859 / 1,544
第十四部・東京日常 編
朝食
しおりを挟む
「わあ……」
くるぶしを膝につけるように脚を組むと、スラックスの裾からソックスと、ソックスガーターが見えた。
「……なんか……。セクシーだね」
「ん?」
香澄の感想を聞き、佑は笑う。
そして脚を戻し、尋ねてくる。
「満足した?」
「うん、満足した!」
頷いた香澄は、グレーの変形ワンピース姿だ。
この部屋を年単位で借りると決めたからなのか、ウォークインクローゼットにはブティックと思えるほどの服が陳列されてあった。
(着替えにも困らないし、何かあったらこのホテルに来ればいいのかな。凄いな……)
そう思っていた時、部屋のチャイムが鳴った。
「おっと、来たかな」
佑はベスト姿で出入り口に向かい、誰かに向かって「おはようございます。どうぞ」と招き入れる。
遅れて香澄も様子を見に行くと、ワゴンにあれこれ美味しそうな物を載せたフロアコンシェルジュと目が合った。
「おはようございます、赤松様。朝食の準備ができました」
「おはようございます。食べるならダイニングに運んでいただいたら……、あっ!」
不意に、あの高級メロンショートケーキを放ったらかしにしてしまった事を思い出し、大きな声を上げる。
香澄は慌ててダイニングに飛び込んだが、「あれ?」と目を瞬かせた。
「ケーキなら、昨晩のうちに冷蔵庫に入れておいたよ」
「あ、なんだぁ……。びっくりした。ありがとう」
取り分けて食べた皿などもなく、テーブルの上は綺麗だ。
スイートルームにはキッチンもあるので、恐らく佑が皿洗いをしてくれたに違いない。
(私が気絶しちゃったあとかな……。申し訳ない)
それはそうと、コンシェルジュの前で「昨日香澄が気絶したあと」と言わなかったのはありがたい。
彼の事を「デリカシーのない人」とは思っていないが、二人きりの時はわざといやらしい事を言ってくるので、一瞬ヒヤッとした。
とはいえ、〝御劔佑〟がそんな失態を犯すはずがない。
香澄は長い間佑とプライベートで過ごしていたので、社長としての彼がどう振る舞っているか失念していた気がする。
(これが現場から離れていた弊害かな……)
そう思いつつダイニングの椅子に座り、目の前に美味しそうな和食が並ぶのを見る。
佑の前には小さな土鍋が置かれ、蓋を開けるとツヤツヤとした白米が現れた。
香澄の前に置かれた小さな土鍋には、白いお粥が入っている。
勿論、薬味は色んな味が小分けになって置かれていて、何味で食べるかワクワクする。
その他にも焼き魚に出汁巻き玉子、蓋付きの小鉢に京風の煮物、香の物がある。
デザートはフレッシュフルーツで、シャインマスカットとカットされたラ・フランスが入っていた。
コンシェルジュはすべてテーブルに並べたあと、「何かお入り用でしたらいつでもお声掛けください」と言って退室していった。
「いただきます」
「いただきます」
胸の前で手を合わせ、香澄はまずしじみの味噌汁を一口飲む。
「んー、お出汁がきいてる」
にっこり笑ったあと、香澄はレンゲでお粥をすくって口に入れる。
「んん……」
薬味も沢山あるが、シンプルな白粥の味が好きだ。
「今ってお仕事どんな感じ?」
「現場では冬物やコート類はもう出てる。あとは冬物プレセールに向けて全店舗で動いている。あとは本社で、次年度の春夏展示会に向けてチームが動いてる。そろそろ、異動も考えているかな」
「あー……」
アパレル業界では二月と八月に異動が多く、そのたびに佑は人事部と顔をつきあわせて色々と会議をしている。
どうしても女性が多い職種なので、産休や家庭の事情で誰かが退職、休職になった場合、別店舗の者がその穴を埋めるために異動する。
その穴を埋めるためにさらに他店から異動……という連鎖が一年中ある。
店舗での求人を常にしていても、店長や長年働いているベテラン店員ほどの即戦力がすぐ手に入る訳ではない。
時に本社の社員が別の会社に引き抜かれる事もあるので、佑はより良い労働条件にするために常に考えている。
