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第十四部・東京日常 編
かしましくお喋りをしながらの食事
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「その……ずっと休んでいたくせに海外行ってたとか、そんな余裕があるなら働けって思われても仕方がないと言いますか……」
「あー。そういうの、もしかしたらほーんの少しいるかもだけど。違うからね?」
水木に「違う」と言われ、香澄は不安げに彼女を見る。
「赤松さんって鬱になった本人なのに、『鬱で休むのは甘え』って思ってるクチ?」
「い、いえ……。でも私、一般的な病気療養よりずっと長く休んでしまって」
俯く香澄の肩を、隣に座っていた水木がポンと叩いた。
「うちの会社って、何度も表彰されてるホワイト企業だよ。私はそれが誇りだし、社長の事も尊敬してる。そういう会社で働く社員も、意識は高く持っていてほしいの。『鬱は甘え』って言ってるのは、ブラック企業体質の人だと思うよ。鬱は病気だし、リフレッシュのために旅行に行くのは全然アリ! 私はChief Everyの社員として、赤松さんにそう考えてほしいな」
キッパリと言われ、水木の意識の高さに香澄は呆然とする。
「意識が高い」というと、どこかバカにしたようなニュアンスで使われる事が多いが、水木は本当の意味で意識が高い。
Chief Everyの社員として誇りを持ち、一人の人としても志を高く持とうとしている。
何かあるとすぐ落ち込み、「自分のせい」と卑屈になる癖がある香澄から見て、その姿はとても眩しく思えた。
「……すみま……。……ありがとうございます」
謝ろうとしたが「いけない」と思い、感謝の言葉を口にする。
すると成瀬が赤ワインを飲んでケロリと言った。
「飯山みたいなのがいたら、何か言ってたかもしれない。でもあいつらがいなくなって、皆生き生きしてるからね。あいつら『私たちはできる女です』って高圧的だったから、仕事し辛かったんだよね。チーフデザイナーにも歯向かってたしねー。退職した原因は、赤松さんをいじめたからだろうけど、ザマーミロって感じ」
成瀬がケロリと毒を吐き、赤ワインを呷る。
それに荒野も同意する。
「今の企画部、すっごくいい雰囲気だよ。それに赤松さんって社長秘書でしょ? 負い目を感じるなら一般社員より、秘書課にだと思う。でもあの人たちだって自分の仕事で精一杯だしね。風の噂で、赤松さんがいなくなったあとの座を狙ってる人がいる……って聞いたけど、それは社長が望まないでしょー。そうさせないように、河野さんが入ったと思うしね。てか、そもそもうちの社長は女性秘書をつけない人だったし」
その言葉を聞いて、香澄はドキッとする。
「社長秘書、狙っている人がいるんですか?」
「そりゃあねぇー……。いないって言ったら嘘になるよね。でも社長の防御が完璧だから、赤松さんは心配しなくていいと思うよ」
「そう……ですか?」
不安げに小首を傾げた香澄に、ニヤニヤした水木が言う。
「社長ったら、会社に赤松さんがいる時といない時とで、大分テンション違うよ。基本的に社員にもフレンドリーな人だけど、赤松さんがいると心の扉がかなり開いている感じかな。いない時はちょーっとだけ『話し掛けていいのかな?』って躊躇う雰囲気がある」
「な……なるほど……」
普段、自分目線からの〝御劔社長〟しか知らなかったので、彼女たち目線の感想は参考になる。
「ていうか、今はもうほぼ全員が『社長は赤松さんしか目に入っていない』って認識してるから、実質赤松さんは無敵だからね?」
「そ、そういうの困るんです。社長がいるからって、何でも許される人になりたくないんです」
焦って胸の前でブンブンと手を振る香澄を見て、三人は生暖かい笑みを浮かべた。
「赤松さんは大丈夫だよねー。そう言ってられる限り、いろーんな事が大丈夫だと思う」
「そうそう。だから私たちも〝社長の特別〟でも『好きだなー』って思ったし」
「……あ、ありがとうございます……」
よく分からないが褒められて、香澄はペコリと頭を下げる。
そうこうしているうちに前菜が運ばれてきた。
写真映えする前菜のあとにスープ、そしてサラダがテーブルに置かれる。
サラダは北海道産のホタテを使ったもので、「さすが北海道。赤松さんありがとう」意味もなく褒められた。
(美味しい……)
柔らかく甘みのあるホタテをむぐむぐと食べながら、「佑さんも一緒ならいいのに」と思ってしまう。
佑は今日、会社が終わったあとに会食があるらしく、それが終わり次第ホテルに戻ってくる予定だ。
「赤松さんって、社長と二人きりの時に『佑』って呼び捨てにしてるの?」
「ふむっ」
いきなりそう言われ、香澄は柚子風味のドレッシングで噎せた。
「たーくんとか、たっくんとか?」
「いや、意外と佑様とか? やらしーぃ」
「ち、違います! 普通に『佑さん』です……」
消え入るような声で白状した香澄を、三人がニヤァ……と笑って見守る。
