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第十四部・東京日常 編

豚のペンダント

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 ペンダントである。

 恐らく二十四金の、金色のチャームがついたペンダントだ。

 しかしそのチャームが、なかなか珍しい。

 馬蹄――馬の蹄のU字型になっている中に横向きの豚がついている、妙齢の女性に贈るには、何とも言いがたいチョイスのペンダントだ。

「ええと……?」

 これは説明が必要だと思い、香澄は慌ててカードを開いた。

『ドイツでは馬蹄と豚はお守りとされている。豚は神への捧げ物で富と繁栄の象徴だ。馬蹄は古代から力のシンボルとされ、病気や怪我、災いが降りかからないための魔除けになっている。俺が言えた義理ではないが、どうか香澄に幸運がありますように。』

 カードは日本語で書かれていて、彼がこの短期間に日本語を習得した事を察した。
 今マティアスはクラウザー家にいるらしいので、節子に教わったのだろうか。

「なるほど……。……ふ、ふふ……っ、マティアスさんらしいなぁ……」

 マティアスがよく考えてくれたのは分かる。

 しかし若い女性に、豚のアクセサリーを贈る男性はそうそういない。

「面白い。マティアスさんらしい」

 クスクス笑う香澄は、あの夜、タヌキの信楽焼の話をしたのを思いだした。

「……本当は〝こう〟なんだろうな。まじめで実直で。……女性と接して、相手の意に反する事をする人じゃない。……あの時だって言い訳なんてしなかった。最後まで頭を下げて土下座までした。……その上、『殴ってくれ』なんて言って……」

 帝都ホテルでの事を思いだし、香澄は苦笑いする。

「きっと嘘をつけない人なんだろうな。……そこを、利用されたっていうか……」

 そこまで言ってエミリアを思いだし、モヤッとする。
 気持ちを切り替えるために小さく首を横に振り、香澄はもう一度豚のペンダントを見て微笑んだ。

「ありがとうございます。マティアスさん」

 不思議と、年末にマティアスを呼ぶ事に、もう不安を抱いていなかった。
 心はすっかり軽くなり、「もう大丈夫」と言っている。

 それなら善は急げと、香澄はスマホを取りだして時差アプリを確認した。
 日本時間は十五時前で、ドイツではこれから朝の七時になろうとしている。

「大丈夫かな」

 香澄はソファに座ってメッセージを打ち始めた。
 アドラー、節子にお礼の言葉を送ったあと、双子に返信する。

『今日、プレゼントを受け取りました。高価な物をありがとうございます。大切にします。ですがクラウスさんの指輪はつけられません(笑)。ごめんなさい。後で改めて、お手紙でお礼を書きますね』

 一度そう送り、次のメッセージを打つ。

『年末のマティアスさんの事ですが、私は全然構いません。佑さんは渋るかもしれませんが、言い聞かせておくので、スケジュールを組んでください』

 今頃ドイツでは朝食時間かなと思いながら、香澄はマティアスとのトークルームも開く。

『お久しぶりです。今日プレゼントを受け取りました。お気遣いありがとうございます。日本語のカード、マティアスさんが書かれたんですか? とても字が上手でびっくりしました。あれからそれほど経っていないのに、マティアスさんの呑み込みの速さに二度驚きました。そして、素敵な魔除けをありがとうございます。マティアスさんの真心を頂いた気持ちになりました。改めて、お手紙でお礼を書きますね』

 シュポッとメッセージを送り、次を打つ。

『アロイスさんとクラウスさんから、年末について聞きましたか? お二人が来る事を了承してくれているので、マティアスさんが増えてもどうって事はないと思います。あと、私への気遣いも無用です。またお会いできるのを楽しみにしていますね!』

 送信し、「よーし!」と笑顔になった時だった。

 スマホが着信を告げ、液晶にはアンネの名前が表示されている。

「は、はい!」

(ついさっきまで一緒だったのに、まだ何かあったのかな?)

 香澄は焦って電話にでる。

「はい! お待たせしました!」

『もう家に着いたのかしら? 忙しいのに悪いわね』

「いえ、大丈夫です。丁度今、ドイツの皆さんからのプレゼントを開封していたところなんです」

『もともと佑から困るぐらい買い与えられていると思うし、物が増えて困るかもしれないけど、受け取ってあげて』

「はい、ありがたい限りです」

 スピーカーからは澪と陽菜が話しているのが微かに聞こえ、三人がまだ一緒にいるのだと分かった。

















お礼を近況ボードに書かせていただきました!
良ければご覧ください( *´ω`* )
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