【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
上 下
839 / 1,559
第十三部・イタリア 編

斎藤の家庭事情

しおりを挟む
「……お、お邪魔します」

 運転席のドアを開けると、新車の匂いがした。
 恐る恐る運転席に座ってみた香澄は、ハンドルを軽く握ってみる。

「……ぶ、ぶーん……」

 運転する真似をしてみると、意外と楽しくなってきた。

「はぁ……。免許取ろっかー」

 取ろう、取ろうと思い後回しにしていて、この年齢になってしまった。

「仕事で遅くなった佑さんを私が迎えに行ったり……。とか、ないか……」

 ありがちな妄想をしてみるが、運転手がいる佑に香澄の迎えは不要だ。
 そもそも、万が一の事があってはいけないので、プロに任せているのだ。

「でも、持っていて邪魔なものじゃないよね。お父さんとお母さんだっていつ運転できなくなるか分からないし。地元に戻った時、私が運転できると何か役に立つ事もあるかもだし。それに、麻衣を乗せてあげたいな」

 札幌にいる親友を思うと、笑顔になる。

 そして麻衣に『いつ東京来る?』と言おうか考え、年末のスケジュールを考えて「あ……」となる。

「ドイツからお二人も来るっていうし、皆で過ごしたら楽しくないかな?」

 うーん、と考え、ポケットからスマホを取り出すと麻衣にメッセージを送った。

『突然だけど、今年の年末(一か月後!)に東京来られない? 佑さんの従兄弟さんも来る予定らしいし、宿は佑さんがうちに泊まってもいいって言ってくれてるんだ。麻衣さえ良ければ……なんだけど。もし駄目だったら、別の機会を考えよう!』

 メッセージを送るだけ送って、香澄はガレージから家の中に戻った。

 リビングダイニングに戻ると、斎藤が尋ねてくる。

「宝探しは終わりました?」

 キッチンからはいい匂いがしていて、シフォンケーキやクッキーが並んでいる。

「何とか全部見つけたと思います。……三十歳とか節目でもない、ただの二十八歳なのに色々贈りすぎです。はぁああ…………、美味しそう」

 香澄は呆れ混じりに笑い、店で出されていそうなクオリティのお菓子を見てお腹をさする。

「御劔さんは、赤松さんが好きで堪らないんですよ。お金持っている男の人って、好きな女性にはついついお財布の紐が緩んでしまいますから。贈り物は笑顔で受け取っておけばいいんです」

「斎藤さんも覚えがあるんですか?」

 尋ねた香澄は、スツールに座って「つまみ食いしていいですか?」とクッキーを指差す。
 それに斎藤は「いいですよ」と頷いてくれた。

「私はフランスで修行していた時に夫に出会ったんです。彼はフランスの名のあるレストランのオーナーで、私と結婚すると決めたあとは、日本に店舗拡大をする事をまず決めたそうです。私が『いつまでもフランスにいるつもりはない』と伝えると、私がいつ日本に戻るか不安になり、そう考えたようですね」

「わぁ、ロマンチック」

 普段、斎藤の私的な話はあまり聞かないため、とても貴重に思える。

「私は最初、いつか別れるフランス人と結婚するつもりはありませんでした。夫が何かにつけてプレゼントしてくれても、『無駄なお金を使わないで』と叱ったものです。そうしたら高額なプレゼントはやめましたが、代わりに花束を渡されるようになりました」

 言われて、香澄は花に溢れたパリを思いだした。

 ホテルの部屋にも立派なアレンジメントがあったし、街角には雰囲気のいい花屋があった。
 老若男女問わず花束を抱え、アパルトマンの窓辺には必ず花があった。

 佑に聞いた話では、日本人でも花屋の研修生スタージュに憧れている人は多いらしい。

「フランスってお花の文化ですもんね。オランダにある、世界最大のお花のマーケットも近いですし」

「ですね。とても美しい所だと思います」

 同じ景色を知っている二人は、微笑み合った。
 そして斎藤は続きを話す。

「最終的に私が三年間の修行を終えて日本に帰る頃には、彼はもうすでに東京に一店舗目を展開していました。『これで一緒に日本に行けるね』と言われた時には、彼に情を移したあとでしたし……」

「旦那さんは、フランスを離れるのを惜しまなかったんですか?」

 香澄の問いに、斎藤は「んー」と首を傾げる。

「彼は経営者ですからね。舌は肥えていますが料理人ではありません。アジア圏に店舗拡大をするのに丁度いいと言っていますし、帰国する必要があれば飛行機に乗れば事足ります。日本での子育てが落ち着いた今、彼は忙しく世界中を飛び回っていますよ」

「なるほど……。ん? でも〝斎藤〟さん?」

「フルネームはオーブリー・斎藤貴恵です。ですが仕事をする時は、日本の名前を使ったほうがやりやすいんです」

「私、初めて斎藤さんのフルネームを知ったかもです。『斎藤貴恵です』というご挨拶は受けましたけど、ご家庭の事とか詳しく知らなかったので」

「ふふ、家政婦があまり主人と気やすくしても……と最初はあまり踏み込まないようにしていたんです。御劔さんとは何年も前から契約していますが、赤松さんがいらっしゃったのはつい最近ですからね」

 オーブンを覗き込むと、中でスコーンがいい色に焼けている。
しおりを挟む
感想 560

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」 三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。 一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。 「忘れたとは言わせねぇぞ?」 偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。 「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」 その溺愛からは、もう逃れられない。 *第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

処理中です...