「へぇぇ……。『佑さん』ねぇ……。御劔邸でディナーをする時は、『あーん』とかしているのかなぁ?」
成瀬がニヤニヤ笑って質問し、香澄は顔を引き攣らせる。
「あー。そういうの、もしかしたらほーんの少しいるかもだけど。違うからね?」
水木に「違う」と言われ、香澄は不安げに彼女を見る。
「赤松さんって鬱になった本人なのに、『鬱で休むのは甘え』って思ってるクチ?」
「い、いえ……。でも私、一般的な病気療養よりずっと長く休んでしまって」
俯く香澄の肩を、隣に座っていた水木がポンと叩いた。
「うちの会社って、何度も表彰されてるホワイト企業だよ。私はそれが誇りだし、社長の事も尊敬してる。そういう会社で働く社員も、意識は高く持っていてほしいの。『鬱は甘え』って言ってるのは、ブラック企業体質の人だと思うよ。鬱は病気だし、リフレッシュのために旅行に行くのは全然アリ! 私はChief Everyの社員として、赤松さんにそう考えてほしいな」
キッパリと言われ、水木の意識の高さに香澄は呆然とする。
「意識が高い」というと、どこかバカにしたようなニュアンスで使われる事が多いが、水木は本当の意味で意識が高い。
Chief Everyの社員として誇りを持ち、一人の人としても志を高く持とうとしている。
何かあるとすぐ落ち込み、「自分のせい」と卑屈になる癖がある香澄から見て、その姿はとても眩しく思えた。
「……すみま……。……ありがとうございます」
謝ろうとしたが「いけない」と思い、感謝の言葉を口にする。
すると成瀬が赤ワインを飲んでケロリと言った。
「飯山みたいなのがいたら、何か言ってたかもしれない。でもあいつらがいなくなって、皆生き生きしてるからね。あいつら『私たちはできる女です』って高圧的だったから、仕事し辛かったんだよね。チーフデザイナーにも歯向かってたしねー。退職した原因は、赤松さんをいじめたからだろうけど、ザマーミロって感じ」
成瀬がケロリと毒を吐き、赤ワインを呷る。
それに荒野も同意する。
「今の企画部、すっごくいい雰囲気だよ。それに赤松さんって社長秘書でしょ? 負い目を感じるなら一般社員より、秘書課にだと思う。でもあの人たちだって自分の仕事で精一杯だしね。風の噂で、赤松さんがいなくなったあとの座を狙ってる人がいる……って聞いたけど、それは社長が望まないでしょー。そうさせないように、河野さんが入ったと思うしね。てか、そもそもうちの社長は女性秘書をつけない人だったし」
その言葉を聞いて、香澄はドキッとする。
「社長秘書、狙っている人がいるんですか?」
「そりゃあねぇー……。いないって言ったら嘘になるよね。でも社長の防御が完璧だから、赤松さんは心配しなくていいと思うよ」
「そう……ですか?」
不安げに小首を傾げた香澄に、ニヤニヤした水木が言う。
「社長ったら、会社に赤松さんがいる時といない時とで、大分テンション違うよ。基本的に社員にもフレンドリーな人だけど、赤松さんがいると心の扉がかなり開いている感じかな。いない時はちょーっとだけ『話し掛けていいのかな?』って躊躇う雰囲気がある」
「な……なるほど……」
普段、自分目線からの〝御劔社長〟しか知らなかったので、彼女たち目線の感想は参考になる。
「ていうか、今はもうほぼ全員が『社長は赤松さんしか目に入っていない』って認識してるから、実質赤松さんは無敵だからね?」
「そ、そういうの困るんです。社長がいるからって、何でも許される人になりたくないんです」
焦って胸の前でブンブンと手を振る香澄を見て、三人は生暖かい笑みを浮かべた。
「赤松さんは大丈夫だよねー。そう言ってられる限り、いろーんな事が大丈夫だと思う」
「そうそう。だから私たちも〝社長の特別〟でも『好きだなー』って思ったし」
「……あ、ありがとうございます……」
よく分からないが褒められて、香澄はペコリと頭を下げる。
そうこうしているうちに前菜が運ばれてきた。
写真映えする前菜のあとにスープ、そしてサラダがテーブルに置かれる。
サラダは北海道産のホタテを使ったもので、「さすが北海道。赤松さんありがとう」意味もなく褒められた。
(美味しい……)
柔らかく甘みのあるホタテをむぐむぐと食べながら、「佑さんも一緒ならいいのに」と思ってしまう。
佑は今日、会社が終わったあとに会食があるらしく、それが終わり次第ホテルに戻ってくる予定だ。
「赤松さんって、社長と二人きりの時に『佑』って呼び捨てにしてるの?」
「ふむっ」
いきなりそう言われ、香澄は柚子風味のドレッシングで噎せた。
「たーくんとか、たっくんとか?」
「いや、意外と佑様とか? やらしーぃ」
「ち、違います! 普通に『佑さん』です……」
消え入るような声で白状した香澄を、三人がニヤァ……と笑って見守る。
「へぇぇ……。『佑さん』ねぇ……。御劔邸でディナーをする時は、『あーん』とかしているのかなぁ?」
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