上 下
866 / 1,549
第十四部・東京日常 編

御劔家女性陣集合

しおりを挟む
「い、今は普通盛りで満足できますよ? よく噛むようにしていますし、そうしたら満腹中枢も刺激されますし……」

 言い訳していると、久住が「いや、そうじゃなくて」と言葉を挟む。

「赤松さん、元彼のせいで摂食障害になったんですか?」

「あー……、元彼のせいっていうか、自分の問題だと思います。食べる事に罪悪感を覚えて、ちょっと吐き癖もついていましたが、今は本当に大丈夫です。あ、きましたよ」

 ケロッと言った時、カウンターに丼が置かれた。

「美味しそうですね! お肉たっぷり! いただきます!」

 パンッと胸の前で手を合わせ、香澄はまず煮卵に取り掛かる。
 半分にカットされた煮卵を一つ箸で摘まみ、ポイッと口に入れて「んー」と小声で悶えた。

 そんな香澄を両脇から久住と佐野が窺い、複雑そうな顔をしていたのにも、やはり気づかないのだった。




 その後、プラプラと見るだけショッピングを楽しんだが、どうしても服だけはこれ以上増やせないと思い、あまり見なかった。

 見れば「可愛い」と思うだろうし、欲しくなるかもしれない。

 代わりにハンドメイド作家のイベントが開かれていたので、そこで気に入ったイヤリングを一つ買った。

 ハンドメイドと言っても作りが精巧で、企業のように大量生産していないため、一つでも一万円近くする物もある。

 その代わりに街中で人と被る事は滅多にないので、香澄は既製品よりハンドメイドアクセサリーを好んでいた。



**



 ラーメンを食べたあとに時間を潰し、澪に指定された、皇居を一望できるホテルに向かった。

 といってもザ・エリュシオン東京とは少し離れていて、丸の内にあるホテルだ。

 ロビーは天井が高く、幾つものシャンデリアが下がっている。
 天井から床までの大きな窓からは庭園が見え、そのラウンジカフェで待っているとの事だ。

「いらっしゃいませ」

 スタッフに挨拶され、香澄はやや緊張して会釈する。

「あの、御劔さんと待ち合わせしているのですが」

〝御劔さん〟と言うと、少々不思議な気持ちになる。

 ――と、奥にある席から「あっ、香澄さんきた」と声が聞こえた。

 窓際の席には澪、陽菜、アンネがすでに座っていた。

「香澄さん!」

(うわああああ……!!)

 今日の澪はボリューミーなフリルに、たっぷり膨らんだ袖の白いブラウスに、黒いペンシルスカートを穿いている。
 前髪もすべて上げてキュッとまとめ髪にし、本当にモデルなのではと思う出で立ちだ。

 美女を前にあわわわ……となる香澄を見て、彼女は一瞬変な顔をする。

「何の顔? それ。行こ」

(しかもいい匂い!)

 澪はグルマン系の香水が好きなようで、飲食の場なので強くは香らせていないが、フワッと甘くていい匂いがする。

「香澄さん、こんにちは」

 立ちあがって軽く手を振り、ぺこりと頭を下げた陽菜も可愛い。

 優しい雰囲気の彼女らしく、小花柄のマキシ丈のティアードワンピースに、白いカーディガンを羽織っている。
 髪の毛はふんわり巻いていて、にっこり笑う姿は「可愛い」以外の何者でもない。

「こんにちは!」

 彼女にも挨拶したあと、女王のように君臨し、仁王立ちして腰に手を当てているアンネに深々と頭を下げる。

「お久しぶりです」

「元気そうで何よりだわ」

 アンネは深い色味の赤いニットに、モノトーンの柄物スカートを穿いていて、派手なのに美魔女だからか女優のように存在感があり似合っている。

 例によってメッシュの入ったロングヘアの金髪をまとめ髪にし、周囲からも「あの人素敵ね」という視線を浴びている。

 高級ホテルのラウンジカフェに呼ばれ、香澄も少し身なりに気を遣ってきた。

 袖の外側にスリットが入りレースがあしらわれている黒いトップスに、ラベンダー色のチュールスカートだ。

 黒いトップスに映えるように、佑に買ってもらったゴールドのラリアットネックレス、――フロントでY字に垂れ下がるデザインのネックレスをつけている。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...