【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十四部・東京日常 編

私のこと、怖いかしら?

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『鬱陶しくない? 困っているなら私から一言いうわよ?』

「とんでもないです! 本当に嬉しいです」

 結婚指輪は少し困ったが、基本的に皆からの好意はありがたく受け取っている。

『そう? ならいいけど。ドイツ人は家族を大事にするわ。ファーターたちはあなたに負い目があるから、包み隠さず好意を示すようにしているのかもしれないわね』

〝負い目〟と言われ、ドキッとした。
 どう返事をしたらいいか考えていると、アンネが先に口を開く。

『さっきは場の雰囲気を優先して言うのを控えたけれど、私の父が申し訳ない事をしたわ。アロクラだって、事情があるとはいえあなたを軽んじた。本当に……情けなくて、クラウザー家の人間と思えない』

「……いいえ、そんな……」

 ラウンジカフェで会った時はいつも通りだったのに、改めて言われるとどう反応したらいいか迷ってしまう。

『本当に申し訳なく思っているわ。オーパとアロクラがした事を、あなたは許さなくていい。……でも佑から聞いた話では、あなたは謝罪の場で全員を許してしまったようね』

 溜め息混じりの声には、半分は呆れ、残りはそんな香澄への好意がある。

「……私は許す許さないとかよりも、受け入れてほしいだけなんです。佑さんと結婚する事に賛成してほしい。ただ、それだけなんです」

 香澄は何回でも、同じ言葉を繰り返す。

『マティアスはあなたを辱めたのよ? ファーターもアロクラも、それを見て見ぬふりをした。佑の妻になる女性が、身内に近い人物に辱められたと聞いて、本当に申し訳なく思っている』

 アンネの声の奥には、マティアスたちへの深い失望が宿っている。

 彼女が自分のために怒ってくれていると知り、もう流さないと決めたはずの涙がこみ上げてきた。
 けれどせっかく誕生日を祝ってもらった日だし、しんみりしたくない。

「ありがとうございます。……皆さんに嫌われていないって分かっただけで、十分なんです。謝罪もきちんと受け入れました。沢山のお金も受け取りました。……その分、私は御劔家やクラウザー家に相応しい、きちんとした女性になれるよう努力します」

 努めて明るく言うと、アンネがハーッと大きな溜め息をついた。

「ア、アンネさん?」

 不安になって尋ねると、彼女は今までより和らいだ声で言う。

『本当にあなたはお人好しね。そんなんで佑の妻が務まるのかしら? いい? あなたは被害者なんだから、がっぽり慰謝料をせしめて当たり前なの。ちょっとやそっとの金額を支払われたからと言って、びびってるんじゃないわよ』

「は……はい……」

『あなたが受け取ったお金は、彼らにとって痛くも痒くもない額よ。特にファーターは島や城、飛行機や客船なんかも平気で買える資産があるわ。ファーターにとって、お金で解決するって言ったら一番簡単な手段なんだから』

「……はい……」

 さすが娘なだけあり、アンネは父の財力をよく分かっている。

『……それでも、こういう時はお金を受け取るしかできないけれどね。今回は身内が相手だけど、いつどんな事件が起こるか分からないわ。佑は敵が多いし、隙があれば足元をすくってやろうと思う人が大勢いる。その時、佑のウィークポイントになるのは、あなたよ』

「……それは自覚しています」

 香澄は座り直し、まじめな顔で頷く。

『身内が過ちを犯したなら、話し合って分かり合えるかもしれない。でも著名人は一方的に人の恨みを買うわ。佑は顔も知らない相手に、様々な感情を抱かれている。何もしていないのに、一方的に被害者になって佑を糾弾する人もいるわ。その時、あなた達を守ってくれるのは法とお金よ。お金があれば護衛を雇い、弁護士に相談できる。そして相手を訴えて解決できる。それを〝悪い〟と思ってはいけないの。いいわね?』

「はい。自覚するよう努めます」

 今度はきちんと、理解して頷いた。

 アンネは息をつき、やや間を開ける。
 そして突然な質問をしてきた。

『ねぇ、香澄さん』

「はい?」

『私のこと、怖いかしら?』

 急に直球がきたものだから、香澄は一瞬息を止めた。
 そしてケホッと咳き込んだあと、慌てて尋ねる。

「い、いいえ。ど、どうしてですか?」

『澪にさんざん言われているのよ。〝怖がらせるな〟って』

 アンネは溜め息混じりに言う。

『前にも言ったかもしれないけど、あなたに悪意を抱いていないわ。佑との結婚も認めたし、可能な限り仲良くできたらと思っている』

「はい、ありがとうございます」

 彼女の歩み寄りに、香澄は笑顔になって頷く。
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