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第十四部・東京日常 編

第十四部・序章 寿司デート3

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「えっ!? ……えっ?」

 何がおかしかったのか分からない香澄は、水を飲んでから目を瞬かせる。
 木場を見ると、彼も横を向いて笑いを噛み殺していた。

「いや、実に美味しそうに食べるなと思って。ご馳走のしがいがあるよ」

 どうやら食べっぷりが良すぎたらしく、香澄は赤面していく。

「ご、ごめんなさい。美味しくてつい……」

「いや、本当にいいものを見せてもらった」

 恥ずかしいけれど、美味しかったのは本当なので、その感情を変に隠すのは変だ。

(美味しかったんだから胸を張っておこう)

 自分に言い聞かせた香澄は、気持ちを落ち着かせるためにいちご煮の続きに取りかかる。

 今まで食べ物の話しかしていなかったので、食事もそろそろ終盤だし何か話題を……と思い、先ほど出てきた名前を口にする。

「さっき木場さんが仰った、針山さんって?」

 以前にチラッと聞いた気がするのだが、もう一度確認しておく。

「ああ、俺の友人だ。化粧品会社の『美人堂』って知っているだろう?」

「うん! 知ってるも何も……」

 世界進出している国内最大級の化粧品メーカーで、その中にある高級ラインは香澄も愛用している。
 加えて『美人堂』は澪の職場だ。

「そこの社長だ。先日、奥さんが無事に出産したみたいで、一安心してると思う。ほら」

 そう言って佑はスマホを取りだし、写真を見せてくれた。

「わあ、赤ちゃん」

 画像にはこれぞ美女! というくっきりした顔立ちの女性と、新生児が一緒に写っている。

「針山出雲って言うんだけど、腐れ縁でしょっちゅう飲みに行ったりしているから、そのうち香澄にも会わせる。奥さんは美鈴さんって言って、香澄より二つぐらい年上かな? 姉御肌な人で、サバサバしていて付き合いやすいし、澪も懐いてる。香澄の事もきっと可愛がってくれると思うから、落ち着いたらそのうち会いに行こう」

「うん、そのうち」

 香澄はなおもスマホ画面を覗き込み、「赤ちゃん可愛い……」と無意識に呟く。

 その様子を佑が何とも言えない表情で見ていたのを、彼女は知らない。
「なら今すぐ俺と子作りする?」と言いたいのを、外にいるのでグッと我慢している顔だ。

 食事を終えたあと、デザートが出された。

 キンキンに冷やされた銀色の器に、綺麗に搾られたソフトクリームとトッピングの栗の甘露煮がのっていた。
 ソフトクリームの底にはわらび餅が入っているそうだ。

「美味しそう! いただきます!」

 スプーンでソフトクリームと柿をすくって口にいれ、濃厚なミルク味と栗の相性に頬を緩める。

 しっかり味わったつもりでも、美味しい物はすぐなくなってしまう。

「はぁ……。おなかいっぱい……」

 香澄は満ち足りた表情でスプーンを置き、胸の前で両手を合わせる。

 最後に氷が溶けて、少し薄まった梅酒ソーダをコクコクと飲み、はぁ……っと息をついた。

「満足したか?」
「これ以上なく!」

 頷いた香澄の頭を、佑がよしよしと撫でてくる。

「香澄が美味しく食べてくれたなら、俺は最高に嬉しい」

 それから木場に料理の感想などを話し、落ち着いてから店を出る事にした。

 佑が黒いカードで支払いをし、木場に「ごちそうさまでした」を言って、店の者が開けてくれた戸をくぐる。

「幸せ……」

 エレベーターで地上に着く頃には、ビルの前に車が横付けされていた。

 周囲の人が佑に注目したが、何か言われる前にサッと車の後部座席に乗る。

 ほんのりアルコールの入った香澄は、車窓から銀座の街並みを何とはなしに見る。

 シートの上に何気なく置いていた手に、佑の手が重なった。
 佑の親指がスリ、スリと香澄の手の甲を撫で、他の指が指の輪郭や内側を器用にたどる。

「ん……」

 くすぐったいとも何ともつかない感覚に、香澄は指を動かし少しだけ抵抗した。

 けれど佑は手を離してくれず、ずっと触れるか触れないかのタッチで香澄の指の内側を刺激してくる。

 手の甲側や掌側ならいつも何かしらの感覚があるので、多少は我慢できる。

 だが指の間や指の股を弄られると、くすぐったさと気持ちよさの中間の、なんとも言えないムズムズが沸き起こった。

 結果的にその掻痒感は体の深部にまで到達し、何とも言えないフラストレーションが溜まっていく。
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