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第十四部・東京日常 編
今日こそちゃんと祝いたい
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「んっ……」
相変わらず香澄は耳が弱い。
佑も耳が弱いと分かっていてこうするので、性格が悪い。
「そ、そろそろ逆上せてきたから……。続きはベッドで……、ね?」
こうやって逃げながら誘うと、佑は引いてくれると学んでいる。
「……仕方ないな」
佑はザバッと水音を立てて立ち、遅れて香澄もバスタブから出る。
「逆上せてないか?」
とっさに佑が背中を支えてくれ、何気ない気遣いが嬉しい。
「うん、大丈夫。ありがとう」
お礼を言った香澄は、両手で胸元を隠しながら先にバスルームを出た。
フェイスケアをしている間、いつものように佑がボディケアをしてくれる。
勿論、使っているボディ用化粧水も、ボディクリームも〝いつもの〟物だ。
「ホテルにまでジョン・アルクールを置いてるの?」
「ああ、いつでも部屋を利用しても、お気に入りの香りを使えるよ」
「贅沢だなぁ……。っていうか、いつも部屋をキープしていて大丈夫なの? ホテルとしては、使わない時は他の人用に貸し出したほうがいいんじゃないの?」
疑問に思っていた事を尋ねると、佑はなんでもないように言う。
「ラグジュアリーホテルって、満室にはならないようになっているんだ。俺が使っているカード、あるだろ?」
「うん。黒い、選ばれし者のみが持つ……」
見るも恐ろしい黒いカードを思いだし、香澄はコクリと頷く。
「最高ランクの会員だと、例えば出張中に台風に遭って、どうしても予定外の場所で宿泊したいという時に、その土地の最高ランクのホテルの部屋を融通してもらえるんだ」
「へー! なるほど!」
富裕層が持つカード会員の事情など知らないので、香澄はワントーン高い声を上げて納得する。
「一応、俺にはカード会社の専用コンシェルジュがついている。たとえば『一週間後にハワイに行きたいんですが、飛行機やホテルを手配してくれませんか?』って言えば、その通りにしてくれるんだ」
「ほええ……」
「少し脱線したけど、そういう風にイレギュラーの用事が入る事もあるから、ラグジュアリーホテルや、類似の施設はある程度〝余白〟があるんだ」
「なるほどねぇ……」
仕上げに保湿クリームを塗りながら、香澄は感心して頷く。
「……そんなホテルを自由に使うのは気が引けるけど、使わないと無駄金になっちゃうし、いつか麻衣と女子会してもいい?」
「勿論、いつでも使って。しかし香澄は麻衣さんが大好きだな。少し妬けてしまう」
「そう? んふふ。佑さん可愛い」
フェイスケアとボディケアが終わると、香澄はバスローブを羽織る。
籐でできた椅子に座ると、佑がドライヤーで髪を乾かしてくれた。
「いつもありがとう。お姫様みたい」
「どういたしまして。好きな女性のお世話をするのは、恋人の特権だと思っているよ」
サラッとそう言う佑は、やはりスパダリだ。
「ん、んんっ」
照れた香澄は咳払いし、鏡越し佑と目が合ったのでパッと目を逸らした。
佑はそんな彼女を見て微笑んでいたが、香澄は赤面して俯いたままだった。
ホコホコした二人は洗面所を出て、リビングで水を飲む。
並んでソファに座っていると、香澄の手に佑が手を重ねてきた。
香澄も指を佑の手に絡め、彼の気持ちに応じる。
カーテンは開いたままで、窓の外に摩天楼が一望できる。
(本当に夢みたい……)
いまだ感覚が札幌っ子の香澄は、自分が東京で生活していて、御劔佑の婚約者だという事実を何度も疑ってしまう。
ベタな手段だが、現実か確かめるために、空いている手でこっそりと自分の頬をつねってみた。
(……痛い……)
「何してるんだ?」
「へ?」
ギクッとして佑を見ると、彼は香澄の手を見て不可解そうな顔をしている。
「隠れてやっていたんだろうけど、ガラスに映ってたから」
「んん!」
香澄は変な声をだし、頬をつねっていた手をお尻の下に隠す。
「こら、隠すんじゃない」
ニヤッと笑った佑は香澄を抱き締め、そのまま自分の胸板にもたれさせて、ソファに横向きに座る。
「んふふ……。動けない……」
クスクス笑っていると、佑はバスローブの合わせから手を入れてきた。
「んぅ……」
「あったかい」
むに、むにと乳房を揉む佑は嬉しそうだ。
「香澄」
「ん?」
真上を向くように首を動かすと、佑の優しい目と視線が交わる。
「何か欲しいものはない? 足りないものは?」
「んっ……ふふふ……。ないよ。本当に何もないの。佑さんがいてくれたらそれでいい。沢山もらいすぎたよ」
「でも、今回は俺がきちんと祝える、第一回目の誕生日なんだ。何でも叶えたい」
佑の言葉を聞き、納得した。
「そっか。去年は出会った当日だったし、まだ今ほどイチャラブじゃなかったもんね。でも、トパーズのペンダント嬉しかったよ。ありがとう」
ようやく、佑がこんなに祝いたがっている理由を理解した。
けれど去年だって初対面なのにジュエリーをもらっていたので、十分に凄いお祝いをしてもらった。
