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第十四部・東京日常 編

澪の恋バナ

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「香澄さん分かりやす……」

 澪が真顔で呟き、香澄は恥ずかしくなって赤面する。

「佑が言ってた、香澄さんの食いしん坊説は大当たりみたいね」

 香澄はアンネの言葉を聞き逃せず、必死になって尋ねた。

「たっ、佑さん、私の事を食いしん坊だって言ってました!?」

 自覚はあるが、好きな人にそう思われた上、彼の家族にも知られていたなら恥ずかしすぎる。

「何もそんなに焦る事ないじゃない。『食べるのが好きみたいで、見ていると幸せになる』って惚気られたんだから」

「うう……、でも……」

 俯く香澄の腕を、陽菜がトントンと叩いた。
 そしてニッコリ笑って拳を握り、ガッツポーズをする。

「美味しく食べる以上の正義はありません!」

「あっ……、あ、何か、陽菜さんに言ってもらえると安心します……」

「なーに? それじゃあ私とママの言葉じゃ、安心できないみたいじゃない」

「いっ、いえ! そんな訳じゃ……!」

 澪に絡まれて必死に否定した時、三段のアフターヌーンティースタンドが運ばれてきた。

「わぁ、美味しそう」

 陽菜は胸の前で手を合わせて微笑み、香澄は彼女に食いしん坊のエンパシーを感じる。

「香澄さん、せっかくだから開けてみてよ」
「はい」

 澪に言われ、香澄はまず年功序列でアンネのプレゼントから開けた。

「ん?」

 ショッパーはラグジュアリーブランドの物なのだが、中に入っているアクセサリーケースは、どうやら新品の物ではないらしい。

 香澄の反応を見て、アンネがフォローしてくる。

「私がムッティから譲られたジュエリーを、一つあげるわ。新しい物を買ってもいいけれど、昔の物のほうがモノがいいのよ」

「あっ、ありがとうございます……!」

 恐る恐るケースを開けてみると、まろやかなパールのネックレスが入っていた。

「……綺麗……」

 思わず溜め息が漏れ、それから節子が若い頃に〝竹本の真珠〟と呼ばれていた事を思いだした。

「……あの、節子さんが〝竹本の真珠〟と呼ばれていたのって、やっぱりお綺麗だったからですか?」

 尋ねると、ローストビーフが挟まったサンドイッチをプレートにのせ、アンネが答える。

「そうね。美女を形容する宝石は沢山あるけれど、あえて真珠と呼ばれたのは、温厚さと慎ましやかなところ、品の良さだと言われているわ。ムッティが若かった頃、日本の政財界のパーティーのみならず、海外から来たVIPまでもがムッティの美貌と流暢な英語に聞き惚れた。……その中にファッティもいたわね」

 相当凄い人だったのだと知った香澄は、改めてパールのネックレスを見る。

「まぁ、そういう風に呼ばれていたから、贈り物は真珠が多かったわね。悪く言えば『多すぎて使わないから』という理由で、私も妹も何本も譲られたわ。勿論、いい物ばかりだけれどね」

「な、なるほど」

 大切な物を譲られたと思って、心して受け取っていたが、ほんの少し気持ちが楽になる。

「男の悪いところだよねー。意中の女性の好みを知ったら、そればっかりプレゼントするの。佑はそういうヘマしてない?」

「澪さんもそういう心当たりはあるんですか?」

 香澄はアンネに「ありがとうございます。大切にします」と頭を下げ、ネックレスをしまいながら尋ねる。

 そういえば、ずっと澪を「綺麗な人」と思っていたが、当然いると思っていた恋人などの、恋愛話を聞いていなかった。

 しかし澪は難しい顔で、斜め上を見て首を傾げる。

「……いや、あいつは……」

「えっ!? 誰かいるんですか!?」

 渋っている澪の様子を見て、香澄は目を輝かせる。

 他人の恋バナは大好物だ。

 その時、ウエイターがワゴンに紅茶セットをのせてきた。
 きちんと三分計る砂時計まであり、香澄はついそちらに目がいく。

 すると陽菜がニッコリ笑って澪の相手をバラした。

「澪さんは、ハイスペックニューヨーカーに熱烈に迫られているんですよね」

「そうなんですか!?」

「さすが!」と思って彼女を見たが、澪はまだ苦い顔をしている。

「いや……、だから」

 珍しく言葉を濁している彼女を見て、アンネが溜め息をつく。
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