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第十四部・東京日常 編

Happy birthday to you ☆

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「どういたしまして。でも、あとになってから『足りなかった』って反省したんだ」

「あのね、普通の女性は、本物の宝石がついたアクセサリーを一つもらうだけで、とっても幸せな気持ちになるんだよ。……ん」

 コリ、と乳首をこよられ、香澄は少し鼻に掛かった声を漏らす。

「佑さんって私よりロマンチストだよね」

「そうか?」

 佑は香澄のバスローブの紐を解き、なだらかなお腹を撫でる。

「ん……っ」

「最近、俺は香澄を幸せにするために生まれてきた……って思ってるよ」

「ほら、やっぱりロマンチスト」

 クスクス笑った香澄は、起き上がって佑に向き直り、両手で彼の頬を包んでちゅっとキスをする。

「私は佑さんが幸せだと、幸せだよ」

 香澄は彼を見つめたまま、スリ……と佑の太腿を撫でる。
 佑は彼女の意図を察し、幸せそうに、そして少し照れくさそうに微笑む。

「俺は香澄が好きすぎて、どうかなりそうだ」

 佑は少しかすれた声で呟き、香澄を抱き寄せると顔を傾けてキスをした。

「ん……」

 二人の間で柔らかな唇が潰れ、ちゅ、ちゅ……とついばみ合う音がたつ。
 どちらからともなくチロリと舌を触れ合わせ、互いの舌先を舐める。

 佑は両手で香澄の胸を包み、掌でたっぷりとした肉質を楽しんだ。

「ん……、ン……」

 舌を絡ませるうちに、頭がジン……と痺れて佑の事しか考えられなくなる。

「あぁ……、ん……、ン……」

 口元からクチュクチュと水音が立ち、その音に興奮した香澄は、熱くなった体を佑に押しつけた。

 佑も香澄の下腹部に、手を滑らせようとした時――。

「……あ」

「え?」

 佑が何かに気付いて声を上げ、キスが止まる。
 そしてフーッと長く息を吐き、己を律するように小さく首を左右に振った。

「ちょっと……来て。理性がなくなる前に」

 そう言って佑は香澄を抱き上げ、リビングに隣接しているダイニングに向かった。

「わ……」

 長いダイニングテーブルの上にガラスドームがあり、その中にはメロンのショートケーキが入っている。
 勿論ホールケーキで、おまけに香澄が知っている普通のケーキより、随分高さがある。

「ホテルに戻る前に連絡をして、冷蔵庫から出してもらったばかりから安心して」

「凄い。生クリームの……ショートケーキでしょ? 苺じゃなくてメロン? すごぉ……」

「あえて苺じゃなくてメロンにしてみたいんだけど。どう……だ?」

 不安そうに尋ねられたが、そんな表情をされる理由が分からない。
 興奮した香澄はコクコクと何度も頷き、喜びを表す。

「うそ……! 好き! 嬉しい!」

「いま食べるか?」

「うん!」

「じゃあ、その前に儀式をしないとな」

「儀式?」

 香澄が目を瞬かせると、佑はケーキの横にあった細い蝋燭をプスプスとケーキに挿していく。

「んふふ、二十八本挿すとハリネズミみたい」

 佑が蝋燭に火を付け、香澄は揺らめく火に目を細める。

「Happy birthday to you,Happy birthday to you,Happy birthday, dear Kasumi,Happy birthday to you.」

 思わず聞き惚れてしまいそうな歌声で、佑がバースデーソングを歌ってくれる。

(贅沢だなぁ……。有名アーティストのディナーショーより贅沢だ)

 そんな事を思いながら、香澄は彼の歌のうまさにポーッとする。

「おめでとう、香澄」

 パチパチと拍手をされ、香澄はハッと我に返った。

「香澄、願い事をしながら火を消して」

「うん」

 すっかり佑の歌声に魅了されていた香澄は、慌ててケーキを見る。

 そしてパンッと胸の前で合掌すると、目を閉じて強く祈った。

(一生、ずっと、佑さんと一緒に、幸せで仲良く過ごせますように!)

 願い事は迷わなかった。

 今の香澄の願いはそれだけだ。

 もう少し広い視野での願いなら、家族や友達の健康や幸せ、仕事がうまくいくように……などもあっただろう。

 けれど神社ではないし、今愛しい人が全力で祝ってくれたこの時だけは、願いを佑との事に全振りしたかった。

 香澄はスゥッと息を吸い、思いきりふぅぅーっと吐く。

 最後の一本の火が消えたところで、また佑が拍手をしてくれた。

「香澄の願いが叶いますように」

 愛情に溢れた表情で幸せを祈られ、香澄は嬉しくて堪らず笑み崩れる

 いつもいつも、自分の幸せは佑と一緒にある。
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