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第十四部・東京日常 編

双子からのダイヤ

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 バースデーカードを開くと、エルマーの妻からだ。

『いつもアロクラが迷惑をかけてごめんなさい。またこちらに遊びにきてね』

 笑顔が素敵な金髪の女性を思いだし、香澄はにっこり笑う。

 他のプレゼントも開封していくと、ドイツの高級ブランドらしい物が次々に出てくる。

 アドラーからは時計が贈られ、ドイツと日本の時間が分かるようにセットされていた。

『香澄さんの時間が我々と共にあらんことを』

 カードにそう書かれてあるのを見て、彼の気持ちをありがたく受け取った。

 二箱目の一番下には桐箱があり、その中に着物と帯が入っていた。

「うう……っ、節子さん……っ」

 バースデーカードは恐らく彼女の手描きらしい絵はがきで、『また私の前で着物を着てくださいね』と書かれてあった。

「ド……ドイツ組……愛が重い……。節子さんは、日本に来た時に国内から送ってくださればいいのに……」

 きっちりしている節子の事だから、恐らく日本の職人に連絡をして、画面越しに話し合いながら着物を作ったのでは……と思った。

 はぁ……と溜め息をつき、小さめのプレゼントを手に取った。

「これはー……えーと、クラウスさんか」

 紙袋の中には小さな箱があり、箱を開くとジュエリーケースが出てくる。

「う……。アクセサリーかぁ。お安めの物でありますように……」

 願いを込めてパカリとケースを開くと、中から出て来たのはダイヤモンドが嵌まったプラチナのリングだ。

「は? ……へ?」

 どう見ても、……いや、どう見なくても結婚指輪だ。

 呆然としたまま小さなカードを開くと、そこには『Will you marry me?(僕と結婚してくれますか?)』と書かれてあった。

「いや! いやいやいや……」

 思わずブンブンと首を横に振り、ハッと後ろを振り向く。

 いるはずがないのだが、佑が後ろで物凄い顔をして怒っているような気がしたからだ。

 嵌めるつもりはないが、台座からリングを取り内側を見てみる。

「……よし。刻印はされてない」

 本物ならカップルのイニシャルや愛の言葉が刻印されるが、何も掘られていないところを見ると、いつものタチの悪い冗談だろう。

「あー……。寿命縮まった……」

 ふー、と溜め息で前髪を吹き上げ、次はアロイスからのプレゼントに取り掛かる。

「こっちも……アクセサリーかぁ……」

 せっかくのプレゼントなのに、高価な物だと分かると、申し訳なくて気持ちが沈んでしまう。

 いい加減、高価なプレゼントに慣れないといけないのは分かっている。

 だがどうしても、根付いた庶民根性が「たかが誕生日プレゼントに、こんな高い物はあり得ない」と思ってしまう。

「せいやっ」

 かけ声と一緒にアクセサリーボックスをパコンと開けると、大粒のダイヤモンドが目に飛び込んできた。

「ううっ……」

 こちらはペンダントなので、クラウスのように〝絶対に使えない〟アクセサリーではない。
 だが義理の従兄からプレゼントされるには、いささか石が大きすぎる。

「うっそぉ……何……カラットするんだろう。いや、でもちょっと可愛いかも……」

 アロイスから送られたペンダントは、ピンクダイヤモンドのハートシェイプだ。

「可愛い!」と思ったが、なにせ、他の男に贈られたアクセサリーをつけると、嫉妬で怒り狂う人が約一名いる。

「可愛い……な。でも……うーん」

 悩みながら双子の事を考えた。

 最初の頃は、アロイスとクラウスの区別がほぼついていなかった。
 だが接していくなかで、どちらかというとアロイスのほうが常識人で、クラウスのほうが奔放だと分かってきた。

 今回もクラウスが結婚指輪を贈ってきたのに対し、アロイスのこれは同じダイヤのアクセサリーでも、比較的常識的と言える。

『今までの迷惑料も考えて、可愛い石を選んだよ。気軽につけてね!』

〝迷惑〟だったと自覚していながら、プレゼントで悩ませてくる。
 どこまでいっても双子は双子だ。

「うううーん……。うーん。……ありがとう……ございます……」

 香澄は溜め息混じりにお礼を言い、最後の一つに手を掛けた。

「あ、マティアスさんからだ。なんだろう?」

 紙袋にはマティアスと書かれてあり、中身を取り出すと小さな箱が入っている。

「うーん、覚悟はできた。えいっ」

 パカッと小箱を開き、香澄は「……ん?」と小首をかしげた。
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