」
佑に言われ、三人は「はーい」といい返事をする。
その時、佑がテーブルの上に置きっぱなしになっていた、成瀬のスケッチブックに気づいた。
「熱心だな。プライベートでもデザインを……」
言いながら覗き込み、佑が固まった。
なにせスケッチブックには、あきらかに香澄の顔をしているヌードモデルが、きわどい衣装を着てポージングしている絵と、女性器のアップが描かれていたからだ。
「わ、わあっ! た、佑さん見ないで!」
佑が見ている物に気づいた香澄は、ガバッと彼に飛びつき目隠しをする。
「わぁ~、やっぱり『佑さん』って言うんだ」
「さっきまで赤松さんを如何に愛でるか、って話をしてたんです。赤松さんってボンデージやハーネスも似合いそうですよね~!」
「……君たちね……」
佑は香澄に目元を覆われたまま、深い溜め息をつく。
屈んでいた彼が姿勢を戻すと、身長差ができて手が外れてしまった。
「あっあっ……」
香澄はピョンピョン跳ね、佑の目元を隠そうとする。
だがその手首を、たやすく片手で掴まれてしまう。
佑はもう一度溜め息をつき、三人に言う。
「いいか? たとえ君たちであっても、婚約者の裸や女性器を想像されるのは気分が良くない。香澄に似合う格好を考えてくれるのは嬉しい。だが卑猥なスケッチは控える事。これがいつ、誰に見られるか分からない。そのリスクは分かるな? ……このページのみ、没収しておく」
佑はページの裏に仕事に関するメモやスケッチがないか確認したあと、そのページだけ切り離してしまった。
成瀬たちは顔を見合わせ、「はーい」と返事をする。
「怒りました?」
水木が不安そうに佑見る。
そこで佑は、ようやく表情を崩した。
「怒ったというか、一人の男として気分が良くないだけだ。俺は君たちが相手でも、スケッチであっても嫉妬してしまう、狭量な男なんだ。プライベートでの問題だから、仕事に響くかもしれないと心配する必要はない」
そう言われて、三人はあからさまにホッとした顔をした。
「女性同士の猥談はきわどいと言うけど、あまり香澄を巻き込まないでくれ」
佑は最後に香澄の頭を撫で、コートを持ってウォークインクローゼットへ向かった。
「……赤松さん、大事にされてるねぇ」
荒木がコソッと言い、香澄の頭をよしよしと撫でる。
「大事というか……、ときどき保護者みたいになるんです」
「いやぁ、囲い込んでるっていう感じがするねぇ」
「同性の下ネタにも嫉妬するって相当だねー。でもさすが社長! 嫉妬しても怒らないし、注意の仕方もスマート」
そう言われて内心ホッとした。
自分のせいで三人が怒られ、気まずくなったらどうしようと心配していたのだ。
「社長が帰ってきたし、お腹一杯になったし猥談もしたし、そろそろ帰ろうか」
「そうだね。明日も仕事かー」
「金曜日を乗り越えたら週末だし、赤松さんと社長を肴にして飲もうよ」
「おー、いいね」
懲りていない彼女たちの会話に、香澄は苦笑いした。
けれど佑が来たから帰るというのも……、と思い、引き留めてみる。
「あの、もうちょっといても、いいんじゃないですか?」
「そうしたいところだけど、社長は疲れてるだろうし、赤松さんがゆっくり癒やしてあげたら?」
「私たちならいつでも話せるしね。復帰したらまた一緒にランチしよ? 仕事帰りの居酒屋でもバーでも、とことん付き合うから」
「ありがとうございます」
香澄が微笑んだ時、奥から私服に着替えた佑が姿を現した。
「ん? もう帰るのか?」
「わあ! 社長の私服レア!」
「普通のロンTと細身パンツなのに、だだ漏れるモデル感!」
「てかホントにスタイルいいなぁ……」
三人は佑の側に寄り、真剣な顔で「モデルにしたい」だの何だのブツブツ言う。
「いつもそうやって赤松さんに『ただいま』してるんですね!?」
「〝ただいまのキス〟リクエストしていいですか!?」
リビングから顔を見せ、好き放題に言う三人を見て、佑は大きな溜め息をついた。
「なんだあれは。酔っ払いか?」
「……ちょ、ちょっとしか飲んでないはずなんだけど……」
三人がいる前でプライベートモードになっていいか分からず、香澄は小声で説明して首を傾げる。
佑がコートを脱ごうとしたので、ついいつものように受け取ろうとすると、「ヒュウウーッ!」とはやし立てられた。
(ううう……っ、やりづらい!)
