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第十四部・東京日常 編

御劔家女子会のお誘い

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『今、東京駅近くにいるのですが、すぐ行ける場所なら伺います!』

 メッセージを打ち返すと、なんとアンネも参戦してきた。

『なら私も行くわ』

「わっ」

 思わず声が出る。

 アンネのアイコンは正面からの自撮りで、アイコンからの圧が強い。

(ひさびさのアンネさん、緊張するなぁ。でも、お土産渡せるから丁度いいかも)

 うんうん、と頷き、香澄は三人に向けて返事を打つ。

『では本日午後、宜しくお願いします! 夕方から予定があるので、あまり長居はできないのですが、久しぶりに皆さんに会いたいです』

『了解!』

 澪から返事があり、残る二人からもポンポンとスタンプが送られてくる。

『場所と時間が決まったら教えてください』

 メッセージは一旦終わりになり、そのタイミングで久住から連絡が入った。

 本日二杯目のカフェオレを飲み干し、香澄はコートを羽織って立ちあがる。
 すると出入り口からスーツにコート姿の久住と佐野がやってきた。

「おはようございます」

「おはようございます。今日は徒歩ですね?」

 香澄の挨拶に、久住が微笑んで返事をする。

「はい。お仕事を増やしてすみません。たまにプラプラしたいと思いまして……」

「いえ、お気にせず。近くにいますと気になると思いますので、数歩離れた所を歩かせて頂きます」

 佐野は相変わらずクールな雰囲気だが、それももう慣れた。

「ありがとうございます」

 いざラウンジカフェを出ようと思い、はた……と支払いを思いだす。

 キョロキョロとしていると、レジ近くにいる男性と目があった。
 香澄が彼を見ながらおずおずと歩くと、「どうなさいましたか? 赤松様」と男性がにこやかに歩み寄ってくる。

「あの、御劔さんからこのホテルの会員カードを受け取っているのですが」

 そう言って長財布からあのカードを出すと、男性が微笑んだ。

「御劔様と赤松様のお顔は、当ホテルのスタッフで把握しております。清算も月に一回必要な分を御劔様に請求させて頂いておりますので、赤松様がお支払いする必要はございません。当ホテルのレストランや喫茶店、施設やサービスをご利用の際も、サインのみ頂けましたらそれで結構でございます」

「わ……分かりました……」

 今になって「本当なんだ」と実感し、香澄は半ば呆然として頭を下げた。

「夜になったら、お友達を連れてホテルで食事やお酒を頂きたいのですが……」

「結構でございます。お部屋も、レストランも、バーも、お好きにご利用ください」

「ど、どうも……。じゃ、じゃあ、行ってきます」

 恐縮しきってぺこりと頭を下げると、「いってらっしゃいませ」と慇懃に礼をされた。

 香澄はチラッと久住と佐野を確認し、会釈をしてから歩き始める。

 ホテルから出ると、丸の内仲通りを東京駅に向かってゆっくり歩く。

 せわしない人通りも人の多さも、電柱や電線、高層ビルも東京という感じがする。
 ビルは見上げるほど高く、ヨーロッパに比べると圧迫感が強い。

 札幌にも街中はビルが建っているが、東京ほど高い建物はそうない。

(懐かしいなぁ)

 ヨーロッパにいると空の広さに感動し、その美しさにずっと浸っていたいと思った。
 けれど日本に戻ると、とても安心している自分がいる。

 海外で外出していると、どうしても緊張してしまい、護衛がいてもバッグを持つ手に力が入っていた。

 双子たちからすれば、「怖い事なんてないよ」らしいが、香澄と彼らでは条件が違う。

 双子はもともとあちらの生まれだし、言葉も数か国語話すのが当たり前に育っている。

 加えて当然ヨーロッパ各国での文化を知っているし、キックボクシングもしていて実力があるので、暴漢に襲われても撃退できるかもしれない。

 いっぽうで香澄は「この国ではこうしないと失礼になる」という知識を、前もって勉強しなければいけない。
 護身術も会得していないし、言葉だって頑張って意識を切り替えてなんとか……という感じだ。

(でも向こうで暮らしている日本人だっているから、要は慣れなんだよね)

 ふむ、と思って信号待ちをしている時、斜め向かいにアルメスを見つけた。

(こうやって見ると、やっぱり特別感のあるお店だなぁ。あそこのバッグを持ってるなんて、いまだにに信じられない……)

 うむむ、となりながらいま何時か腕時計を確認した時、チラチラとこちらを伺っていた男性に声を掛けられた。

「すみません、いま何時でしょうか?」

「え?」

 顔を上げると、サラリーマン風の若い男性が少し緊張した顔で香澄を見ている。

 後ろから久住と佐野が近付いてきて、彼が注意される前に時間を答えてしまおうと思った。
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