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第十四部・東京日常 編

女子ウケコーデ

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 香澄は香りが好きで使っていて、使用感については日常化しているのでよく分からない。

 麻衣にジョン・アルクールを愛用していると伝えると、彼女も使い始めたと言って使用感を教えてくれた。

 麻衣はウッドセージ&シーソルトを気に入ったらしく、そのコロンとボディソープ、ボディクリームを揃えたらしい。
 そして「ボディソープを使い始めてから、肌がフカフカになった」と報告してくれた。

 香澄としては布教がうまくいって、願ったり叶ったりだ。

 いい香りに包まれてご機嫌になり、風呂上がりのスキンケアに移る。

 フェイスケア、ボディケアは面倒だが、「自分を大切にできている」と思えるので好きだ。

「ぷう」

 フェイスケアを終えたあと、体に化粧水を塗る。
 それから毛先に洗い流さないトリートメントを揉み込んで、ボディクリームを塗ってからドライヤーを掛ける。

 ケアがすべて終わったあと、二階のリビングで水を飲み、火照りが収まった頃、着替えてメイクを始める。

 今夜は女子会なので、それほど気合いを入れた格好はしない。

 入れないというより、女子ウケコーデは男性ウケと方向性が違うのだ。

 服は黒いタートルネックニットに、グレンチェックのスカートを選んだ。
 メイクも〝それほど力を入れていない〟ように見える〝手間の掛かったナチュラルメイク〟だ。

 日焼け止めとプライマーを塗ったあと、透明感を出すためにパープルのコントロールカラーを少し頬に馴染ませる。

 コンシーラーで気になるところを隠したあと、艶系のリキッドファンデーションにリキッドハイライターを少し混ぜ、顔の中心部のみ塗っていく。

 スティックハイライトを指でちょんちょんとのせて、濡れたようなツヤを足したあと、ジュワッと血色感のあるリキッドチークを使う。

 アイシャドウは柔らかさの出るピンク系を使うが、あまり濃い色は使わない。
 自然にグラデーションを作ってブラウンのアイライナーを引いたあと、アイホールの中央にラメをちょんとのせる。

 女子は睫毛の長さを気にするので、睫毛はしっかりと下地を塗り、ボリュームより長さとカール重視のブラウンマスカラを塗る。

 アイブロウはピンクブラウン系で、アイブロウマスカラも同色だ。

 コンシーラーで輪郭を潰した唇は、薄めのリップティントを塗ったあと、一度ティッシュオフする。
 中心に少し濃い色を加えて、馴染ませてグラデーションにし、仕上げに透明のオイルリップティントを塗る。

 すべて終わったあとは、ヨレ防止にフィックスミストを拭きかけた。

「よし、こんなもんかな」

 髪は毛先を緩く巻き、〝緩め、きれいめ〟のできあがりだ。

 不意に昔、健二に『お前、もうちょっと女らしい格好しろよ』と言われた事を思いだし、表情を歪ませる。

(……大丈夫。いま彼はいない。佑さんは私を否定しない。私は愛されてる。今日会う人だって、私をバカにしない)

 鏡に映った、強張った顔をする自分に言い聞かせる。

 目を閉じて深呼吸し、大好きな人の顔を思い浮かべ、甘い時間を思いだす。

「愛されている」という充足感が冷たくなった心を温め、ホッと息をついた。

 目を開けて時間を確認すると、もう家を出ないといけない。
 成瀬たちとの待ち合わせは、ホテルのロビーで集合になっている。

「大丈夫!」

 最後に鏡の中の自分に笑いかけ、コートを羽織る。

 そのあと久住に連絡をして、玄関でショートブーツを履いて家をでた。



**



 瀬尾がホテルまで運転してくれている間、香澄はボーッとしながら弱音を吐きそうな自分と戦っていた。

〝トリガー〟ができると、どうしてもトラウマが大きな影となって襲ってくる。

 懸命に佑の事や楽しい事を考えても、心の中では健二に言われた心ない言葉が蘇る。

 クリスマス一色になった街中を見た香澄は、なるべく楽しい気持ちになるよう努力した。





 ホテルに着いたあと、香澄は瀬尾に礼を言って久住、佐野と一緒に車を降りる。

 ヨーロッパでも感じていたが、佑と愛し合った部屋を綺麗にしてもらい、その部屋にまた戻るというのは、なかなか恥ずかしい。

 今いるのが日本で、佑の認知度が最も高い国だけに、余計にそう感じる。
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