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第十四部・東京日常 編

朝食

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「わあ……」

 くるぶしを膝につけるように脚を組むと、スラックスの裾からソックスと、ソックスガーターが見えた。

「……なんか……。セクシーだね」

「ん?」

 香澄の感想を聞き、佑は笑う。
 そして脚を戻し、尋ねてくる。

「満足した?」

「うん、満足した!」

 頷いた香澄は、グレーの変形ワンピース姿だ。

 この部屋を年単位で借りると決めたからなのか、ウォークインクローゼットにはブティックと思えるほどの服が陳列されてあった。

(着替えにも困らないし、何かあったらこのホテルに来ればいいのかな。凄いな……)

 そう思っていた時、部屋のチャイムが鳴った。

「おっと、来たかな」

 佑はベスト姿で出入り口に向かい、誰かに向かって「おはようございます。どうぞ」と招き入れる。
 遅れて香澄も様子を見に行くと、ワゴンにあれこれ美味しそうな物を載せたフロアコンシェルジュと目が合った。

「おはようございます、赤松様。朝食の準備ができました」

「おはようございます。食べるならダイニングに運んでいただいたら……、あっ!」

 不意に、あの高級メロンショートケーキを放ったらかしにしてしまった事を思い出し、大きな声を上げる。

 香澄は慌ててダイニングに飛び込んだが、「あれ?」と目を瞬かせた。

「ケーキなら、昨晩のうちに冷蔵庫に入れておいたよ」

「あ、なんだぁ……。びっくりした。ありがとう」

 取り分けて食べた皿などもなく、テーブルの上は綺麗だ。
 スイートルームにはキッチンもあるので、恐らく佑が皿洗いをしてくれたに違いない。

(私が気絶しちゃったあとかな……。申し訳ない)

 それはそうと、コンシェルジュの前で「昨日香澄が気絶したあと」と言わなかったのはありがたい。

 彼の事を「デリカシーのない人」とは思っていないが、二人きりの時はわざといやらしい事を言ってくるので、一瞬ヒヤッとした。

 とはいえ、〝御劔佑〟がそんな失態を犯すはずがない。

 香澄は長い間佑とプライベートで過ごしていたので、社長としての彼がどう振る舞っているか失念していた気がする。

(これが現場から離れていた弊害かな……)

 そう思いつつダイニングの椅子に座り、目の前に美味しそうな和食が並ぶのを見る。

 佑の前には小さな土鍋が置かれ、蓋を開けるとツヤツヤとした白米が現れた。

 香澄の前に置かれた小さな土鍋には、白いお粥が入っている。
 勿論、薬味は色んな味が小分けになって置かれていて、何味で食べるかワクワクする。

 その他にも焼き魚に出汁巻き玉子、蓋付きの小鉢に京風の煮物、香の物がある。
 デザートはフレッシュフルーツで、シャインマスカットとカットされたラ・フランスが入っていた。

 コンシェルジュはすべてテーブルに並べたあと、「何かお入り用でしたらいつでもお声掛けください」と言って退室していった。

「いただきます」

「いただきます」

 胸の前で手を合わせ、香澄はまずしじみの味噌汁を一口飲む。

「んー、お出汁がきいてる」

 にっこり笑ったあと、香澄はレンゲでお粥をすくって口に入れる。

「んん……」

 薬味も沢山あるが、シンプルな白粥の味が好きだ。

「今ってお仕事どんな感じ?」

「現場では冬物やコート類はもう出てる。あとは冬物プレセールに向けて全店舗で動いている。あとは本社で、次年度の春夏展示会に向けてチームが動いてる。そろそろ、異動も考えているかな」

「あー……」

 アパレル業界では二月と八月に異動が多く、そのたびに佑は人事部と顔をつきあわせて色々と会議をしている。

 どうしても女性が多い職種なので、産休や家庭の事情で誰かが退職、休職になった場合、別店舗の者がその穴を埋めるために異動する。
 その穴を埋めるためにさらに他店から異動……という連鎖が一年中ある。

 店舗での求人を常にしていても、店長や長年働いているベテラン店員ほどの即戦力がすぐ手に入る訳ではない。

 時に本社の社員が別の会社に引き抜かれる事もあるので、佑はより良い労働条件にするために常に考えている。
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