あの時は「初対面なのに宝石くれるの!?」と驚いたが、当たり前の感覚だと思っている。
相変わらず香澄は耳が弱い。
佑も耳が弱いと分かっていてこうするので、性格が悪い。
「そ、そろそろ逆上せてきたから……。続きはベッドで……、ね?」
こうやって逃げながら誘うと、佑は引いてくれると学んでいる。
「……仕方ないな」
佑はザバッと水音を立てて立ち、遅れて香澄もバスタブから出る。
「逆上せてないか?」
とっさに佑が背中を支えてくれ、何気ない気遣いが嬉しい。
「うん、大丈夫。ありがとう」
お礼を言った香澄は、両手で胸元を隠しながら先にバスルームを出た。
フェイスケアをしている間、いつものように佑がボディケアをしてくれる。
勿論、使っているボディ用化粧水も、ボディクリームも〝いつもの〟物だ。
「ホテルにまでジョン・アルクールを置いてるの?」
「ああ、いつでも部屋を利用しても、お気に入りの香りを使えるよ」
「贅沢だなぁ……。っていうか、いつも部屋をキープしていて大丈夫なの? ホテルとしては、使わない時は他の人用に貸し出したほうがいいんじゃないの?」
疑問に思っていた事を尋ねると、佑はなんでもないように言う。
「ラグジュアリーホテルって、満室にはならないようになっているんだ。俺が使っているカード、あるだろ?」
「うん。黒い、選ばれし者のみが持つ……」
見るも恐ろしい黒いカードを思いだし、香澄はコクリと頷く。
「最高ランクの会員だと、例えば出張中に台風に遭って、どうしても予定外の場所で宿泊したいという時に、その土地の最高ランクのホテルの部屋を融通してもらえるんだ」
「へー! なるほど!」
富裕層が持つカード会員の事情など知らないので、香澄はワントーン高い声を上げて納得する。
「一応、俺にはカード会社の専用コンシェルジュがついている。たとえば『一週間後にハワイに行きたいんですが、飛行機やホテルを手配してくれませんか?』って言えば、その通りにしてくれるんだ」
「ほええ……」
「少し脱線したけど、そういう風にイレギュラーの用事が入る事もあるから、ラグジュアリーホテルや、類似の施設はある程度〝余白〟があるんだ」
「なるほどねぇ……」
仕上げに保湿クリームを塗りながら、香澄は感心して頷く。
「……そんなホテルを自由に使うのは気が引けるけど、使わないと無駄金になっちゃうし、いつか麻衣と女子会してもいい?」
「勿論、いつでも使って。しかし香澄は麻衣さんが大好きだな。少し妬けてしまう」
「そう? んふふ。佑さん可愛い」
フェイスケアとボディケアが終わると、香澄はバスローブを羽織る。
籐でできた椅子に座ると、佑がドライヤーで髪を乾かしてくれた。
「いつもありがとう。お姫様みたい」
「どういたしまして。好きな女性のお世話をするのは、恋人の特権だと思っているよ」
サラッとそう言う佑は、やはりスパダリだ。
「ん、んんっ」
照れた香澄は咳払いし、鏡越し佑と目が合ったのでパッと目を逸らした。
佑はそんな彼女を見て微笑んでいたが、香澄は赤面して俯いたままだった。
ホコホコした二人は洗面所を出て、リビングで水を飲む。
並んでソファに座っていると、香澄の手に佑が手を重ねてきた。
香澄も指を佑の手に絡め、彼の気持ちに応じる。
カーテンは開いたままで、窓の外に摩天楼が一望できる。
(本当に夢みたい……)
いまだ感覚が札幌っ子の香澄は、自分が東京で生活していて、御劔佑の婚約者だという事実を何度も疑ってしまう。
ベタな手段だが、現実か確かめるために、空いている手でこっそりと自分の頬をつねってみた。
(……痛い……)
「何してるんだ?」
「へ?」
ギクッとして佑を見ると、彼は香澄の手を見て不可解そうな顔をしている。
「隠れてやっていたんだろうけど、ガラスに映ってたから」
「んん!」
香澄は変な声をだし、頬をつねっていた手をお尻の下に隠す。
「こら、隠すんじゃない」
ニヤッと笑った佑は香澄を抱き締め、そのまま自分の胸板にもたれさせて、ソファに横向きに座る。
「んふふ……。動けない……」
クスクス笑っていると、佑はバスローブの合わせから手を入れてきた。
「んぅ……」
「あったかい」
むに、むにと乳房を揉む佑は嬉しそうだ。
「香澄」
「ん?」
真上を向くように首を動かすと、佑の優しい目と視線が交わる。
「何か欲しいものはない? 足りないものは?」
「んっ……ふふふ……。ないよ。本当に何もないの。佑さんがいてくれたらそれでいい。沢山もらいすぎたよ」
「でも、今回は俺がきちんと祝える、第一回目の誕生日なんだ。何でも叶えたい」
佑の言葉を聞き、納得した。
「そっか。去年は出会った当日だったし、まだ今ほどイチャラブじゃなかったもんね。でも、トパーズのペンダント嬉しかったよ。ありがとう」
ようやく、佑がこんなに祝いたがっている理由を理解した。
けれど去年だって初対面なのにジュエリーをもらっていたので、十分に凄いお祝いをしてもらった。
あの時は「初対面なのに宝石くれるの!?」と驚いたが、当たり前の感覚だと思っている。
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