佑は香澄の頭を撫で、先にリビングに行って三人に話しかける。
「あまり飲んで騒がないように。明日も仕事なんだからな」
「分かってますって」
「ステーキとケーキごちそうさまでした! 美味しかったです!」
「ごちそうさまです! またいつでも呼んでください!」
「どういたしまして。ただ、今回の事は内密に。いいね?」
佑に言われ、三人は「はーい」といい返事をする。
その時、佑がテーブルの上に置きっぱなしになっていた、成瀬のスケッチブックに気づいた。
「熱心だな。プライベートでもデザインを……」
言いながら覗き込み、佑が固まった。
なにせスケッチブックには、あきらかに香澄の顔をしているヌードモデルが、きわどい衣装を着てポージングしている絵と、女性器のアップが描かれていたからだ。
「わ、わあっ! た、佑さん見ないで!」
佑が見ている物に気づいた香澄は、ガバッと彼に飛びつき目隠しをする。
「わぁ~、やっぱり『佑さん』って言うんだ」
「さっきまで赤松さんを如何に愛でるか、って話をしてたんです。赤松さんってボンデージやハーネスも似合いそうですよね~!」
「……君たちね……」
佑は香澄に目元を覆われたまま、深い溜め息をつく。
屈んでいた彼が姿勢を戻すと、身長差ができて手が外れてしまった。
「あっあっ……」
香澄はピョンピョン跳ね、佑の目元を隠そうとする。
だがその手首を、たやすく片手で掴まれてしまう。
佑はもう一度溜め息をつき、三人に言う。
「いいか? たとえ君たちであっても、婚約者の裸や女性器を想像されるのは気分が良くない。香澄に似合う格好を考えてくれるのは嬉しい。だが卑猥なスケッチは控える事。これがいつ、誰に見られるか分からない。そのリスクは分かるな? ……このページのみ、没収しておく」
佑はページの裏に仕事に関するメモやスケッチがないか確認したあと、そのページだけ切り離してしまった。
成瀬たちは顔を見合わせ、「はーい」と返事をする。
「怒りました?」
水木が不安そうに佑見る。
そこで佑は、ようやく表情を崩した。
「怒ったというか、一人の男として気分が良くないだけだ。俺は君たちが相手でも、スケッチであっても嫉妬してしまう、狭量な男なんだ。プライベートでの問題だから、仕事に響くかもしれないと心配する必要はない」
そう言われて、三人はあからさまにホッとした顔をした。
「女性同士の猥談はきわどいと言うけど、あまり香澄を巻き込まないでくれ」
佑は最後に香澄の頭を撫で、コートを持ってウォークインクローゼットへ向かった。
「……赤松さん、大事にされてるねぇ」
荒木がコソッと言い、香澄の頭をよしよしと撫でる。
「大事というか……、ときどき保護者みたいになるんです」
「いやぁ、囲い込んでるっていう感じがするねぇ」
「同性の下ネタにも嫉妬するって相当だねー。でもさすが社長! 嫉妬しても怒らないし、注意の仕方もスマート」
そう言われて内心ホッとした。
自分のせいで三人が怒られ、気まずくなったらどうしようと心配していたのだ。
「社長が帰ってきたし、お腹一杯になったし猥談もしたし、そろそろ帰ろうか」
「そうだね。明日も仕事かー」
「金曜日を乗り越えたら週末だし、赤松さんと社長を肴にして飲もうよ」
「おー、いいね」
懲りていない彼女たちの会話に、香澄は苦笑いした。
けれど佑が来たから帰るというのも……、と思い、引き留めてみる。
「あの、もうちょっといても、いいんじゃないですか?」
「そうしたいところだけど、社長は疲れてるだろうし、赤松さんがゆっくり癒やしてあげたら?」
「私たちならいつでも話せるしね。復帰したらまた一緒にランチしよ? 仕事帰りの居酒屋でもバーでも、とことん付き合うから」
「ありがとうございます」
香澄が微笑んだ時、奥から私服に着替えた佑が姿を現した。
「ん? もう帰るのか?」
「わあ! 社長の私服レア!」
「普通のロンTと細身パンツなのに、だだ漏れるモデル感!」
「てかホントにスタイルいいなぁ……」
三人は佑の側に寄り、真剣な顔で「モデルにしたい」だの何だのブツブツ言う。
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