くるぶしを膝につけるように脚を組むと、スラックスの裾からソックスと、ソックスガーターが見えた。
「……なんか……。セクシーだね」
「ん?」
香澄の感想を聞き、佑は笑う。
そして脚を戻し、尋ねてくる。
「満足した?」
「うん、満足した!」
頷いた香澄は、グレーの変形ワンピース姿だ。
この部屋を年単位で借りると決めたからなのか、ウォークインクローゼットにはブティックと思えるほどの服が陳列されてあった。
(着替えにも困らないし、何かあったらこのホテルに来ればいいのかな。凄いな……)
そう思っていた時、部屋のチャイムが鳴った。
「おっと、来たかな」
佑はベスト姿で出入り口に向かい、誰かに向かって「おはようございます。どうぞ」と招き入れる。
遅れて香澄も様子を見に行くと、ワゴンにあれこれ美味しそうな物を載せたフロアコンシェルジュと目が合った。
「おはようございます、赤松様。朝食の準備ができました」
「おはようございます。食べるならダイニングに運んでいただいたら……、あっ!」
不意に、あの高級メロンショートケーキを放ったらかしにしてしまった事を思い出し、大きな声を上げる。
香澄は慌ててダイニングに飛び込んだが、「あれ?」と目を瞬かせた。
「ケーキなら、昨晩のうちに冷蔵庫に入れておいたよ」
「あ、なんだぁ……。びっくりした。ありがとう」
取り分けて食べた皿などもなく、テーブルの上は綺麗だ。
スイートルームにはキッチンもあるので、恐らく佑が皿洗いをしてくれたに違いない。
(私が気絶しちゃったあとかな……。申し訳ない)
それはそうと、コンシェルジュの前で「昨日香澄が気絶したあと」と言わなかったのはありがたい。
彼の事を「デリカシーのない人」とは思っていないが、二人きりの時はわざといやらしい事を言ってくるので、一瞬ヒヤッとした。
とはいえ、〝御劔佑〟がそんな失態を犯すはずがない。
香澄は長い間佑とプライベートで過ごしていたので、社長としての彼がどう振る舞っているか失念していた気がする。
(これが現場から離れていた弊害かな……)
そう思いつつダイニングの椅子に座り、目の前に美味しそうな和食が並ぶのを見る。
佑の前には小さな土鍋が置かれ、蓋を開けるとツヤツヤとした白米が現れた。
香澄の前に置かれた小さな土鍋には、白いお粥が入っている。
勿論、薬味は色んな味が小分けになって置かれていて、何味で食べるかワクワクする。
その他にも焼き魚に出汁巻き玉子、蓋付きの小鉢に京風の煮物、香の物がある。
デザートはフレッシュフルーツで、シャインマスカットとカットされたラ・フランスが入っていた。
コンシェルジュはすべてテーブルに並べたあと、「何かお入り用でしたらいつでもお声掛けください」と言って退室していった。
「いただきます」
「いただきます」
胸の前で手を合わせ、香澄はまずしじみの味噌汁を一口飲む。
「んー、お出汁がきいてる」
にっこり笑ったあと、香澄はレンゲでお粥をすくって口に入れる。
「んん……」
薬味も沢山あるが、シンプルな白粥の味が好きだ。
「今ってお仕事どんな感じ?」
「現場では冬物やコート類はもう出てる。あとは冬物プレセールに向けて全店舗で動いている。あとは本社で、次年度の春夏展示会に向けてチームが動いてる。そろそろ、異動も考えているかな」
「あー……」
アパレル業界では二月と八月に異動が多く、そのたびに佑は人事部と顔をつきあわせて色々と会議をしている。
どうしても女性が多い職種なので、産休や家庭の事情で誰かが退職、休職になった場合、別店舗の者がその穴を埋めるために異動する。
その穴を埋めるためにさらに他店から異動……という連鎖が一年中ある。
店舗での求人を常にしていても、店長や長年働いているベテラン店員ほどの即戦力がすぐ手に入る訳ではない。
時に本社の社員が別の会社に引き抜かれる事もあるので、佑はより良い労働条件にするために常に考えている。
32
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる