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第十三部・イタリア 編

第十三部・終章 年末の予定に向けて

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 時間を確認すると、まだ十七時半ぐらいだ。

 佑との待ち合わせは十八時なので、コーヒーを頼む事にした。
 スマホを取り出すと、佑にメッセージを打つ。

『ホテルにつきました。一階のラウンジカフェンでコーヒーを飲んでいます。着いたら連絡してください』

 送信してから麻衣とのトークルームを開くと、彼女から返事が入っていた。

『年末、飛行機が取れるなら行きたいな。でも本当に御劔社長のお宅にお邪魔してもいいの? 香澄と二人きりじゃなくていいの? 年末だよ? 社長の従兄弟さんも来るんでしょ? 私、場違いじゃない?』

 麻衣がそう思うのも仕方がないなと思いつつ、香澄は微笑みながら返事を打つ。

『佑さんも麻衣に会いたがっているよ。佑さんの家は空いている部屋が多いから気にしないで。あと麻衣がいるのにイチャイチャしないから、それも安心して(笑)。佑さんの従兄さんのアロイスさんとクラウスさんは、とってもフレンドリーな人だから、気を遣わなくていいよ。むしろズケズケと言っていいほどオブラートに包まない人だから、別の心配があるかも(笑)』

 ポン、と送信すると、麻衣もちょうどスマホを見ていたのかすぐに既読がついた。

『誕生日おめでとう! 今日着くようにプレゼントを送ったんだけど、着いてるかな? 夜ならいると思って、十八時以降に指定したんだけど』

「ありゃー」

 思わず香澄は呟いて、小さく舌を出す。

『ごめんね。今日は佑さんとデートで、いま外にいるの。プレゼント見られるの、明日になるかも。ごめん! でもありがとう! 心して受け取るね!』

『わかった! いいよー、気にすんな! 御劔さんとたっぷりイチャイチャしておいで。で、年末の件、私は諸々気にしないけど、御劔さんや従兄弟さんに確認しておいてくれる? 一応飛行機は手配しておくけど』
『ありがとう! 大丈夫だと思うけど、一応訊いておくね。チケットは年末だから早めのほうがいいと思う。後でまた連絡するね』

 そうメッセージを打ったあと、香澄はキャラクターが力こぶを作っているスタンプを送る。

 麻衣からもスタンプが送られてきたのを確認して、香澄は他のトークルームを開く。

 両親からも誕生日を祝うメッセージが入っていて、他にも友人やクラウザー家関連の人、札幌時代の仕事関係の人、Chief Everyの三人組などから、誕生日を祝うメッセージが入っていた。

 一つ一つに返事をしてスタンプを送ったあと、香澄は双子とのグループトークルームを開く。

『こんばんは。東京は十八時前です。年末にこちらに来ると言っていましたが、その後スケジュールの目処は立ちましたか? 年末に札幌住まいの私の親友にも、東京に遊びにきてもらおうと思っています。佑さんのお家で全員で年越しパーティーをするのはどうでしょうか? ちなみに私の親友なので、手を出したら駄目ですよ!』

 メッセージを送ってからドイツとの時差を確認すると、あちらは午前中の十一時前だ。
 仕事中だろうからすぐには返事がこないと思い、スマホを閉じるとカフェオレを飲む。

「ん……、おいし」

 高級なだけあって、コーヒー豆の香りもする上にミルクとの割合が絶妙で、毎日でも飲みたいぐらいだ。

 そう言えば……と思ってバッグから財布を取り出し、このホテルで使えるらしい万能カードを出してみる。

「んー……」

 黒いカードはクレジット機能もある、特別な会員カードらしい。
 カード名義は佑になっていて、「自由に使っていい」という事はこういう事だ。

「むー……」

 香澄はうなる。

(使えば佑さんに無駄金を使わせてしまう。でも使わないと、お高い会費を払ってるのに無駄にさせちゃう。ホテルの部屋は人を泊めてはじめて商売として成り立つ。それなのに、使わなかったら人を泊めないままになる。元を取らないと……。いや、その前にどうやって佑さんに無駄金を使わせず、喜んでもらうか……)

 グルグル考えていた時、ロビーのほうがざわついているのに気が付いた。

(……着いたかな?)

 出入り口のほうを見ると、佑がスタッフと話しているのが見えた。

 彼はカフェ内の視線を浴びている。
 客の中には熱烈なファンなのか、感動のあまり両手で口元を覆っている女性もいた。

(あいかわらず凄い人気だなぁ……)

 気が引けるが、香澄は立ち上がって佑に手を振る。
 香澄に気が付いた佑は、パッと表情を明るくしてこちらにやってきた。

「待ったか?」

「ううん、コーヒー頼んでスマホ弄ってたらすぐ。ちょっと待ってて、コーヒー飲んじゃう」

「慌てなくていいよ」

 佑はマフラーを外して席に座ると、コクコクとカフェオレを飲む香澄を、微笑んで見ている。

「ん?」

 どうかした? と視線を送ると、佑はこの上なく幸せそうに笑う。

「いや、可愛いと思って」

 いつもの答えに、香澄は生ぬるい笑みを浮かべる。
 と、プレゼントの数々を思いだし、まずはお礼を言う事にした。

「あの、〝宝探し〟したんだけど……沢山ありがとう」

「どういたしまして」

 色々言いたい事があったのに、佑の顔を見ると感謝が湧いて、素直に「ありがとう」が出た。

「一つ一つ感想を言いたいんだけど……、口頭だと漏れちゃうのもあるかもだから、もらったレターセットに、あの万年筆で感謝のお手紙書くね」

「ん、それは嬉しいな。ありがとう。楽しみにしてる」

「でもあとでお食事の時にでも、覚えている限りだけど、感じた事を伝えるね」

「嬉しいよ」

 佑が微笑むと、周りから小さな悲鳴が上がる。

 香澄は居心地の悪さを覚え、カップに残っていたカフェオレをクーッと飲んでしまうと、コートとバッグを持って立ち上がった。

「い、いこっか」

「ああ」

 伝票を探そうとしたが、いつの間にか佑が手にしていた。

「カードでお願いします」

 何か言う前に佑が清算してしまい、香澄は「うー」とうなって項垂れる。

「ご……ごちそうさまでした。コーヒーぐらい、いいのに」

「逆にコーヒー一杯でも、香澄の誕生日だからこそご馳走させてほしい」

 ポンポンと頭を撫でて微笑まれ、香澄は「もう……」と笑う。

「移動しよう」

「うん。どこ?」

「銀座」

「ザギン」

 思わず一昔前の言い方をした香澄に、佑は軽やかに笑った。



 ホテル前には小金井が運転する車が横付けされていて、佑は後部座席に乗り込んだ。

「おいで」

「はい」

 香澄も佑の隣に座り、助手席に座っている呉代に「こんばんは」と挨拶をする。

 車は走り出し、香澄の二十八歳の誕生日を祝う寿司屋に向かった。



 第十三部・完
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