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第十三部・イタリア 編

ここまで必死だったっけ

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 それから一階をうろうろしたあと、地下に向かった。

「佑さんの作業部屋は立ち入り禁止だから、ないとして……。ワインセラーもない……かな?」

 言いつつ、ワインセラーの電気をパチンとつけて中を覗き込み、「……あった」と呟く。

 そこは巨大なワインセラーを置く部屋になっていて、ワインセラーの中には酒類の他にもチーズやチョコレートなども入っている。

 加えて、ちょっと一人飲みをするために、バーカウンターとスツール、ソファセットもある。

 そのバーカウンターの上に、小さめのショッパーがあった。

「……バッヂ……」

 赤と緑の特徴的なストライプは、まごう事なきバジーリオ・バッヂだ。

「せめてお手軽な物でありますように……」

 もうプレゼントを受け取って、嬉しいのだか申し訳ないのだか分からない。

 とりあえず佑の愛が重たい事だけは分かる。

 黒い箱を開けると、中にサングラスが入っていた。
 そしてバジーリオ・バッヂのメッセージカードに佑の文字がある。

『これから冬になるけど、紫外線はどの季節にもあります。香澄の綺麗な目を守るために、サングラスは何種類あっても困らないので、ぜひつけてください』

「……うん。気持ちはありがたいんだけど……。いや、ありがとう……」

 香澄は自分の部屋にブランド物のサングラスが二十本近くあるのを思いだし、生暖かく笑う。

 ショッパーを持ってシアタールームに向かうと、そこのテーブルにも平たい箱が置いてあった。

「むむ……」

 ソファに座って箱を手にすると、かなりずっしりしている。

(……嫌な予感……)

 そう思うも、予感はズバリ的中していて、出てきたのはまたリンゴのマークだ。

「……最新型のeコミュ……」

 今年の十月に新モデルが出たばかりのスマホ、eコミュニケーションだ。
 おまけに一番大きいサイズな上に、やはり容量も一番大きいと見た。

「……私そんなに容量使わないんだけどなぁ……」

 ブツブツ言いながら、ためしに電源を入れてみる。
 サイドボタンを長押しすると、コスモスレイン社のリンゴマークが出たあとに、ロック画面が出た――のだが。

「ぶほっ」

 大きな液晶にばんっと出たのは、眠っている香澄にキスをしてる佑の自撮りだ。

「なんってものをロック画面にしてるの!? せ、設定!」

 最新機種の使い方はよく分からないが、気が付くとホーム画面になっていて、その壁紙にもう一回噎せた。

 今度は上半身裸の佑が、こちらに色っぽい目を向けて微笑んでいる写真だ。
 逞しい胸板や割れた腹筋がくっきり浮かび上がり、実に興奮し――かけて香澄は我に返る。

「そ、そうじゃなくて……」

「もう……」と言ったあと、すでに入っているアプリを気にする。

 コネクターナウを試しに開いてみると、登録されてあるアカウントは、佑のプライベートと社用アカウントのみだ。

「……ここまでしなくても……」

 私用スマホは二台なくても大丈夫なので、そのうち引き継ぎをしにショップに行かなければ。

「はぁ……」

 画面を設定し直す気力もなくなり、香澄はソファの背もたれに身を預けて溜め息をつく。

 天井を見上げて「困った人だなぁ」と佑の事を思い――、急におかしくなってクスクス笑いだした。

「……おっかしぃ。佑さんってここまで必死だったっけ。いつまで経っても、私を全力で好きでいてくれるんだなぁ……」

 不意に、『男が急に貢ぎだしたらやましい事がある証拠』という言葉を思いだした。

 しかしそれに関してはまったく不安にならない。

「こんなに桁外れの額を貢いでくれる人も、そうそういないよなぁ……。物をもらって満足するのはあんまり良くないけど、ここまで愛されている人は私しかいないって思える。誕生日になるたびにこんなに沢山のプレゼントはいらないけど、本気度は分かったよ。ありがとう」

 香澄はここにいない佑に向かって微笑みかけたあと、気を取り直して立ちあがった。

「……さて、クローゼットと自分の部屋、見てみよっか」

 見つけた〝お宝〟を持って二階の私室に向かい、とりあえずデスクに置く。

 ――と。

「ん?」

 デスクの上に箱があるのを見つけた香澄は、アーロンチェアに腰掛けるとラッピングを開いた。

「んー、万年筆。……わぁ、可愛い。『星の王子さま』だ」

 万年筆は香澄でも知っているドイツの老舗ブランドの物で、ブルーの軸には『星の王子さま』に出てくるキツネの顔が描かれてある。
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